銀座ホステスあるある?有名人との恋愛#1
「今週の日曜日空いてる?」
入ったばかりのクラブMで、なぜかチーママに気に入られた私はプライベートの休日もお客様のお付き合いに駆り出される様になった。初めての銀座で勝手が分からない私は、ただオファーされる要求に答えていく事に必死だった。
「六本木ヒルズでコンパするから来てよ。」
唐突な誘いだったが、予定は無かったし、珍しく興味が湧いたので行ってみる事にした。当時の六本木ヒルズは他に類をみない高級タワーマンションで“ヒルズ族”という言葉がまだ“旬”だった。フロントのコンシェルジュの目線をくぐり抜けて、主催者の所有する部屋へ向かった。
「俳優のKも来る予定だったんだけどさぁ、撮影で来れなくなっちゃったんだって。でも、皆お金持ちばっかりだから期待してよ。」
同じく駆り出されたヘルプのホステス達と一緒に広大なマンションへ入っていった。
「いらっしゃい〜。入って入って。」
ヨレヨレのジャージ姿の無精髭の男性が出迎えてくれた。40代と聞いていたが、全く年齢に見えなかった。セミリタイヤして、毎晩銀座や六本木で飲み歩く生活をしているという。
東京タワーの見えるキッチンでは、既に男性数名が料理を始めていた。キャビアの乗ったクラッカーやお寿司、フルーツやシャンパン・ワインがリビングに並べられていた。
銀座のクラブで働いているおかげで、初対面でも全く緊張出来なかった。また、緊張する様な異性もいなかった。チーママのご機嫌を損ねずに振る舞う事に専念しように決めたその瞬間、1人の体格の良い男性が隣に座った。
テレビで見た事のある顔だった。私の年代では、誰もが知っているだろうスポーツ選手・Aだった。一気に心拍数が上がってしまった。
「今日のスペシャルゲストだよ〜。俺の飲み友達のAさん!カッコいいでしょ。さー始めよう。」
緊張はお酒のおかげでスルスルと溶けていった。いつの間にか、Aに話しかけている自分がいた。何でも翌日東京マラソンに出るから今日はお酒が飲めないらしい。そのうちゲームが始まり、別の部屋でカラオケが始まり、あっという間に時間は24時を超えていた。
チーママの合図でそろそろ解散する事になった。Aは他の女の子と記念写真を撮っていたが、なんと私の方へ向かって来た。心の声が聞こえたのかもしれない。
「あれ、もう帰っちゃうんですか?」
これ以上のチャンスは無かった。私は写真よりもサインよりも、連絡先が欲しかった。小さな声で電話番号を聞いた。聞こえてくる数字を必死で携帯電話に叩き込んだ。
次に向かったカラオケのお店でも、しばらくぼーっとしていた。自分にそんな大それた勇気があるとは思わなかった。恥ずかしさの余りに火照った顔が元に戻らなかった。
翌日の夕方だった。御礼ショートメールを送った後、暇潰しに本屋でファッション雑誌を読んでいた時だった。ブルルと携帯電話が振動した。Aからの着信だった。
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