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回帰と終末2

エコーです。私の家は、JR南野駅から徒歩で10分足らずの所にあります。安普請とは言いませんが、立派な建物ではありません。それでも一家四人が暮らすには充分だと思っています。一階に父と母、二階の二部屋が兄と私。
家族の足りない部分を補っていたのは兄です。明確に意図することもなく、自分を変えようともしない。で、孤独だ。女っ気のない人だ。浮いた話の一つや二つあっても良いと思うのだが・・・。そんな兄を私は無視してきた。責められるべきは私だ。

金曜日、朝から台風の影響で蒸し暑く、時折雨が降る。こんな日は体調が良くなく、何をやる気にもならない。

私は南野高校の二年生です。地元の進学校で、歴史のある学校です。兄のジョニーも南野高校を出て、今は大学に通っています。

私の家は勤め人家庭で、それほど豊かではありません。兄は、高校に入った頃に土曜日戦争に志願し、その報酬を貯めていて、大学の学費にしています。毎月、母にお金を渡しているようです。

ボーイフレンドのデビッドは学校に行っていません。土曜日戦争の戦略分析室の櫂さんが家庭教師をしています。週に2、3日と聞いています。

部活は文学部です。部員も少なく、地味にやっていますが、たまに勉強のできる子がいて、現役で超難関大学に合格したりしたそうです。中にはとんでもない問題児が居たり・・・変わった部です。

私は原稿用紙が苦手で、伊東屋のリーガルパッドを使っています。横書きです・・・インクはブルーブラック。


=屋根裏部屋の少年Ⅱ=
(バス停に向かうデイブ。ベンチに座って、サンドウィッチを食べている少女。似たような年頃だ。)
こんにちわ。
こんにちわ。送迎バス、ここで良いの?
うん。
(座り直して、席を開ける少女。)座って・・・。
ああ・・・。
あなたが立ってると、私が席を独り占めしているみたいでしょ。
(隣に座るデイブ。少女の手元に目が行く。)
見ないで。朝食の残り物だよ。人に見せるような物じゃない。
すみません。
あなた、デビッド?ほら、その刺繍。・・・戦士なんだ。私のお兄ちゃんも戦士だよ。
そう・・・。
デビッド・・・ダビデか。・・・ナルキッソスって感じだね。
何を言ってるの?
何でもありません。でも、会えて良かったよ。
どうして?
お兄ちゃんがね、送迎バスで帰れって。無料だから。でも、私、関係者じゃないから気が引ける。「デビッドの友達だと言え。」って言われた。
僕が来ることを知ってたんだ。
まあね・・・。
(ドライバーが歩いてくる。)
おや、今日は二人か。東公園のデイブと・・・お嬢ちゃんは?
デビッドの友人です。JR駅で降ります。
どうかそうか、すぐに車を回すよ。待ってな。
(デイブの腕を取る少女。)
えっ?
友達の振りをして・・・。
必要ないよ。
でも、そうして。嫌なの?
(吹き抜ける風が揺らす小枝を見上げるデイブ。)
そんなこと、ないって・・・。


(送迎バスに乗り込むデイブと少女。最後尾のシートに並んで座る。)
すみませ〜ん。デイブと一緒に東公園で降ります。
ああ、了解。(ドライバーが応える。)
どうしたの?
良いから良いから。携帯の番号、交換しようよ。
うん・・・。名前は?
エコー・・・にしようかな。
木霊かい?
土曜日戦争では、みんなニックネームを使うんでしょ。だから、私も。・・・南野中の1年よ。
僕と同じだ。・・・歳が・・・。
学校に行ってないんだってね。
・・・不躾だよ。
でも、そうなんでしょ?
まあね。


(東公園で送迎バスを降りる。)
デイブ、もろバス停の前なんだ。・・・帰りのバスの時間を確認する。
(道路を横切るエコーの後を追うデイブ。)
本数、少ないね。・・・3時12分かな。(時刻表をスマホでショットするエコー。)
それまで、どうするの?一時間以上あるよ。
デイブ、まさか私を一人にしようなんて思ってないよね?


