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SEO専門家・辻正浩さんに聞く「AI検索はネットになにをもたらすのか」(01)

今回から対談は新シリーズに入る。

今回のお相手は、SEO(サーチエンジン最適化)の専門家である、株式会社 http://so.la 代表の辻正浩さんだ。

辻さんはSEOと検索サービスの関係を語らせれば、日本有数の専門家。SNSや取材などで筆者ともお付き合いがある。2022年にはインタビュー記事も書かせていただいた。

そんな辻さんに、「ぜひ意見を聞きたい」と思うことが出てきた。それはもちろん「ジェネレーティブAIを使った検索」の可能性だ。Bingの攻勢をどう見ているのか。そして、実際それは、ネット上でのビジネス環境にどのような影響をもたらすのか。

AI万歳ではない、もう少し冷静な視点で話を伺ったのだが、非常に面白い内容になった。今回から5回(もしくは6回)の予定で掲載していくが、ぜひ、ご注目いただければと思う。(全5回予定)

なお、初回分は無料公開されるが、2回目以降はnoteでの都度課金もしくは月額制マガジン「小寺・西田のコラムビュッフェ」ご購読が必要になる。


■チャット検索はネットを「今すぐ変えてしまうものじゃない」

西田:今回は、ぜひ辻さんにお話をうかがいたいと思ったんです。

というのは、いわゆる「SEO」というのはなんだろう、というのがわかりづらいということもありつつ、同時に今、いろんな変化が起きてるじゃないですか。

チャット検索もそうですし、個人のデータの取り方も変わっています。企業の側が、SEOであるとか、個人のデータを使ってユーザーの行動をどう活用するのか、という部分についても、だいぶ状況が変わってきてると思うんですね。

その話をちゃんと専門家の方に伺えるタイミングがどこかにないかなと思っていたら、ちょうど去年、辻さんに取材させていただいた機会もあって。

ならば「そうだ、辻さんに1回全部伺っておくと、クリアになるんじゃないのかな」と思って、今回お願いした経緯です。よろしくお願いします。

辻:よろしくお願いします。

西田:まずですね、やっぱり話題的にホットなところから入ろうと思うんですよ。

チャット検索、どう見ていらっしゃいますか?

辻:本当に、私もあらためていろいろずっと考えておりましたが、本当ジェネレーティブAI自体は本当に素晴らしいと申しますか。世界を変えることは、もうあまりに明白。どうにか育てていかないといけないもので、育つものでもありますし、うまく活用していかないとならないものだとも思ってます。

西田:ええ。

辻:いろいろな形で活用が進んでいくものと思っています。

けれども、検索だけはやはり話が別なのではないか、と私は思っています。

もちろん10年後、20年後になると話は違うと思います。けれども今のこの状況、この直近の部分で、チャット検索が検索を大きく変える、ということはあり得ないのではないかということを考えています。

そもそも、あるべき論で申しますと、「まだ使うべきではない」ということがまずひとつあります。

西田:ええ。

辻:それこそ、10年後とかに市役所で、チャットbotが市民の応対をする、ということはありうると思いますし、そういう方向に進むべきだと思うんです。

でも、今のChatGPTがもしも市役所に置いてあったら、「ふざけるな」で大炎上ですよね。

「検索」って市役所に置かれるぐらい重要なことをやっているものです。リテラシーが高い人でしたらどうでもいいんですけども、リテラシーが低い人も使う、誰でも使うものになってしまっている。市役所を使わないような子供すら使うようになっている。

