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ミステリ系サイトの思い出、あるいは「追われるように読む読書生活」について

私は1999年の春に自分用のPCを手に入れ、その年の夏にはもうホームページをはじめていた。
ミステリを中心にした本の情報と、小説の感想を上げていくサイトだった。
当時は自分が読んだミステリの感想を気ままにアップしていくだけでよかった。
同じようなサイトをやっている仲間もいて、みんなで内輪で馴れ合いながら、変な言い方になるが「いちゃついて」いた。

当時のミステリ系サイトは我々が認識していただけで、200〜300くらいあったと思う。まだ出版社や作家などのサイトも少なく、ホームページを持っている作家の数も少なかった頃だ。もちろんツイッターもfacebookも存在していない。

ミステリ系サイトをまとめて読めるリンク集として、かつて北海道大学のミステリ研究会が運営していた「みすりん」というリンク集があった。みんなここからネットサーフィンを始めたものだ。
やがて、その進化形とも言える「ミステリ系更新されてますリンク」が誕生した。ただのリンク集ではない。更新時間の新しい順に並べられるリンク集だった。確か1時間おきに最新情報に更新されていたと思う。

私もそうだったが、大抵のミステリ系サイト(個人運営)は、ミステリの感想・書評とは別に「日記」ページがあった。その日の出来事、読んだ本、買った本、日々思ったことなどを更新した。
「ミステリ系更新されてますリンク」はその日記や書評の更新時間を拾っていたので、そのうち、「更新するための更新」をするようになった。どうでもいいことでもとりあえず日記を書く→リンクで上位にくる→カウンターが回るのが快感だった。
(そうだ、今やほとんど絶滅しているが、当時は累計閲覧数を表示する「カウンター」というものが存在した。そのカウンターを回すことがサイト運営の最大のモチベーションだった。「キリ番」を踏んだ人は「掲示板」に報告、とかもあった。そう、掲示板は当時、各サイトごとで運営していたのだ)
そして、ミステリの感想なども、「更新」のために書くようになっていった。感想を上げれば更新ができる。更新のために感想を書く。つまり、「サイト更新のために本を読む」ということになっていったのだ。

自分が読みたいミステリを読みたいタイミングで読み、その感想をあげるサイトを運営していたのに、気がつけば、感想をアップするという目的が最初にあって、そのために読書をするようになっていたのだ。
やがて、本を読むことが苦痛になってきた。感想のために読書に追われる状態が辛かったのだ。

なんのタイミングでそこから解放されたのかは定かではない。だが、ミステリ系サイトの繁栄はいつからか徐々に萎んでいく。mixiの流行、ブログの流行、ツイッターの流行あたりが要因だったと思う。各個人が(本来の仕事が忙しくなったりとかで)サイト運営に時間が割けなくなったこともあるだろう。自分のサイトの更新が疎かになり、やがてそういう「呪縛」から解放されていった。

これは、いわゆるミステリ系サイトをやっていた頃の「思い出話」だ。
当時の資料を探そうとしたら、皮肉なことに、自分がツイッターに書いたことのまとめtogetherが残っていたのでリンクする。当時のサイト管理人や、交友関係が懐かしく思い出される。

「togetherーミステリ系サイト興亡記」

実は最近、また似たような「読書に追われる日々」を感じるようになった。
出版社から送られてくるゲラ・プルーフだ。
特に最近は、ほぼ毎日のようになんらかのプルーフやゲラが届くようになった。
それぞれ、感想を書く締切が設定されており、その締切までに感想を書けば、初回配本をつけてもらったり、コメントが拡材に使われたりする。
ただ、そういう「追われる読書」は本来したくない。自分が読みたい本を、読みたいタイミングで読みたい。なので、申し訳ないが大部分は読まずにいることが多い。
めちゃくちゃそそられる作品や、自分から「読ませてください」とお願いした作品だけ、読むようにしている。やはり、ミステリが中心だ。
あいつ、プルーフ送ったのに感想返してこねえじゃねえか、と思われるかもしれないが、そういう事情なのでどうぞご理解いただきたい。

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