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アルファベット4文字の貴方

「私、『貴方』のことが知りたいんだけどなあ」

最近、というより思い返すと2.3年ほど前から、そんなことを頻繁に考える。

良好であれ険悪であれ、人と人間関係を構築していくために必要なこと。それは「貴方」を知ること。
相手のことをよく知らぬまま、相手とは良好な関係ですとか、険悪な関係です、とは言うことは出来ない。

では「相手を知る」には、どうしたらいいのだろう。
そんな疑問をたった15分で解決してくれる、魔法のようなツールがこの世の中には存在する。
そう。最近よく耳にする、あの4文字のアルファベットだ。

MBTI

これは、その4文字のアルファベットに対するちょっとした不満の話だ。


「MBTI何?」

大学に入学して間もない頃。学内の共有スペースで、入学と同時に新しく出来た友人が、さも聞いて当然知ってて当然といった口調で謎のアルファベット4文字を私に聞いてきた。

「え?」

瞬時に私の頭の中は「?」で埋め尽くされた。
MB……何?なんて?

「ごめん、なにそれ」
「え、知らん?! MBTI! 今流行っとるやつ!
やって!!」

友人は、自分のスマホを起動し、慣れた手つきで私とのLINEのトーク画面にURLを送信した。
送られてきたURLを私は渋々タップして開くと、そこには「無料性格診断テスト」とでかでかと書かれたサイトに移行した。
画面の左上には「16Personalities」と書かれており、友人に聞くと、どうやら人間の性格を16のタイプに分ける性格診断だそう。

「それ、15分でできるから、やって!」

ずい、と二人に挟まれた白いテーブルに身を乗り出し、キラキラとした目を私に向ける友人。
私は心の中でこう思った。

長ぇ……。

と。
一応記しておくが、私は女子大に通う特になんの特徴もない普通の女子大生だ。言葉遣いが少々汚いのはご容赦願いたい。

画面を下にスクロールし、ずらりと並んだ各質問項目の下には丸が7つ横並びになっており、質問に対する回答が「同意する」「同意しない」となっていて、質問に対する自分の気持ち(同意する気持ち)を7つの丸からひとつ選んで段階分けするという、よくある回答方法だった。
正直、やるのは面倒くさかったが、せっかく新たにできた友人だ。こんな些細なことを断るわけにはいかないと思い、私はううん、と頭をひねりながら15分かけて質問に答えていった。

回答結果は「INFP」というものだった。
どうやら、この診断は性格特性を
・外向型「E」 内向型「I」
・感覚型「S」直感型「N」
・思考型「T」感情型「F」
・判断型「J」知覚型「P」
の4つのカテゴリーに分類し、その組み合わせが16タイプある
ということらしい(説明が難しい……)。

「INFP」という結果と共に長々と綴られた説明文を読んでいくと、なるほど。性格診断と言うだけあって、中々的を射ている。
私自身、心理学部に通う学生なので、それなりに性格診断というものは嫌いじゃない。

「へえ、結構当たってるわ」
「そうなんよ! 面白くない?! 私毎日MBTIやってるねん」

ん?

一瞬私の頭はフリーズした。
毎日?
性格診断って1回やればそれでいいのではないの??

どうやらMBTI診断はたまに結果が変わることがあるらしい。
そうなのか。
それにしても……。

「毎日はやりすぎやろ」
「えーでも面白いもん! 卒論MBTIにしたいぐらい」

私の友人は、生粋の「MBTIオタク」だった。

モヤモヤその1「○○○○っぽい」

自分のMBTIが判明し、私のSNS上にも次第にMBTI関連の投稿が流れてくるようになったある日。
友人は相も変わらずMBTIの話題を持ち出してきた。

「自分の(韓国アイドルの)推しもINFPなんやけど、りつかもなんか不思議なこと考えたりするん?」

と、どうやら私たちINFPと呼ばれる人たちの頭の中は、他のMBTIの方たちが考えもしないことを考えていることが多いらしく、そんなことを聞かれた。

不思議なこと、と言われたら自分でもよく分からないが、まア、人生とか生きる意味とか、そういう哲学的なこととか常に考えたりはするなアと思って、友人に伝えた。

たまたま、小鳥が私たちのそばをちゅんちゅんと歩いていたので、私は頭の中で小鳥さんに「こんにちは」と挨拶した。
私の習慣だ。
そのことも友人に伝えると、

「INFPっぽい〜!」

と手を叩いて笑い始めた。

えぇ……。

私の心の中に微かなモヤモヤが生まれた瞬間だった。

モヤモヤその2「相性」

ある日の昼休み。
昼食を食べながら、今日も今日とてMBTIに夢中な友人。
今日はなんの話題なのだろう。
スマホをいじる友人の口から今度は何が告げられるのか、辟易にも似た感情を昼食のパンと一緒に噛み砕きながら、友人が口を開くのを待つ。

「りつかのMBTIってINFPやんな?」
「うん」

来た。と、私は身構えた。
すると、友人はとても残念そうな顔をして、

「えーーー自分との相性最悪やんー」

カチン、と自分の頭に怒りマークが浮かんだのを私ははっきり自覚した。

もちろん。相性が最悪というところに怒りを感じた訳では無い。
「相性を調べる」ということに怒りを感じてしまったのだ。

失礼ではないか。
とその時思った。
私は、友人と相性云々で関係を築く訳では無い。
もちろん、皆そうであると思うのだが。
友人となった以上、そこに相性を問うのは愚行ではないかと私は思うのだ。

そんな私をよそ目に友人は続けた。

「なんかプロフィールとか自己紹介でMBTI言ってくれたら楽よね〜」

と。
ちょうどその頃私のSNS上にも「相性の良いMBTI」と題した投稿が多々見られるようになっていた。

貴方を知りたい

MBTIによって、いくつかモヤモヤを経験してきた私であるが、MBTI自体を否定したい訳では無いのだ。相手や自分を知るひとつのツールとして上手く活用する分には大いに結構だと私は思っている。
けれど、貴方という人間を判断するツールには使ってはならないなと思う。
16のタイプにわけられるMBTIだが、貴方という人間は16のタイプにはわけられない、と私は思うのだが、どうだろうか。
MBTIがなんであろうと、私は素敵だと思った貴方と話がしてみたいし、私という人間を知って欲しいと思う。
そこにMBTIの相性は関係ないと思っている。
MBTIなんかなくたって、嫌いな人間は嫌いだし、合わない人間は合わないし、大好きな人間だっている。

色々書いたけれど、結局人と人。
言葉で、貴方のことが知りたいなあ
と思う。



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