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100日後にデビューするYouTuberを見つけたので盗撮してみた #13

進展があったのは四日後の昼間、電車で移動中のときだった。私は『GOTH』という小説を電子書籍で読んでいた。
ササノからLINEがきた。来週会議室を借りたいとのことだった。

おお、と思い知人に空き状況を確認した。
貸せる旨の返事を受け、すぐにササノに返信したあと、再度知人とのトークルームを開いた。

『よかったわ、このまま連絡なかったら全部終わりやった』

『ほんまですねw また編集頑張ってください!』

知人は私の高校のときの後輩で、名を丸山といった。彼は私のチャンネル登録者の一人だ。

『早く次の動画観たいです!』

動画編集を学んではいたが、実際に自分のつくったものを公の場に発信するのは今進めているYouTube投稿が初めてだった。
ササノ達を炎上させる目的を持つ一方で、動画単体に対する評価も気にしてはいた。
知り合いとはいえ、自分のつくる動画を楽しみにしている人間がいることは素直に嬉しい。
私は後輩に対し親子丼のスタンプで返事した。

翌週の撮影日当日、私はいつもと同様ササノ達が来る前に部屋に入った。物の配置や画角を考え、隠しカメラを仕込もうと鞄を開く。

「うわ。これ、やったわ俺…」

鞄にカメラが入っていなかった。嘘みたいな凡ミスに、嘘であってくれと願いながら鞄をひっくり返す。

「マジ…?」

目的の物は出てこない。ササノ達が来る20時まで15分を切っていた。カメラを取りに戻る余裕は当然無い。久しぶりの機会だ。これを逃すと次はいつになる? 焦りが加速していく。

「いや、絶対入れた絶対入れた」

言い聞かせながら記憶を辿り、また空っぽの鞄を見る。何度も確認したはずのポケットをすべてチェックし、結局「ええ…」と舌打ちする。

20時まで10分を切っている。彼らが時間ちょうどに来るとは限らず、早ければ数分以内には来るだろう。
部屋をぐるりと見渡した。モニター横の棚にぬいぐるみが並んでいるのを見つけ、視線を留める。
二回息を吸った。
放り出した物を急いで鞄に片付ける。
iPhoneのロックを解除し、設定画面を開いた。LINEやその他よく使うアプリの通知をすべてOFFにし、通話機能も切った。続いて電話帳を開き、電話をかけてきそうな人間をすべて着信拒否する。念のため音量を0にし、バイブも切った。
カメラ機能を起動した。録画モードで撮影を開始し、iPhoneをぬいぐるみの裏に隠す。隙間からレンズが覗くように設置した。細かい調整をする時間は無かった。電気を消す。部屋を出る。

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