ねえ、トイレどこ?
この公園には無いよ。
ピンチです。家、近いの?
まあ・・・。
トイレ貸して。早くして。
うん。
(家のドアを開けようとするデイブ。ロックされている。「母さん、居ないのか。」鍵を出してドアを開ける。)
その奥だよ。
ありがと。助かったわ。
(テーブルの書き置きを見るデイブ。エコーが出てくる。)
誰も居ないの?
いつもは、母さんが居るんだけど・・・帰り、4時だって。
そう・・・。


その辺を案内しようか?
遠慮する。家があるだけでしょ。それより、マッチ教えてよ。
構わないけど、相手にならないよ。
勝負しようなんて思ってない。やり方を教えて・・・。
僕のように構えてみて。
こう?
そうそう、両足は肩幅くらいに開いて、半身になるんだ。リラックスして。それでね、相手の首の裏に触れれば勝ち。触れられたら負け。
単純だね。
そうかな?・・・行くよ。
(ぎこちなく手を伸ばすエコー。)
そんなに離れていたんじゃ届かないよ。(スッと体を寄せて首の裏にタッチするデイブ。)ほらね、このくらい近づかないと。
もう一回・・・油断したわ。
良いよ。(故意にゆっくり動き、隙を作るデイブ。エコーの手が伸びる。)
私の勝ちね。
認めるよ。ただ、首は掴むんじゃない。ソフトに触れるんだ。
解った・・・もう一回。
うん・・・1勝1敗だからね。頑張れば勝てるかもしれない。
無駄口を叩くな!
(やれやれ、少し遊んでやるか。)


(テーブルの椅子に座り、黙り込むエコー。)
・・・惜しかったよ・・・。
・・・・・・。
エコー?
・・・私・・・帰る・・・。
まだ、早いよ。
待っていれば、バスは来る。
(機嫌悪いなあ。)


(バス停まで歩く二人。着いて、時計を確認するデイブ。「まだ10分以上あるのか。気まずいなあ。」)
デイブ、3回目ダブルタッチしたよね?
うん・・・意味、知ってるの?
知ってる。お兄ちゃんに聞いたわ。まずタッチして、少し間を置いてからもう片方でタッチする。力量が違いすぎるから、これで終わりって意味でしょ?
その通りだよ。・・・気を悪くしたかい?
いいえ・・・ちょっと拗ねてみただけだから、気にしないで。
良かった。君のお兄ちゃんて、誰?
教えない。すぐに分かるよ。
ーーーーーーーーーーーーーー
あら、バス来ちゃった。デイブ、楽しかったわ。
僕もだよ・・・。
(乗車し、道路側の席に座るエコーがデイブに手を振る。応えるデイブ。走り去るバスを見送り、家に戻る。)


(居間に掃除機をかけるデイブ。母が帰宅する。)
ただいま。珍しいわね、掃除機をかけるなんて。
うん、少し埃が・・・。
(トイレに向かう母。)
シンイチ・・・誰か来たの?
どうして?
トイレットペーパーの三角折り・・・。
・・・友達だよ。
女の子?
・・・・・・。
女の子なの?
・・・はい。友達になったばかりで。
それで、家に入れたの?
トイレを貸しただけです。
そう・・・。
母さん、怒ってるの?
いいえ・・・少し不愉快なだけ・・・。部屋に行きなさい。夕食の用意が出来たら声を掛けるから。
はい。(あいつ、何やってくれてんだよ。)


