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100日後にデビューするYouTuberを見つけたので盗撮してみた #20

「目押しミスりまくってたら、たつやの方から話しかけてくるやろ、てことやったんですよね?」

「そうそう」

パチスロ『ディスクアップ』という台はビッグボーナス中、派手な演出で目押しのタイミングを知らせる。演出が派手なため、嫌でも周囲に伝わってしまう。
目押しに成功すると気持ちの良い効果音が鳴り、当然それもまた周囲に伝わる。
ユーザーはそのとき「オラァ」と思う。
心の中で、周囲に対してドヤってしまう。

そうして『目押し』に注目が集まった台のため、人気が出るにつれディスクアップは目押しができる人じゃないと打ってはいけないようなイメージが広まった。
事実、客層は目押しが得意なユーザーたちに絞られ、彼らはいつしか『ディスクアッパー』と呼ばれるようになった。
多くのディスクアッパーたちは、我こそはディスクアッパーなり、とイキり倒しながら遊戯した。

その時代が一周し、今ではようやく目押しが得意でないユーザーも増えた。『目押し』のイメージが強いせいで隠れていた、パチスロ台としての純粋な面白さにみんなが気付き始めたのだ。

だから、ディスクアッパーの隣で素人ユーザーが打つことも今や珍しいことではなかった。
ただし、素人なので目押しはやはりミスする。
そんなとき、横にいるディスクアッパーは何を思うか。

「やってあげよか?って思っちゃいますもんね。下手くそやったら」

「そう。でも中途半端にできる奴やったら逆に『失敗しろ』て思うやろ? 特に丸山君みたいなタイプは」

「僕めっちゃ思うっす。わざとそいつのこと見ますもん。プレッシャーかけるために」

「だからオールミスして、て言うてん。まったくできへん奴ってちょっと可哀想やん」

「たつやに可哀想って思われたら、向こうから話しかけてくるやろうと」

「まあワンチャンあるかなと。そうならへんかっても丸山君なら自分から話しかけると思ったし」

「はい。結局そうしましたしね。でもたつやがディスクアッパーってなんで分かったんすか? もしかしたら今日が初打ちやったかも知れんのに」

「座って打ち始めたとき、あいつ順押しでバー狙っとったやろ」

左から、真ん中、右、の順にボタンを押すことを『順押し』という。最もノーマルな打ち方だが、遊戯台によっては真ん中から押す『中押し』や、左、右、真ん中の順で押す『挟み打ち』を基本の打ち方として推奨する台もある。

ディスクアップは『挟み打ち』で、左リールに赤色の『7』図柄を狙ってくださいとメーカーは推奨していた。
つまり、素人ならそれに従う可能性が高いのだ。
しかし、たつやは『順押し』で黒色のバー図柄を狙っていた。これは慣れた人間の打ち方だ。

「よう見てますね」
「よう見てんねん」

で、と私は話題を切り上げる。丸山はたつやとの接触に成功した。彼とどのような話をして、その関係は今後どうなりそうなのか、私が気になるのはそこだ。

「良い情報ありますよ」

丸山はニヤリとし、私の反応を窺う。

「ほんまに良い情報なら牛丼奢るわ」

「言いましたよ? たつや、あいつね、ボートチャンネルやりたがってます」

まったく予想していなかった話がいきなり飛び出し、少々面食らった。

「…ボート? 競艇?」

丸山は頷く。
さて、それが本気だとしたら彼らは今後、どういった展開を迎えるだろう?

「丸山君。玉子と豚汁も付けてあげる」

考えた末、私は言った。うし、と拳を握る丸山の横で、ある想像が止まらなかった。

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