ファミリー #5

 目が覚めたときにまず思うことは、今日もまた一つ分、新しい一日を生きなければいけないということ。自動運転車が家の前にやってきて、僕らはそれに乗り込む。
 イナモが玄関で僕らを送る。それから、ゆっくりとスピードを上げ、白い車体が街に吸い込まれていく。
 高いビルと電波塔が見える都市に近づくにつれ、ほかの家から流れてきた車が、きれいに大通りに整列して流れ出す。
 街で一番大きなビルの前でサマーが降りて、レインがその次に降りる。そして、白いビルたちが途切れたところで、僕とモクは二人きりになって、もう少し乗り続ける。
 モクはいつも、二人きりになると窓枠に寄りかかって、空を見始める。そしてときどき、雲に指を指して、何かを描くように小刻みに指を振る。
 僕は持ってきた本に目を落としながら、ときどきモクの指の動きや空を見る表情を確かめる。何か意味があるのかもしれない。モクには、空の雲が動物や恐竜にみえているのか。あるいは、雲の形を研究していて、モクだけの知識を確かめているのか。
 やがて、車は僕たちを街の奥の方に運んでいく。工場の煙突が、珊瑚のように空に向かって伸びていく。汚れた空気をきれいにするための肺の気管支のような細かい枝も、煙突の麓に広がっている。
 工場の前で車が止まると、モクは笑いながら車のドアを押して降りていく。僕も手を振る。モクが地面に降りたって、柔らかい風船のようにおなかを揺らす様子を見る。
 彼の足は重力が軽い惑星の上で踊るように、左右に、ふわりふわりと揺れながら歩く。向かう先には、細いパイプが組み合わされた巨大な珊瑚礁で、ふわふわと海を漂うクラゲのようにモクは揺れながら、パイプの隙間にある入り口に消えていった。
 車は、さらに奥に進んでいって白い大きな塀の中に入っていく。塀は高く、つるつるとしていて太陽の光でつやつやと光っている。僕は、塀の中に入るたびに体から、元気が抜けていく。
 それは、一見普通に呼吸をして、目を開いて手を動かすことができるのだが、新しいことを思いつく力や、明日には何でもできるという自信が全くなくなってしまう状態なのだ。 車が止まり、施設の玄関に車が止まる。僕が降りると、逃げるように車は塀に向かって一直線に進んでいった。こうなると、帰る手段を失ったので、僕は入っていくしかない。

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