=屋根裏部屋の少年Ⅳ=

お兄ちゃん、お願いがあるんだけど・・・。
面倒はごめんだよ。
今度の土曜日、ファミレスに連れてって。
昼食かい?
うん・・・母さんには、私から言っておくから。
良いよ。
でね、デビッドを誘って欲しいの。
・・・彼の都合もあるだろうからなあ。
誘ってみてよ。ダメなら諦めるから。・・・OKでも、私のことは言わないで。
(渋々、携帯を取る。)
デイブ、夜分にすまんね、ジョニーだ。
はい。
何してた?
・・・動画を見ながら、考え事を・・・。
話しても良いかい?
はい。
今度の土曜日なんだが、ファミレスで食事しないか?・・・昼食だ。
母さんに確認してみないと・・・。
待ってるから、確認してみてくれないか。
うん。
(階下に降りるデイブ。)
母さん、今度の土曜日、昼食に誘われたんだけど、行っても良いかな?
誰に誘われたの?
土曜日戦争の先輩、ジョニーです。
・・・良いわ。暗くならないうちに帰るのよ。
はい。
(携帯で話しながら、部屋に戻るデイブ。)
ジョニー、大丈夫です。時間と場所を教えて下さい。
ああ、それは良かった。後でメールするよ。
はい。


(土曜日、家を出るデイブ。)
母さん、行ってくるよ。
はい、あまり遅くならないでね・・・。財布、見せて。
うん。
(財布を受け取り中身を確認し、万札を1枚入れて返す。)
ありがと・・・。
ーーーーーーーーーーーー
(店の前でジョニーに連絡するデイブ。)
ジョニー、着いたよ。
デイブ、入って右手の窓際だ。
はい。
(テーブルに飲み掛けのコーヒー・カップが二つ。)
ジョニー、誰か居るの?
ああ、妹だよ。トイレに行ってる。気にするかい?
いや・・・。
土曜日戦争が休みになって、退屈しているんじゃないかと思ってね。・・・妹は成績抜群なんだが、性格にやや難がある。
そうなの?
会えば解るよ。・・・ああ、こいつだ。
デビッド、先日はどうも。お兄ちゃんを紹介するわ。(悪戯っぽく微笑む少女。エコーだった。)
君だったのか・・・。
まあね・・・連絡を待ってたんだけど、全く音沙汰無し。デビッド、内気なんだね。
・・・・・・。
(それぞれの食事を進めるも、あまり会話は弾まない。食事が終わる頃、エコーが話し掛ける。)
私、お母様にご挨拶をしたい。この前、留守中にお邪魔したから・・・。構わないよね、デビッド。
うん。・・・連絡してみるよ。
ーーーーーーーーー
母さん、これから帰るよ。でね、友達が一緒なんだけど、良いかな?
良いわ。どんな友達なの?
ジョニーの妹です。


初めまして。エコーとお呼び下さい。
そう・・・。
今日は、兄と3人で昼食を食べて、その帰りです。お母様にお会いしたいと、デビッドにお願いしました。
母さん、僕、着替えてくる。
(屋根裏部屋に行くデビッド。)
エコー・・・座って。お茶を淹れるわ。
はい。
息子の、お友達なの?
はい。彼の、オルタナティブな生活態度には、とても興味があります。
興味?
いえ・・・関心があります。
そう・・・どうして?
私とは、違うからです。
息子のことを、軽蔑しますか?
・・・なぜ、そのようなことを仰るのでしょうか?意味が解りません。
軽率だったわ。
いいえ、私の方こそ、生意気言ってすみません。
なぜ、息子に関心を持ったの?
土曜日戦争のバス停で初めて会った時、彼は風に揺れる小枝を見上げて、僕は風を掴み損ねてるって言いました・・・小さな声で。私は、思わず彼の唇を見た。小枝を見上げる彼の横顔を見ながら、泣きそうになった。それが、きっかけです。
・・・・・・。
お母様、忘れて下さい。自分の気持ちを暴露したことに当惑しています。
良いわ。そうしましょう。
ありがとうございます。
(時計を確認するエコー。)
そろそろ帰ります。バスの時間なので・・・。トイレをお借りしても?
どうぞ。


