見出し画像

100日後にデビューするYouTuberを見つけたので盗撮してみた #42

「え、どうしたらいいん?これ」

タバコを一本吸い終わった。吸っている間に何か良い案を思いつくだろうと5分後の自分に期待したが結局今の私は5分前の私と同じ私だ。何の変哲もなく、つまらない。無能で、思考できない動物で、時間を捨て、肺を汚し、5分老けただけで何をしているのだろう。恥ずかしく、その恥ずかしさを誤魔化す手段さえ思いつかない。誰かこの無様な豚にトマトでも投げつけてくれないだろうか。

とりあえずここにいても仕方がないので再度入店した。
携帯をいじるフリをしながら中央通路を歩く。ディスクアップコーナーの前を通るとき、チラリと丸山の方を見た。
隣にはたつやがいる。その彼が自分の台を指差し、丸山に何やらアピールしていた。
おそらくボーナスを引いたのだ。ボーナスを引いた場合、いつもと同じ図柄を狙い、いつもと同じタイミングでボタンを押してもその図柄の位置がずれて止まったりする。
あと数回回せば液晶画面にもボーナス確定の告知がされるのだが、リールの出目を把握しておけば告知前にボーナスを察知することができる。ディスクアップとはそういう台だ。
今はまさにボーナスが確定した、という状態なのだろう。

バー止まれ、と思った。
ボーナスは確定しているが、ビッグボーナスなのかレギュラーボーナスなのかはリールを止めてみるまでわからない。
"バー"とはレギュラーボーナスの通称だ。コインの獲得枚数はビッグボーナスの半分以下となる。
私はそのショボい方のボーナスを瞬間的に願った。

たつやのリールは「777」と止まり、遊戯台に派手な音楽が鳴り始める。ビッグボーナスだ。
たつやは小さくガッツポーズし、それを見ながら丸山は笑う。

私は中央通路を来た方向へ戻り、車を停めた立体駐車場へ向かった。
今たつやのいる場所にはいつも自分がいた。私は何かあっても丸山にアピールすることはなかったが、彼は私の台を見て勝手に興奮したし、勝手に落胆した。
私が台を移動すると丸山も付いてきた。
打ちたい台が空いていても隣が空いていなければ私はその台を諦めなければならなかった。
コーヒーをいつも奢らされた。負けた彼を慰めなければならなかった。ここ一番のときレバーを叩いてあげなければならなかった。投資が嵩んだ彼を止めてあげなければならなかったし、勝ったときはそのときの展開を延々聞いてあげなければならなかった。
面倒臭いことが多かった。しかし彼の隣は不思議と居心地が良く、嫌いにはなれなかった。

エレベーターに乗りながら先ほどの二人の様子を思い出す。車に乗り込むまでその光景は頭から離れなかった。運転席の扉を閉め、ふうっと息を吐く。
私はいったい何をしに来たのだろう。
自分に呆れ、それが気持ちを切り替えるスイッチかのように車のキーを回した。電話が鳴る。丸山からだった。開口一番彼は言った。

「どこ行くんすか?」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?