145:手の先のモノとそこまでの空間がなくなる?

目の前の空間を見て,そこに手を伸ばしても,手の先にあるモノに触れることはできない.目の前の空間にiPhoneをかざして,カメラアプリを起動する.そうすると,iPhoneのディスプレイに目の前の空間,手の先のモノが表示される.ディスプレイに表示された手の先にあるモノに触れてみる.指がディスプレイのガラスに当たるとともに,触ろうとしていたモノの「イメージ」に触れる.実際に手の先のあるモノには触れることはできないけれど,ディスプレイにコピーされた2次元の「イメージ」には触れることはできる.そのとき,ディスプレイ上のモノの「イメージ」とモノとでは,手で触れたときに感触はもちろん違う.感触以前にモノと「イメージ」ということで存在様態が違うとも言える.

けれど,このとき,手の先にあるモノをディスプレイで「イメージ」として触れるとき,手とモノとのあいだにあった空間はないことになっている.手とモノとのあいだの空間がディスプレイという平面に「圧縮」される.「圧縮」というか,あいだの空間はないものとなる.空間をないものとして,手の先にあったモノはディスプレイに表示されている.手とモノとのあいだにあった空間は,カメラアプリを起動したiPhoneのディスプレイでなかったようになっているが,実際の空間はもちろん消えていない.だから,手の先にあるモノに私は触れることができないままである.

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