(シンイチが自室から降りてくる。)
着替えに、ずいぶん時間がかかったのね。
はい。出るタイミングを失って・・・。
良いわ。お友達は帰るそうよ。バス停まで、送って行きなさい。
はい。・・・母さん、迷惑じゃなかった?
いいえ・・・ちっとも。楽しかったわ。
(エコーがトイレから出てくる。)
エコー、バス停まで送って行くよ。
ありがと・・・。お母様、失礼します。
トイレット・ペーパーの三角折、今日もしましたか?
いいえ・・・。
そう・・・気をつけて、お帰りなさい。
はい。ありがとうございます。


(バス停に向かうデビッドとエコー。)
母さんと何を話したの?
他愛も無い世間話です。・・・有意義だったわ。
君、凄いね。母さんは、なかなか手強い。
そのようですね。・・・物分かりの良い、寛容な方だと思いました。
そうかなあ?・・・トイレット・ペーパーの三角折ってなに?
さあ・・・解らないわ。
ふ〜ん・・・そうなんだ。
デビッド、今日は、押しかけたみたいで悪かったね。
気にしてないよ。・・・また、会えるかい?
あなたが会いたいと思うのなら・・・私は、いつでも良いよ。
・・・・・・。(ワォ。)


母さん、送ってきたよ。
・・・賢いお嬢さんね。
うん、成績は抜群なんだけど、性格に難があるんだって。ジョニーが言ってた。
あなたに、関心があるそうよ。
僕に?・・・どういう意味なんだろう?
お母さんには解りません。
母さんに解らなければ、僕にも解らないや。・・・エコー、変な子だよね。
いいえ、とても良い娘さんだわ。・・・粗末に扱わないでね。
はい。(意味が解りません。)






=屋根裏部屋の少年Ⅸ=

(土曜日、バス停に立つデビッド。物思いに耽っている様子だ。マディーが来る。)
デイブ、どうした?今日は、元気がねえな。
ああ、おはようございます。
なあ、ジョシュアと櫂、セックスしたらしいぞ。
そうですか・・・僕には関係ありません。
やれやれ、エコーに恋したか?
・・・そうかもしれません。エコーは、先週、ジュニア・リーグのテストを受けました。
知ってる。・・・ガーティーが推薦状を書くとは思わなかったよ。
はい。
あいつも、良いとこあるなあ。
マディー、エコーは合格していますか?
どうかな・・・。
結果、知ってるんでしょ?
おお、知ってるけど、言わない。結果は、自分で確認するものだからな。おまえも、知ったかぶりはしないほうが良い。
・・・・・・。
知ってるけど、言わないほうが良いこともあるんだよ。
はい。


(バスが来て、最後尾に座る。)
ねえ、マディー、奥さんと、どうして結婚したの?
ハハハ、そう来たか。一目惚れだな。この女しか居ねえと思ったんだよ。
そう思えば、結婚できる?
バカ言うなよ、年齢制限があるからな。おまえらは、当分ダメだ。・・・余計なことは考えるな。
はい。
良いか、人はな、余計なことをしなければ、そこそこの人生を送れるんだ。
本当ですか?
ハハハ・・・どうかな・・・。


(JR駅前でエコーが乗ってくる。マディーが手招きをする。エコーがデビッドの隣に座る。)
おはようございます。
エコー、良い笑顔だ。デイブの隣でご機嫌か?
はい。それに、今日は特別な日なの。
ほう、そうかい。
知ってるくせに・・・。
ああ、ジュニア・リーグの合否か?
はい、そうです。合格していると良いわ。
期待してるのか?
当然でしょ・・・マディー、結果、知ってるんだよね?
結果書は、コマンダーが記入して封筒に入れた。俺、見てねえんだ。
・・・もうすぐ解るわ。
うん、幸運を祈るよ。
ありがとうございます。


