奮い立つ台湾の至宝、モリス・チャン氏
台湾台北市にある、国立故宮博物館でいちばん人気のある『翠玉白菜』には、込められたメッセージがある。白菜は、中国語で“baicai”と発音し、多くの財を表す「百財」と同じ発音であることから財運を上げる意味だという。翠玉は翡翠のことで「忍耐、調和、飛躍」を表す。
半導体大手製造業TSMC創業者のモリス・チャン氏はアジアの大企業創業者というだけではなく、アメリカからの圧力、中国の脅威のなかで必死に台湾を守ろうとする、『翠玉白菜』のような存在だ。そしてわたしたちはいま、モリス氏が活躍する台湾外交の転換期をつぶさに目撃しているのだ。
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今月18日からタイで行われる APEC には、モリス・チャン氏が台湾代表として参加する。中国からの反対を受け、今年も蔡英文総統は参加を見送った。半導体大手製造業 TSMCの創業者であるモリス氏は今年91歳。TSMCを創業し、2度目の引退を経てからも民進党政権下で、6回も総統の代理としてAPECの首脳会議に出席する。
モリス氏は1931年に中国浙江省で生まれ、少年期を香港で過ごした。その後単身で渡米。アメリカで博士号を取得し TI社など数社で働いた。54歳の時、それまで一度も訪れたことがなかった台湾から招聘され、 TSMCを創業。中国人ではあるものの、1949年に中華人民共和国が成立したことについては、「いつか帰るという希望がなくなった」と自伝で述べている。
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コロナ禍を経て、台湾をめぐる環境は、一段と緊張を増している。
今年10月、習近平氏が3期連続の党主席となり、その就任演説で「台湾への武力行使を放棄しない」と発言をしたことで、近い時期に台湾への攻撃があるのではないかという懸念が高まった。
またコロナ禍における半導体供給不足問題。最先端の半導体技術を持つTSMC社がサプライチェーンの要として注目されたことは記憶に新しい。
すでに米国や日本では、自国の半導体生産の自給率を高めようと巨額の補助金を提供し、同社を誘致している。ドイツでも誘致活動があるという。
アメリカは、自国に半導体産業を「取り戻す」ための支援に金を惜しまない。モリス氏は今年8月のアメリカのペロシ下院議員の訪台時、アメリカでの半導体製造は失敗するだろうと、指摘したという。
海外の工場建設に同意しつつも、最先端技術(3nm)を台湾に残すことで、安全保障戦略として、台湾を護ることを狙っているのだろう。
モリス氏の奮闘は、アジアの歴史に刻まれるに違いない。
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