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100日後にデビューするYouTuberを見つけたので盗撮してみた #18

意外やな、と私は丸山に向かって小声で言う。たつやのスーツ姿についてだ。
どんな仕事をしているかは知らないが、どちらかというと土木関係や引っ越し屋などの、力仕事を生業にしていると勝手に思い込んでいた。

「あの人ラーメン屋ちゃうんすか?」

丸山は丸山で私とはまた違ったイメージを持っていたようだが、スーツ姿に対しては同じく違和感を抱いたようだ。

「てか、来るの知ってたんすか?」

私は首を振る。
店内の壁はガラス張りになっており、外の駐車場と隣にある大きなパチンコ屋が見えた。先ほど丸山が愚痴をぶちまけているとき、私は窓の外を眺めていた。
そこに、突然たつやが現れた。彼は店の入り口の方へ歩いて行き、間もなく入店してきた。

おいおい、と動揺したがこんな千載一遇のチャンスを逃す手は無い。頭をフル回転させ次にとるべき行動を考えた。
いつかたつやにも接触を図るつもりではいた。
問題はタイミングだった。果たしてそれは、今だろうか。
仮に今だとしたら私は、「ササノさんとYouTube…」とササノの名前を出すだろう。じゃないと話しかける理由が無いからだ。

それでいいのだろうか?
いや無理や、とすぐに結論した。
私がたつやの容姿を覚えているのは、盗撮映像を毎日のように観ているからだ。実際に会ったのは電車の中での一度だけだし、そのときは一方的に私がたつやを見ただけだ。認識し合っていないため、急に「あの時の…」と話しかけても困らせるだけだろう。
それでどうやって彼がササノの相方だとわかるのだ。

どうしたものかと考えているとき、偶然目の前に、冷めた天津飯をフーフーしながら口へ運ぶ変な人がいた。一口水を飲み、こいつか、と思ったわけだ。

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