(バスがバトル・フィールドに着いて、足早に事務局へ向かうエコー。マディーが満足げに後ろ姿を目で追う。)
おはようございます。
おはよ、エコー。こっちに来て。
はい。
(テーブルを挟んで向かい合う。角2の封筒が置かれる。)
エコー、これよ。
はい、開けても良いですか?
もちろん・・・。ハサミは、これを使って。
はい。
(丁寧に封を切り、書類を取り出す。胸章も入っている。)
これって?
合格よ、エコー。
嬉しいわ。
(デビッドが来て、エコーの隣に座る。)


おめでとう、エコー。もう一つ、手続きがあるの。
はい。
これよ。
契約書?(記載された金額に目が行く。)月謝が必要ですか?高額です。私、払えないわ。
・・・エコー、よく読んでみて。それは、組織が貴女に払う金額よ。
えっ?・・・こんなに?
久しぶりの特A合格者だわ。良ければサインして。
(エコーがデビッドの顔色を伺い、頷くデビッド。)
はい。・・・あの、今日から参加できますか?
アンクル・ジョージに聞いてみて。あなた方の教官よ。
はい。


エコー、本当に今日から参加するのかい?
うん、そうしたい。
(デビッドと別れ、ジュニア・リーグの建物に向かうエコー。)
あの、アンクル・ジョージは何処ですか?
君の目の前だ・・・で、誰?
エコーです。
ああ、特Aのお嬢ちゃんか。用件は?
今日から参加出来ますか?
出来るよ。・・・エコー、良く来たね。歓迎するよ。
ありがとうございます。


下着を見せてくれ。
えっ?
ブラとショーツだよ・・・。
・・・はい・・・。
(ブラウスのボタンを外し、ズボンのジッパーを下げるエコー。)
もう良い。確認しただけだ。
(エコーに布袋を渡す。)
これに着替えてくれ。
・・・・・・。
コマンダーからのプレゼントだそうだ。
はい。
老婆心ながら、言っておきたい事がある。
なに?
心を平静に保ち、早めに準備をして、何事もゆっくり確実に行う。学校でも家庭でもな。・・・それと、自分の周りを良く見ろ。
はい。
君は、18歳の誕生日の前日まで在籍できる。どうしても気が向かない時は、休んでくれ。
はい。


(バス停のベンチに座るデビッドとエコー。エコーが風に揺れる梢を見上げている。デビッドは無言だ。)
・・・・・・。
・・・私は、エコーです。今日からジュニア・リーグに参加しました。身長159センチ、体重47キロです。
識ってる。
身長と体重、言ってなかったよ。
それくらいだと思っていた。・・・僕も、自己紹介が必要かい?
いいえ・・・私、あなたを知ってるから。
・・・・・・。
あなたが、私のこと、忘れたのかなぁと思って、言ってみました。
ハハハ、すみません。


・・・私、下着を見られた。
誰に?
アンクル・ジョージ。
教官か・・・。
でね、代わりの下着を貰ったの。コマンダーのプレゼントだって。見る?
・・・うん。
(デイパックから袋を取り出すエコー。)
見て・・・スポーツブラ、ショーツ、短いスパッツよ。
黒で、名前入りなんだ。
どう?
セクシーだね。
そう、体に密着してるの。・・・やる気が出るわ。
そうなんだ。ガーティーには、報告した?
はい、喜んでくれました。




(蒸し暑い日々が続いている。久しぶりに、兄と少し話をした。)
お兄ちゃん、友達少ないよね。寂しくない?
確かに友達は多くない。
お酒も飲まないし、タバコも吸わない・・・。
悪い事じゃないと思うがね。それに、食事やカラオケに行く友人は居るよ。
ガールフレンド、居ないよね。
・・・そのようだ。


私の家族や私に欠けたところがあるとしたら、兄は意図すること無く、その綻びを繕っていたのだと思う。
駅から家に向かって歩く兄の後ろ姿を見たことがあった。兄は、ゆっくりと歩いていた。私は、唐突に胸を衝かれたことを覚えている。
追いかけて声をかける事も出来たのに、私はそうしなかった。

だから、責められるべきは私だ。

  令和6年8月19日

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