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1ドル100円で買う方法ーいまさら聞けない外国為替の話ー

ガソリン1ℓ40円で買える場所

「ピザーラ、おとどけー」
テレビからCMが流れてくると無性にピザが食べたくなることがある。
世の中、便利になったものだ。
スマホで選んで注文するだけで、家まで届けてくれる。

2枚買おうとして衝撃の事実に気づくのは、僕だけではないだろう。店舗に行けば2枚目が無料になるのである。たしかに、ピザーラにしてみれば、店舗で渡した方が圧倒的にラクだ。

かっぱえびせんでも、ディオールのトートバッグでも定価がつけられている商品は多い。管理しやすくするためにも、日本中どこの店舗で買っても価格は同じ。しかし、現実には受け取る場所によって輸送費は変わる。
価格が変動しやすい商品は、輸送のコストも価格に反映させていたりする。たとえば、ガソリンなんかは、長野県などの内陸部の方が高くなっている。原油は海外からタンカーで輸入しているので、原油からガソリンを作る精油工場は海沿いに作られる。工場から遠い場所で売るためには輸送コストがかかるのだ。

では、原油を産出する国まで行くとどうなるか。ネットで調べてみるとクウェートだと0.26ドルで買えることがわかった。たったの40円である。
それが日本にくるまでに価格が変わってしまう。そこには輸送コストだけでなく、クウェートが対外的に売る場合に乗せている儲けもあるし、日本で売る場合にかかるガソリン税などの税金もある。その結果、東京では1ℓ180円にまで価格が上昇する。

価格を決める場所と時間

本来、商品価格というのは受け取る場所によって変わって当然だ。
「原油価格が1バレル100ドルを突破しました」というニュースが流れるとき、この原油もどこで引き渡されるのかが決められている。
原油価格として参照されるWTI原油先物は、オクラホマでの受け取りが条件になっている。詳しくは知らないが、その他もっと詳しい受け渡し方法も決まっていたはずだ。

そして、場所だけでなく時間も指定されている。
せっかく高いお金を払って原油を買っても、「在庫がないので、入荷したらお知らせしますね」では困るのである。

刻々と取引価格が変動するような商品は、場所と時間が指定されている。では、ドルやユーロなどの外国為替はどのように指定されているのだろうか。まずは外国為替市場の基本的なところから話していこうと思う。

ユアーズとマイン

経済ニュースで、こんなフレーズを聞いたことはないだろうか。

”本日の日経平均株価の終値は3万2402円41銭、外国為替市場は1ドル148円33銭〜35銭です。”

株価とともに、為替は、金融市場で働く多くの人が気にしている価格だ。

ところで、この”〜(から)”とはなんだろうか?株価の端数は、潔く41銭なのに対して、為替は33銭〜35銭とあいまいである。

日経平均株価の終値は、基本的に、取引所が閉まる午後3時に最後に取引された価格をもとに計算されるので価格は一つに決まる。ところが、為替市場は常に取引されている。
148円33銭〜35銭というのは、148円33銭で買いたい人と148円35銭で売りたい人がにらみ合っている状態だ。

僕も、某ゴールドマンサックスで金利のトレーダーとして働いていたとき、為替も取引することがあった。
たとえばドル円の為替市場が148円33銭〜35銭という状況で、いますぐドルを売りたいなら33銭で売るしかない。そういうとき、社内の為替トレーダーに「33銭でyours(ユアーズ)」と言ったりしていた(今ではほとんど電子化されているから、パソコンでクリックするだけだ)。

この場を借りて、ひとつ説明させて欲しいことがある。
上の文章を読んで、「ユアーズって何カッコつけているんだよ。普通に日本語で喋れよ」と思った人もいるだろう。社内でもそう思っていた人はいたと思う。これはカッコつけているわけではなく、間違いを極力減らすためだ。

『33銭で売って』という表現だと、自分が33銭で売りたいから市場で執行してほしいとお願いしているのか、為替トレーダーに対して33銭で売って欲しいとお願いしている(つまり、自分は買いたい)のか、区別がつきにくい。
それに対して、『33銭でユアーズ』だと、ユアーズつまり”あなたのもの”だと言っているので、自分が売りたい側だということが明白になる。
刻々と価格が動く中で、取引するのでなるべく短く確実に伝わる方法がよいのだ。

ちなみに、買う場合は「mine(マイン)」という。
作家の幸田真音(こうだまいん)さんの名前の由来が、「買うた、mine(こうた、マイン)」であるのは有名な話だ。

さて、この外国為替市場で想定さている受け渡しの場所と時間は何なのか。
最近になって市場の慣行が変わったのだが、ここには深い理由がある。
リーマンショックのとき、ゴールドマンは外国為替を”半分”しか取引でいなかった。その”半分”が致命傷になりかけたのである。

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お金や経済の話はとっつきにくく難しいですよね。ここでは、身近な話から広げて、お金や経済、社会の仕組みなどについて書いていこうと思います。 …

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