「売れている本が売れる」書籍販売のウラ話
数字の奴隷
「数字に振り回されてはいけない。自分のモノサシを持つべし」
これは、講演などでしばしば僕が使っている言葉だ。
お金に振り回されちゃいけないし、”いいね”の数に振り回されちゃいけない。自分の幸せ、生きる目的は何かを考えて欲しいというメッセージである。
しかしながら、数字に振り回されない方法を僕に聞くのは、どうかやめてほしい。
いったい、僕を誰だと思っているのだろうか?僕ほど、数字に振り回され続けている人間も逆に珍しいくらいだ。
筋金入りである。
むしろ、数字の奴隷といってもいいだろう。
「数字に振り回されてはいけない」というのは、僕自身の願望でもある。
受験では常に順位と偏差値を常に気にし、東大時代はプログラミングコンテストの順位を上げることに執念を燃やし、社会人になって16年働いたゴールドマンサックスでは、毎日毎日PL(ポートフォリオの収益)を計算しては一喜一憂し続けてきたのである。
本を書くようになった今でも、その習性は変わらない。変われるはずがないのである。常にいろんな数字を気にしている。
Amazon売れ筋ランキング
本がどれくらい売れているのか。
本を書いたことがある人なら誰でも気になるところだろう。世界一短い手紙も、まさにその内容だった。
フランスの文豪ビクトル・ユーゴーは小説「レ・ミゼラブル」の出版後に本の売れ行きを出版社に「?」とだけ書いて問い合わせ、出版社が「爆発的に売れています!」という意味で「!」とだけ返信したのは有名な話だ。
今の時代、出版社はPOSデータなどで売れ行きを知ることができる。すべての書店のデータを見ることはできないが、ある程度は把握できるようだ。その数字を追うことで、新聞広告や各種メディアで紹介されたときの効果などを推測することもできる。
しかし、出版社じゃないとその数字は見れない。では、どうすればいいか。書籍ランキングマニアの人たちに僕がおすすめするデータは2つある。
一つはアマゾンの売れ筋ランキングだ。このデータはだいたい3時間ごとに更新され、リアルタイムに近い動向を把握できる。
この記事を書いているこの瞬間、『きみのお金は誰のため』は総合34位、『お金のむこうに人がいる』は総合1715位だ。この総合ランキングの中には、東野圭吾さんの小説やMEGUMI さんの美容本などあらゆるジャンルの本が含まれている。上位100位まではランキング表記される。
順位に関しての詳しいアルゴリズムはわからないが、単純に過去3時間の売れた数ではなく、重み付された移動平均を使っているようだ。だから、数時間だけ売れてもそんなに順位が上がることはない。
だいたいの目安として、100位に入るには、毎日50-100冊くらい。10位に入るには毎日200冊以上売れる必要がありそうだ。1位になるには最低でも500冊といったところだろうか。
一概に言えないのは、タイミングによるからだ。
人気アイドルの予約開始日などは、1000冊でも1位になれないかもしれない。毎日ランキングを見ているとわかるのだが、爆裂人気があるのは羽生結弦さんだ。本が出るたびに総合1位になっている印象がある。
「売れている本が、売れる」の意味
このAmazonや楽天などのネット通販で売れる書籍と、リアル書店で売れる書籍は必ずしも同じではない。
たとえば、テレビや雑誌、新聞などで紹介された本は、ネットでもリアルでも売れるが、SNSやネット記事で紹介された本は、そのままワンクリックでネット購入されるケースが多い。
逆に、リアル書店で購入される書籍は、売れている本である。
「売れている本が、売れる」
トートロジーのようだが、そうではない。他の人が読んでいる本を、みんな読みたがるのだ。これは業界の鉄則のようだ。
書籍を読むには、お金だけでなく時間もかかる。せっかく時間を使って読む本がハズレだったら困るから、発行部数が多い本を買いたがる心理があるようだ。
そのため、書店にならぶ本の帯には、10万部突破、20万部突破という数字が踊る。なるべく数字を増やしたいものだから、各社あの手この手を使う。よく見ると、その書籍単独ではなく「著者累計100万部突破」だったり、「シリーズ合計50万部突破」だったりする。
