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木陰で息をするように、新潮文庫に挟まって息をする

夏の朝。暑すぎて遠ざけていた、外で過ごす時間を作ってみた。

緑のなかで、空を見上げてみた。ちょっとした山の、車ですいっと行けてしまう場所で、緑のなかを歩きながら、息を吸ってみた。すこし開けた場所に出たら、空を見上げてみた。これだけで、ちょっとしたことは解決してしまう。というか、頭を悩ませるたいしたことのないたいていのことは忘れてしまった。


暑すぎて、外の空気が苦しくて、息をするだけで嫌になるような暑い日なのに、緑のなかにいると息がしやすくなって、深く息を吸いたくなる。自然の風って気持ちいい、とこの夏はじめて思った。木陰で息をしていたい。


家の扉を出てから車に乗って15分くらいで、なんだか大自然のような山に行けてしまう。大きな駅にも、大きな商業施設にもすぐ行けてしまう。街と緑が共存している場所ってありがたい。都会のような田舎のような、この場所に住んでいてよかったかもな、と思う。


夏空はきれいだ。家の窓から網戸越しに見る青もきれいだけれど、緑の中から見上げると、もっともっと青く感じる。緑のおかげで目が活き活きとしているからかもしれない。まぶしいというより、明るい。青ってきれいだ。


緑を離れて街に下りてくると、またどうしようもない暑さの世界だった。車のドアを開いたとき、分かってるのに毎回「暑い」って声に出してしまう。「暑い」以外の言葉が出ない。声に出さなくてもいいのに、ついつい言葉にして脳に聞かせてしまう。暑い。

ここでずーっと息をして暮らしていると、この夏が終わったころには頭も体もすこし痛んでしまいそうだ。たまには思い切り、緑のなかで息を吸う時間をとらないと、この夏を過ごせる気がしない。

けれど、毎日緑のなかに身を置くことはできない。そんなときのために、自分の暮らしのなかに、深く息を吸える場所を見つけておくといいのかもしれないなあ、なんて思った。


わたしにとっての深く息を吸える場所は、本のなかだ。物語の世界のなか、とかではなく、物理的な本のなかである。

本を開いて、顔をうずめて、深く息を吸う。(目を瞑って本を嗅いでいるのはかなりイカれている様子に見えるので、人前ではしないようにしている)

紙とインクの香り。とくに好きなのは、新潮文庫の新刊の香り。本の香りは、いつだってわたしを癒してくれる。どんな場所でも、どんなに心がささくれ立っていても、わたしを取り戻せる香りだ。

外の空気が災害級な今年の夏を乗り越えるために、ときには自分を癒してくれる場所で、深く息を吸って過ごしたい。わたしにとってのそれは、緑のなかであり、本のなかでもある。

都会に住んでたって、田舎に住んでたって、だれしも深く息を吸える、隙間のような場所を持っていて、みんなそこで深く息を吸っていてほしいなあ、なんて、新潮文庫に挟まりながら考えていた。


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