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076:デジタルなマテリアルをフィジカルな世界に召喚したゆえの「脆さ(fragility)」

「4 Material Centered Interaction Design───Toward a New Method and Foundation for Interaction Design」のまとめ

フィジカル・マテリアルとデジタル・マテリアルとのあいだに形而上学的・存在論的なちがいをつくるべきではない.このちがいをつくらないことで,「見える」マテリアルと「見えない」マテリアルとのあいだにも区別をつけないことになり,「物質」と「非物質(電波)」も一緒に扱うことになる.ここから,インタラクションデザインのマテリアル中心アプローチで考えるべき二つの問題がでてくる.

1.インタラクティブシステムのデザインで,フィジカル・マテリアルとデジタル・マテリアルをどのように一つの構成に落とし込んでいくのか.
2.コード,コンピューティングなどの情報をどのようにオブジェクトに落とし込んでいくか.

これらの問題を扱った一つ例としてのスマートフォンがある.スマートフォンはモバイル・インタラクティブシステムであると同時に,フィジカルなデバイスであり,ガジェットであり,「オブジェクト」なのである.

Addressing materials: Moving beyond non-skeuomorphic interaction design

マテリアル中心アプローチでは「何かに似ている」ではなく,実際に「何かである」ことを目指す.「何かである」とは.物質的形態のなかでそれ自身が現れていことであり,さらに,その現れのためにフィジカルとデジタルとの組み合わせを工夫することが求められる.例としては,The Misfit Ray braceletとAmazon echoが挙げられている.これらのデバイスは,コンピュータが消え去ると同時に,フィジカルな形態において計算的オブジェクトが現れてり,好ましいインタラクションの物質的具現化がそこにある.これこそがインタラクションのマテリアリティである.

Approaching materials and material properties───Craft and design

クラフトとデザインは同義語ではないが,排他的な存在でもない.クラフトとデザインは互いに補完的である.デザインは全体的なアプローチであり,プロセスであり,クラフトはやデザインプロセスにおけるマテリアルと作業する際の特定の態度や方法である.手元のマテリアルを理解するために,クラフトに注目することが見過ごされてきたと考えられる.

Different materials───Digital, analog, and smart materials

インタラクティブシステムでは,場所,速度,電波と言った「非物質的マテリアル」でさえ,デジタル・マテリアルとフィジカル・マテリアルと一緒に扱われるのである.

Different materials───Different material properties

「マテリアル中心インタラクションデザイン」はフィジカルな形態におけるインタラクションデザインの現れというだけではない.「マテリアル中心インタラクションデザイン」を行うということは,同時にデザインとそのプロセスである一つの態度をとることでもある.異なるデザインのマテリアルをよりよく理解することが求められている.

Digital materials (computational materials)

インタラクションデザインはアトムの世界とビットの世界とを縫い合わせることである.私たちは「非物質的マテリアル」がますます多くのアプリケーションのバックボーンになっていることを忘れてはならない.

Traditional/analog (traditional) materials

iPhone7の「ジェットブラック」アルミニウムカバーについて,Apple’s Strange Obsession With Fragilityという記事が参照されている.

工業デザインの視点から見ると同時に,インタラクティブプロダクトとしてジェットブラックの処理を考える必要がある.それは,ジェットブラックを外見として見るだけではなく,インタラクティブな製品のフィジカルな側面として,デジタルデザインと並列で考えることである.デジタルガジェットの「見た目と感触(look and feel)」が画面内のグラフィックデザイン,デジタルな部分のインタラクションだけでは決まらない.製品全体の「見た目と感触(look and feel)」が重要となってくる.

ここでワイバーグは指摘していないが,iPhone7とフラットデザインとの関係を考える必要があるだろう.デジタル的な質感を全面に押し出したフラットデザインの質感をフィジカルな要素に拡張した結果として,「ジェットブラック」が生み出されたと考えるといいかもしれない.それは結果として,デジタルなマテリアルをフィジカルな世界に召喚したことにあり,塗装の「脆さ(fragility)」に結びついたと考えてもいいだろう.

New/smart (dynamic) materials

材料工学からつくられる形態を変化させるあたらしいマテリアルがある.

ワイバーグとの関心とは異なるが,私はコンピュータの制御によって生み出されるあたらしいマテリアルによる触感をコンピュータと組み合わせた結果として,イッセイミヤケのDOUGH DOUGHの布とウェブサイトのスクロール表現があると考えてみたい.この画面内と外との関係は,iPhone7のジェットブラック塗装とも関係があるだろう.あたらしい物質的マテリアルとあたらしい非物質的マテリアルとしてピクセルの表現=映像とが相互に影響を与えている.そうすることで,そこに「インタラクションのマテリアリティ」を軸にした,あたらしいマテリアルとその触感が生まれてくる.

On doing material-centered interaction design───The "interaction-first" principle

コンピューティングが一つの実質(デジタル・マテリアル)だけに限定されなくなってきている.「インタラクション・ファースト」の原則で,どんなマテリアルがインタラクションに必要かを考えなければならない.それは次の順番でなされる.

1.デザインされたインタクションのかたちを探し,定義する
2.デザインされたインタラクションのために使用可能なマテリアルを探し,評価する
3.インタラクションのデザインにおいて異なるマテリアルの統合を繰り返していく

その一つの例が,Apple Watchの水の排出である.ここで求められたインタラクションは,スピーカーからの「水の排出」である.そのために,Appleのデザインチームは「振動」という非物質的なマテリアルに対する水(物質的マテリアル)の反応を理解することにした.その結果,スピーカーの振動板と水のインタラクションをを統合し,スピーカーからの「水の排出」を可能にしたのである.

この例はとても面白い.スピーカーが音を出すには振動が必要であり,音をつくる振動は,同時に水にも作用するものであった.

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