書店にとっても、せっかく場所を使って平積みで売るのであれば、売りやすい本を置きたいという心理も働くだろう。これについては、書店によってスタンスが異なる。「売れている」本をなるべく平積みにする場合もあれば、「書店員さんが売りたい」本を平積みにする場合もある。
このリアル書店での売り上げを調べるデータとして僕が見ているのは、トーハンのランキングである。
トーハンランキング
さきほどのAmazonの売れ筋ランキングがは、3時間ごとに更新されるが、トーハンのランキングは、1週間ごとに発表される。
トーハンというのは、「取次」と呼ばれる販売会社で、書籍や雑誌などの出版物を出版社から仕入れて小売書店に卸売りする役割を担っている。
日本の取次の8割のシェアを握るのが日販とトーハンだ。トーハンは総合順位だけでなく、ビジネス書などカテゴリ別の順位を毎週公表している(カテゴリ別は、総合ランキング下にリンクが貼ってあるpdfで見れる)。
火曜日の昼過ぎになると、おそるおそるトーハンのページに行き、僕は目を瞑りながらpdfへのリンクをクリックする。
「どうか、ランク内に留まってますように」と念じながら。
すると、以下のようにtop10が表示されている。
自分の本のタイトル「きみのお金は誰のため」を5位に見つけ、安心する。
この表には発売日は書かれていないが、トップ10のうち3冊は3年以上前に発売されたものだ。
DIE WITH ZERO
嫌われる勇気
人は話し方が9割
まさに、売れている本が売れ続けているのである。毎年、数千冊ものビジネス書が発行されるが、売れている本の牙城を崩すのは至難の業なのだ。
前の週の6月4日付と比べると、いかにランキングが動かないかがよくわかるだろう。ほとんど順位に動きは見られず、10冊中9冊は前の週のままで、ランキング外から入ってきたのは、7位にランクされた本だけだ。
このトーハンランキングやamazonランキングだけではなく、紀伊國屋、TSUTAYA、などの個別の書店や、カーリルなどの図書館情報なども僕は見ているが、詳しく話せば話すほどをやばいやつだと思われるので、この辺までにしておく。
目指せ100万部
出版しした当初から、「100万部を目指す」と僕は公言してきた。それくらい売れないと、世の中のお金に対する意識が変わらないと思っているからだ。このままだと、日本は沈んでしまうんじゃないかと危惧している。
その思いは以前もノートで書いた。
先日、2024年上半期のビジネス書ランキングが発表されて、第3位になっていた(出版業界の上半期は12月から5月までの6ヶ月)。
大変うれしい。
しかしながら、目的を忘れちゃいけない。大事なのは、順位を上げることではなく、多くの人に読んでもらうこと。
発行部数はようやく20万部を越えたが、100万部への道はまだまだ長い。
昔よりも本を売るのは難しくなっている。
過去10年間で全国の書店の3割が消滅し、書店のない自治体は4分の1以上になったそうだ。
良書との出会いは、新しい考え方や価値観の出会いでもある。僕自身、様々な本の著者の考え方、登場人物の価値観にふれることで、人生の選択肢を増やしてもらった。
書店がこれ以上は減って欲しくないし、多くの人に書店に行ってもらいたいと思う。
一人の著者としてできることは、本の良さ(自分の本も含めて)を広めていくことだろう。地方に赴いては、学校で講演したり、地域のラジオ局やテレビ局などでもお話をさせてもらっている。
先日、福岡女子商業でお話しした時は、地元のKBCや新聞社が取材に来てくださった。KBCでは、ラジオ、テレビそれぞれのスタジオにも呼んでいただき、円安、物価高の話などもさせてもらった。
学校関係者の方々、メディアの方々、呼ばれたらどこでもいきますので、何かありましたらインスタのDMまでご連絡ください。
(この先は有料部分。今週の活動記録やこぼれ話)
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半径1mのお金と経済の話
お金や経済の話はとっつきにくく難しいですよね。ここでは、身近な話から広げて、お金や経済、社会の仕組みなどについて書いていこうと思います。 …
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