Photo by inagakijunya 小説「きみのお金は誰のため」ー預金という金融最大のトリックー 80 田内学 2023年10月17日 01:19 <この投稿は、小説「きみのお金は誰のため」を読み終えた人向けです>小説「きみのお金は誰のため」の第5章では預金と借金の関係について、説明しています。P181 13行目からP182 9行目までの部分です。本書では、3人の議論の内容をダイジェストで紹介していましたが、実は、以下のような会話がなされていました。政府が借金をして使ったお金は、消えてしまったわけではない。今も誰かが保有しているとボスは言う。たしかに、そうかもしれない。優斗は軽くうなずいて、テーブルに置かれたペットボトルのお茶に手を伸ばした。鏡面仕上げのテーブルに、向かいに座るボスの顔が映る。相変わらずの笑顔だが、少し歪んでいるようにも見えた。優斗がお茶を口にふくむと、ボスの話を後押しするように七海が説明を加えた。「おっしゃるように、個人や企業が銀行に預けているお金は1400兆円以上あります」彼女は、ソファに浅く座り、いつものように背筋をピンと伸ばしている。「ええところに気づいたわ」ボスが指揮者のように右手の人差し指を振り上げる。「預金は借金の裏返しなんや。預金という言葉には金融最大のトリックがあるといってもええやろ」大袈裟な表現が優斗の耳に引っかかった。「金融最大のトリック…ですか?」「そうや。たとえば、優斗くんがお正月にお年玉をたくさんもらって、10万円をお母さんに預けたとしよか。もしもお母さんがこの10万円でバッグを買っていたら、どない思う?」「えっ、それは怒りますよ。なんで勝手に使っているのか意味わかんないし」「そりゃ怒るわな。預かると言われたら、保管していることを普通は期待する。せやけど、これがお金を貸しているんやったらどうやろか?」「だったら、怒らないですよ。何に使おうと自由ですから」「お母さんがやったことは、実は銀行がやっていることと同じや。銀行も預かったお金を勝手に使う。預金というのは、銀行にお金を保管してもらうことやなくて、お金を貸すことや。ちょっと実験してみよか」ボスは、横に置いている黒いレザーバッグから100万円の札束を取り出して右手に握った。これまでも札束が飛び出てくることが何度かあったが、病室にまで持ってきていることに、優斗は驚きを隠せなかった。「えっ。何の実験するんですか?」「預金を増やす実験や。ここで、僕が一泊100万円のホテルでも営んでいるとしよか」優斗は首を動かして、あらためて周りを見回した。家具や調度品をみるとさながらホテルの一室のようにも見えてくる。特別室だけあって、病院とはいえ、高級感が漂っていた。「さて、優斗くんはお客さん役で、七海さんは銀行役や。この時点では、僕も七海さんもお金はもってへん。優斗くんだけが100万円を持っているんや」そういうと、ボスは優斗の前に、札束をポンと置いた。「ある日、優斗くんが僕のホテルに泊まりにきて、100万円支払うんや。そして、僕はその100万円を銀行に預ける」ボスは説明しながら、札束を動かした。優斗の前にあった札束は、宿泊料としてボスのところに移り、預金として七海に渡された。ボスは一人で話し続ける。「次の日になって、もう一度このホテルに泊まりたいと思った優斗くんは、今度は銀行から100万円を借りたんや」貸し出された札束がボスの手によって、優斗の前に戻ってくる。「これで、元の状態や。優斗くんの所持金は100万円に戻った。そして、僕には100万円の預金がある。銀行は100万円を僕から借りていて、100万円を優斗くんに貸しているから、差し引きチャラや」「でも」と優斗は言いかけたが、すぐに続いたボスの言葉によって上書きされた。「ここで、優斗くんは2泊目の100万円を払う。僕はまた預金して、優斗くんはまた100万円を借りるんや」再びボスは札束を3人のあいだで一周させて、優斗のところに戻した。「これで、優斗くんの所持金は100万円にもどった。そして僕の預金は200万円に増えた。これを繰り返していけば、全体のお金はどんどん増えていく。みんなハッピーや」ボスはニヤッとした顔で優斗を見つめてくるが、優斗には納得がいかない。「待ってくださいよ。それを繰り返したら僕が困りますよ。借金がふくらんじゃうじゃないですか。すでに2回借りたから200万円も借金しているんですよ」すると、待っていましたとでも言わんばかりに、ゆっくりとボスはうなずいた。「それが、預金が増えるってことなんや。150兆円しか紙幣が発行されていないのに、預金が1000兆円を超えているってことは、それだけ借金が増えているってことなんや。これが、預金が増える仕組みや。七海さんも納得してくれたやろか?」「つまり、おっしゃりたいのは、貸し借りだけが増えているだけなんですね。日本の預金が1000兆円以上あるのも、その裏には個人や企業、政府なんかの借金があるということですね」「預金という言葉にだまされたらあかん。預けてるんやなくて、貸しているだけなんや。そのお金を銀行はさらに貸している。全体の預金が増えているというのは、単に貸し借りが増えているだけのこと。それが金融最大のトリックや」今後も更新していきますので、無料のマガジン登録お願いします。 「きみのお金は誰のため」読者専用マガジン|田内学|note 小説「きみのお金は誰のため」を読了した読者に向けて、本書では書き切れなかった話、イベント情報などを提供していきます。 note.com ダウンロード copy #銀行 #借金 #預金 #きみのお金は誰のため 80 この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか? 記事をサポート