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100日後にデビューするYouTuberを見つけたので盗撮してみた #34

あの日、たつやの家庭的な事情を丸山はつかんだ。詳しい話は会ったときに、となっていたためその詳細を私は知らない。
そういった意味では本日こうして会えたことは都合が良かったかもしれない。

しかし。
私はこの後一人で行くつもりの場所があった。ホームレスのシゲルと別れた後はそのことで頭がいっぱいで、一直線に目的地へ向かっていた。
そこに丸山からの連絡が来たわけだ。

私は、自分の予定していた行動に対し急な変化を好まない。だから丸山も目的地へ連れて行くことにした。正直、邪魔であるにも関わらず、だ。

「ここや」

その店はなんばマルイ1Fにある。
普段丸山と行く店などパチンコ屋か大衆向けの飲食店くらいだ。そんな彼と、私はタピオカ屋の前で足を止めた。
店の内側から、入れまいと押し返されるような重い風を感じる。おっさんがニ人で来るような場所ではない。当然だ。違和感をビンビンに浴びながらも、強く進んだ。

「店の名前なんて読むんすか?」

「『ゴンチャ』や。黙れ」

ここのミルクティーにハマっていた。メニューは豊富で、トッピングやお茶の葉を選び自分好みにカスタマイズできるのも嬉しいし楽しい。
今日はどんなカスタムにしよう? と、週に一度の『ゴンチャ』通いをこっそりと生きがいにしていたが、どうやらそれも今日までだ。

横では既に丸山がピーチクパーチクと騒いでいる。私とタピオカの組み合わせの、何がそんなに愉快なのか。どうやら頭がイカれたらしい。可哀想な男だ。
これどうやって頼むんですか? とアホ面で訊いてくるその男を無視し、スマートに注文を済ませた私はサッサと空いている席に着いた。

客はいつ来ても若い女性か、カップルが多かった。
が、中年男性が一人で席に着いている光景も割と珍しくない。おそらくこの店がマルイの中にあるからだろう。
おかげで私一人だとそう目立たないため、普段は気兼ねなく『ゴンチャ』を楽しめた。

なのに、とまだ注文にもたつく原始人のような男を私はチラりと覗く。
牛乳入ってますか? と店員に訊ねる声が聞こえ、すぐに目をそらした。

「ミルクティーや言うねん…」

鞄から取り出した文庫本のページをめくりながら、思わず呟く。

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