167：📱🔗💻exonemo / Realm-UN-DEAD-LINK05

私は前回の記事で，次のように書いている．

スマートフォンによる「幻想の触覚」を経由した後で，デスクトップの二重性の感覚を改めて考えることは何を意味するのだろうか．それは「見えるもの」と「見えないもの」のあいだに「ずれ」を再度，見つめ直すことではないだろうか．「幻想の触覚」で一元化された感覚で，そこに亀裂を入れる「ずれ」を見いだすのは無駄なことかもしれないけれど，スマートフォンによって一元化された感覚への抵抗と考えてみたい．

《Ream》と《UN-DEAD-LINK 2020》というスマートフォンとデスクトップとを行き来する作品について考えて，私は上のテキストを書いた．今回はスマートフォン以前の「デスクトップの二重性」を体現していると考えられる《DanmatsuMouse》（2007）の，「見えるもの」と「見えないもの」とのあいだの「ずれ」について考えてみたい．

マウスを破壊する記録映像と、その時のデスクトップ上のカーソルの動きを記録したソフトウェア作品。作品を起動すると（マウスが破壊される）映像と一緒に、デスクトップ上の自分のマウス・カーソルが、実際に壊された時の動きを再現する。物質としてのマウスは破壊されれば復元することは不可能だが、デジタルな存在であるカーソル（矢印）は、何度でも繰り返し蘇り、同じ動きを繰り返すことができる。物理的な死と、デジタルな死を比較している。
https://un-dead-link.topmuseum.jp/works/danmatsumouse/

《DanmatsuMouse》は，モノとしてのマウスが破壊される様子を記録した映像と，破壊されるマウスの動きと連動するカーソルの動きとが重ね合わされることで，モノの死とデジタルな死との「ずれ」を示している．マウスが破壊されているあいだ，カーソルは「断末魔」のようにディスプレイ上を動きまわり，マウスがその機能を停止したとき，つまり「死」を迎えたとき，カーソルは動かなくなる．カーソルが停止したときがモノとしてのマウスの「死」が確定されると言ったほうがいいだろう．

マウスというモノが「死」を迎えることを，カーソルというインターフェイスが示す．カーソルはたんに動かなくなるだけで「死」の状態にあるわけではない．《DanmatsuMouse》では，マウスとカーソルという「見えるもの」をプログラムという「見えないもの」がつなげている．マウスとカーソルとをつなぐ見えない部分＝プログラムは生きているので，カーソルはあらたなつながり＝リンクを得れば，再び動き出すことができる．マウスが「死」を迎えているにもかかわらず，マウス単体では「死」を示すことができず，プログラムによってマウスとリンクされたカーソルがマウスに対して「死」を宣告できる．見えないプログラムは，見えるマウスとカーソルとのあいだに「ずれ」を生じさせて，そこに「死」を呼び込む．

けれど，それは映像としての「死」であって，何度も「再生」できる「死」である．映像のマウスは何度もで破壊され，何度でも蘇り続ける．だが，今回の展示では破壊され，「死」を宣告されたマウスそのものが展示されている．

映像で「死」を宣告されたマウスの「死体」がある，ということが，この作品の体験を大きく変えているように感じられる．見えないプログラムとカーソルとのつながりが宣告する「死」ではなく，目の前にマウスの死体＝「骸」があることで，「死」そのものを感じる．マウスの「骸」は「見えるもの」と「見えないもの」とのあいだの「ずれ」を埋めつつ，はみ出してしまう．プログラムとカーソルというデジタル側から宣告された「死」を取り消し，マウスという物理的なモノからデジタル側に「死」が与えられるというか，そこには否応なく「死」しかない．

映像で示される宣告される「死」とその手前に展示されたマウスというモノの「死」のあいだの「ずれ」が，私に「骸」という言葉を呼び込む．マウスの「骸」は，すべてのつながり＝リンクを断ち切り，デジタルな「死」や物理的な「死」との比較を押しつぶし，有無をいわせずただそこに存在している．