見出し画像

158:「重なり」を持たない「厚み」を見る

《2D Painting》ではどうなるだろうか.このシリーズでは,情報を具現化するのがピクセルではなくなっている.YOFは,これまでもヴァルールに基づいた二次元画像を具現化するときにキャンバスなどの二次元平面を用いてきた.ここでも情報を具現化するのがピクセルではなくなっているが,平面をグリッドで区切ることでピクセルの集積で示す情報を転写できたと考えられる.しかし,《2D Painting》では三次元空間にピクセルに基づいたヴァルールによって生じた情報状態を転写しなけばならない.このときに,情報として抽出された際に失われたモノとその空間を照らす光とを再度導入することが求められた.YOFはモノだけではなく,モノを照らす光=照明も導入することで,ヴァルールに基づく膨大な情報状態の組み合わせの一端を三次元空間にコピーすることに成功していると考えられる.

前回の記事「157:ヴァルールに基づく膨大な情報状態の組み合わせ」に上のように書いた.YOFはピクセルに基づく色のヴァルール(価値)を計算していく.そのとき,色は物理世界とのつながりを失い,個々のピクセルとピクセルの全体集合との関係の値に変換される.ディスプレイ上であれば,ピクセルのRGBの色情報を操作して,元画像のヴァルールと同じ値を示す別の配色の画像をつくることができる.そして,キャンバスなどの物理平面にコピーすることができる.

この段階では,ヴァルールという情報は二次元のサーフェイスに張り付いているように見える.確かに,ピクセルの集合を微小LEDの塊というモノとして扱っている場合は,その全体は二次元のままである.もともと色の「重なり」の情報はピクセルの集合から得られた情報にはない.そこには色の配列から生じる個々の差異の値と個々と全体との関係を示す値しかない.しかし,ヴァルールにはピクセルの関係しか記録されていないからこそ,その関係を保持していれば三次元化することができる.二次元的存在であるピクセルから得られた情報を組み合わせることで,三次元の現象を構成することができると考えられる.

二次元であろうが,三次元であろうが,そこに生じる関係を同じであれば,同一の現象が生まれる.個々のピクセルとピクセル全体との関係から計算されたヴァルールの値に基づいたイメージを,ディスプレイではなく,物理空間で構成することがYOFの《2D Painting》シリーズだと考えてみたい.このとき,ディスプレイに表示される二次元の画像が示す関係は,三次元空間に配置されるモノと照明との関係に置き換わることになる.そして,ヴァルール自体は二次元のサーフェイス的存在でもなく,三次元の空間・厚みを示すバルク的存在でもなく,この二つをいかにでも組み合わせることができる母型[マトリックス]のような関係の束になっている.

ヴァルールという配色の関係の束に基づいて,ディスプレイでは色情報を変数として扱い,三次元空間では照明の色とモノの配置を変数として扱いながら,配色の関係を現象として具体化していく.三次元空間ではモノの配置から「重なり」が生まれ,「重なり」が生まれることから「影」が生まれる.しかし,照明を制御することで「重なり」を色の対比でなくし,「影」を打ち消していく.さらには,鑑賞者の視野を制限するフレームをモノと照明とがつくる現象とのあいだにつくり,フレームを通すことで色の現れを「表面色」から「面色」へと変えることで,配置されたモノの「モノらしさ」を欠如させていく.フレームの奥に配置されたモノは,実際には空間的に前後して置かれているのだが,照明に照らし出されたモノとフレームとがつくる「面色」という色の現れが,モノの前後の「重なり」を削除していく.そして,フレームを通して,観賞者は「重なり」を持たない「厚み」を見ることになる.YOFはヴァルールというピクセルに基づいた関係の束を三次元空間のモノの配置と照明との関係に適応して,一つの組み合わせを具現化し,「重なり」を持たない「厚み」という現象を生じさせたと考えられる.



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?