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なぜ、灘高生の志望する会社はリストラにあうのか


対岸ならぬ階下の火事

先週、イーロンマスクがツイッター社の人員削減に手をつけた。世界中にいる7500人従業員のうち、とりあえず50%を解雇する計画らしい。Facebookを運営するメタ社も1万1000人以上の人員を削減すると発表した。
現在、SNS業界ではリストラの嵐が吹き荒れている。

2008年、同じ嵐が金融業界に吹き荒れていた。
その年の9月中旬に起きたリーマンショック。アメリカの投資銀行、リーマンブラザーズが倒産した。全世界で2万人以上の社員が働いていた。
ツイッター社の50%どころじゃない。突如100%の人々が職を失ったのだ。

同じく米系投資銀行のゴールドマンサックスで働いていた僕にとっては、対岸の火事なんかではなく階下の火事だった。燃え移るのは時間の問題だ。
文字通り、六本木ヒルズに東京支店のオフィスを構えるゴールドマンの階下にリーマンの東京支店はあった。ヒルズ周辺で悲壮感のただようビジネスマンを数多く見た。

金融業界全体にも悲壮感、というより絶望感がただよっていた。ゴールドマン自体の破綻は乗り切ることができたようだが、1、2ヶ月後経ったころ、リストラが始まった。次々に人が減らされ、同期も辞めて行った。

リストラされる”ぬるま湯”

全体の2、3割が人員整理されたと聞いたが、体感は5割くらいだった。かろうじて僕は会社に残ったのだが、当時は毎日クビを覚悟しながら出社していたのを覚えている。

この時ばかりは、忙しいことは嬉しかった。金融市場は、いつもの10倍以上の激しい値動きが起きていたし、リーマンブラザーズが消えて金融契約が消滅した会社のために、連日ポジションの再構築のための取引をこなしており、トレーディングデスクは相当忙しかった。

それまでいかにぬるま湯につかって仕事をしていたのかを思い知った。日々の仕事をなんとなくこなしていれば、いい給料がもらえるものだと信じ切っていた。今回、ツイッター社のリストラの話を聞いて、彼らもまたぬるま湯につかっていたのだろうと容易に想像できたのだ。

そして、心地よい湯船は沈没していることが多い。そういう会社を見分ける簡単な方法がある(たぶん)。

就職活動における炭鉱のカナリヤ的な存在がいるのだ。

生き残るカナリア

炭鉱のカナリア
炭鉱のカナリアは、何らかの危険が迫っていることを知らせてくれる前兆をいいます。これは、炭鉱で有毒ガス(危険)が発生した場合、人間よりも先にカナリアが察知して鳴き声(さえずり)が止むことから、その昔、炭鉱労働者がカナリアを籠にいれて坑道に入ったことに由来するそうです。

https://www.ifinance.ne.jp/glossary/souba/sou339.html

入社1年目の2003年から新卒採用を手伝っていたのだが、2006年くらいから灘高卒東大生の志願者が著しく増え、20人くらいいた年があったのを覚えている。一学年が200人程度の高校だから、いかに多いかがわかるだろう。

灘高生はコンサバで分析好きな人間が多い。少なくとも僕の周りの世代には。つまり、彼らがこぞって応募してくるということは、ローリスクハイリターンな会社と認識されていたことを表しているだろう。事実、90年代後半からしばらく投資銀行の好調な業績が続いていて、リストラがほとんど行われていなかった。

彼らが行きたがる会社こそが、危機意識の無い社員にぬるま湯を提供している会社だ。おそらく、今のSNS業界も灘高卒の志願者が多いんじゃないかと勝手に推測している。

誤解のないように付け加えると、灘高生がぬるま湯に浸かって働かないという意味ではない。彼らのほとんどはそつなく仕事をこなして活躍している。リストラがあっても生き残ることが多い。生き残るカナリヤだったりするのだ。

日本沈没

ぬるま湯の会社が沈没する理由は簡単だ。会社に入ること自体が目的になっている人たちが入社するからだ。
「何千人との競争に勝って狭き門の会社に入れた人が、いい給料をもらえるのは当然じゃないですか」
こういう考えの学生が平気で存在する。

こんなこともあった。
ゴールドマンでの新卒採用の個別面接に、会社幹部の御子息がやってきた。「父は、毎日夕方くらいに帰ってきて家族との時間を大事にする。僕も勤務時間が短くて給料のいい会社で働きたいんです」

あまりにも正直に話してくれたので、僕も正直に話した。
「お父さんは儲けるスキームを作って会社に貢献したから、そういう働き方ができるんです。会社はあなたを養うために存在しているんじゃないので、養ってもらいたいならお父さんに養ってもらってください」

会社は社員を養ってくれる組織ではない。社員が与えられたことを適当にこなして、会社の業績が伸びるはずはない。先人たちの残したスキームでしばらくは稼ぐことができても、そんな状態では会社が長続きすることはない。
やがてリストラの嵐がやってくる。そこで初めて、会社が社員を支えるのではなく、社員が会社を支えないといけないことに気づく。かくいう僕もリーマンショックを経験して気づいた。

繰り返しになるが、心地よい湯船は、間違いなく沈んでいる。

これまでの例は外資系の会社だったが、日本には、一度入ってしまえば一生安泰の企業がたくさんある。心地よい湯船でも沈まない会社があるじゃないか、と思う人もいるだろう。
そういう会社は、相当な既得権益をエンジョイしてる会社だ。

会社自体はすぐには沈まないが、そういう会社のせいで日本全体が沈んでいる気がしている。


(おまけ)
「炭鉱のカナリア」を調べようとして、誤って「灘高生 炭鉱のカナリア」とGoogleで検索した。
そしたら、なんと僕のことを紹介する記事がトップに出てきた。なんでやねん。。。

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