そういうところでChatGPTのレベルのものを使わせるべきではない。

ただ、これは本当に「検索に融合するべきではない」ということであって。

Bingの方、マイクロソフトのやり方はちょっと、個人的には望ましくないと思っています。

けれども、Googleは、Bardをおそらく検索と分離すると思うんですよね。

西田:ああ、なるほど。

辻:検索にはごくわずかしか入れない形になると思うんです。そういう形であれば、問題はないだろうと思ってます。

例えばGoogle翻訳って誤訳が多いですよね。

西田:多いですね。

辻:医学書とかをGoogle翻訳で翻訳して、致命的な誤りをする可能性ってすごくありますよね。

西田:はい。その通りです。

辻:ただ、それ、まったく問題になっていないですし、それで誤訳になったからと言って怒る人もいない。まあ、笑う人はいても誤訳を怒る人はいない。

それって確かに当然だと思うんです。

同じように、AIもちゃんとGoogle翻訳のように「分かれて」いれば全然いいと思うんです。

ただ子供の体調が悪く、何か検索して海外の医学書からの誤訳が検索結果として出てきたら、それはGoogleが非難を受けることになる。

西田:はい、その通りですね。

辻:そういうふうに信頼性が確実に担保できないものを、検索とは分離してやるぶんにはいいでしょう。まず「べき論」として、やるべきではないと思ってます。

■AI検索を考える「5つの論点」

辻:そして、「べき論」とは別の話として、チャットによる検索が「増えがたい」と考えています。

それには5つ理由があります。ちょっとテキストをお送りした方がいいかもですね。

西田:はいはい。

<辻さんからのメモ>

私見)チャットボットによる検索増加が考えがたい5つの理由

下記理由により、数年中にこれまでの検索行動が減ってChatbotによる検索が大きく増えることはないと考える。

  • ●検索習慣はなかなか変わらない

    • 検索行動はなかなか変わらない。

      • 地名検索が減るのも数年かかった。

    • Googleも過去に様々なUIを用意したが、多くの人は使わなかった。

      • Google以後、部分的に優れた検索機能を持つ検索エンジンが現れても検索シェアは変わってこなかった。

    • 部分的にはGoogleより優れたGoogle Killerと呼ばれた優秀な検索エンジンが多くあったが、どれも殺された。

      • Googleシェアを潰せたのは、百度、Yandex、NAVER、SEZNAM、NAVER、とフルラインナップでネットサービスを押さえた会社のみ。

  • ●ニーズが無い

    • ほとんどの検索語句には、大半はチャット回答は不要

    • 5年ほど前からGoogleは文章での検索に対応したが、(最低でも日本では)文章で検索されるのはごく稀なまま

      • ごく一部の検索が置き換わることはあっても、全体で大きくは変わらない。

        • 大勢が突然検索に「相談」するようになるなど、検索行動自体が変わることがあれば替わり得るが、前述の通りそのような変化はなかなか起きない。

        • 特に日本人は簡潔な検索をしがち

<メモ、ここまで>

辻:まず、検索の習慣。これは悲しいことなんですが、変わってないんですよ。

例えば、昔はみんな渋谷でラーメンを食べようと思ったら、「渋谷 ラーメン」って検索をしてた。これが、2015年ぐらいから、「ラーメン」って検索したら、渋谷の近くにいれば、周辺にあるラーメン屋を出すようになった。

西田:ええ、ええ。

辻:だから、最近は「渋谷 ラーメン」という検索が減って「ラーメン」が増えてきてるんですよ。

でも、ラーメン店の検索ができるようになってから、さらに5年ぐらいかかってそういうふうに「渋谷」を省いて「ラーメン」だけをキーワードにするようになった。

西田:確かに、時間かかりましたね。

辻:Googleは過去にも、たくさんいろんな検索用UIを用意したんですね。

文章検索っていうのも確か2018年……2016年から18年ぐらいにかけて、Googleは「文章で検索できるようになった」ということをアピールして、テレビCMまで打ってたくさんアピールしたんです。

しかし、どのデータで確認しても、日本ではそういう「文章での検索」はされてないんですよね。文章検索できて、実際にいい精度が出るものも多いのに、誰も文章検索しない。

音声検索も、スマートスピーカーがあって便利で機能がいっぱいあるのに誰も使っていない。

西田:うん。

辻:本当に、Googleは、検索にしてもいろんなUIを用意してるんです。

今もSNSとかで「こんな機能があったらいいかな」みたいな感じのことを言われるものの、半分ぐらいは「あ、それは既に過去に1回Googleがやって、誰も使わないからやめたやつだよ」というようなことばかりなんですよね。

検索結果に「いいね」と、アップとダウンをつけるとか。

西田:その通りです。

辻:「Googleサーチウィキ」という機能が昔あったんですけども、それもなくなりましたし。

なにかそういうUI面で、Googleが新しいことをやっても誰もついてこない、という歴史があります。

ですので、今回新しいUIを用意しても、検索ユーザー、最低でも日本人の検索ユーザーはそれを使わないだろう、というのがまずひとつあります。

そして検索のシェアって変わらないんですよね。過去、部分的にはGoogleよりも優れたGoogleキラーって、たくさんあったんですけど、全部Googleに殺されちゃった。

西田:うん。

辻:Googleのシェアを潰せた検索エンジンって、おそらく世界に4つだけだと思うんです。Baidu(バイドゥ)、ヤンデックス、ネイバー、あとSeznamというチェコスロバキアのもの。その4つぐらいしか、ちゃんとGoogleが対応してる国で思いっきり潰せたのはないと思うんです。

そしてそれは、どれも検索ではなくて、メールから何からすべて、ネットのフルラインナップサービスを提供している。そういうものだけが、検索のシェアを取れてるんですよ。検索の機能だけでは検索ユーザーは変わんないんですよね。

■辻さんに「間違ったプロフィール」をつけたBing・チャット検索

西田:なるほど。

その辺って非常によくわかるんですよ。

で、一方で、これは話をいくつかレイヤーに分けて語っていったほうが多くの方にとって分かりやすいかなと思う点もあります。

まずひとつが、「検索」という行動――実はチャット検索って別に検索そのものが本質ではなくて、あれはUIが変わっただけだと僕自身は思ってるんですよね。見せ方、検索の仕方も変わったし、その検索した後の結果の出し方も変わった、というところがジェネレーティブAIで変わってるだけで、検索の本質が変わったわけじゃない、というのがまずあります。

その上で、Bingにチャット検索が入っても、今はBingのクオリティが低すぎるので、ちゃんとした検索結果が出てこない、という大きな問題がある。

要はGarbage in Garbage out(ゴミを入れてもゴミしか出ない)になってるので、必ずしも良い検索になってない。

辻:はい、おっしゃる通りです。本当にその通りだと思います。Bingは本当に悲しいところですね。

西田:その辺がほら、辻さんがご自身のことを検索して、「前科があります」みたいな結果も出てきちゃってた。もちろん、そんな事実はないわけですが。

これも、結局それは元々のジェネレーティブAIの問題というよりは、検索ソースの問題、というふうな捉え方を僕はしたんですよね。

辻:はい。

西田:結局も元の検索結果からジェネレートされてしまってしまうので、ああいう誤解を与えるような検索結果が出てるということなんだと思うんですけども。

辻:はい。正直、あれは私がツイートをしなければすぐに消えたものだと思うんです。笑い話として紹介したつもりだったんですが。

実は「前科」として現れた根拠はそれこそ、西田さんが書かれた私の記事なんです。

あの記事をソースに、私に前科一犯がついたんですよ。

西田:えっ。そうなんですね?

辻:はい。ソースとしてはあの文書の記事が提示されてました。ツイートの前まではですね。その辺りから考えても、私のあの件については、チャットとしての性能もあるだろうなと。

西田:うん、うん、なるほどなるほど。

辻:けれども、全般的には、Bingのように、元々の検索品質の課題はあると思います。

<次週につづく>

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