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日本人である、ということ

私は、日本人である。

この事実が死ぬまで、死んでからも普遍的なものであると気づいたのは、実はここ数年である。外国人に憧れたり、海外にかぶれてみたり、紆余曲折を経てやっとたどり着いたのだ。

中学生になって自我がそれとなく芽生えた頃、幼少期によく海外旅行に連れて行ってくれた両親の影響か、「現在の日本」に違和感を覚えることが増えた。”なぜ?と聞いても納得する回答をくれる大人がいないのは、なぜだろう”、”なぜみんなと同じじゃないといけないんだろう”。思春期には大小あれども、誰もが感じるであろうあのモヤモヤを、私も例外なく感じていたし、それはもしかしたら同級生と比べて時には広くて深かったのかもしれない。そこに生きているのが嫌で苦しくて仕方がなかった。

そして人生で初めての大きな願望を両親に伝えた。「留学してみたい」。実のところその時の記憶はほぼない。でも留学したこの約1年間が確実に、人生の分岐点だった。そこで今になって考えれば当たり前だ、というようなことを目の当たりにしたティーンの私はかなりの衝撃を覚えた。バスの運転手さんと元気?いい天気だね、と会話をしていいんだということ。所属やレッテルで判断されるのではなく、私が私として扱われること。周りの目を気にして行動しなくてもいいということ。大人に気に入られようとしなくていいこと。あっていようが間違っていようが、自分の意見を持つということが何より大事だということ。「現在の日本」に対する疑問がスッと晴れて、目の前がブワッと広がった感覚がした。日常のそれが晴れるだけで、英語でつまずいたり、友達とうまくいかなかったりすることも前向きに捉えられたようにも思う。記憶は美化されるので、実際はもっと大変だったかもしれないけれど。

一人の人間として扱われることに一年足らずで慣れ切ってしまった私は、帰国して高校生になると一匹狼のようになった。こういう規則だから守らないといけないんです、こうだからこうなんです、といったことに片っ端から「なんで?根拠は?意味なくない?こっちじゃダメなの?」と突っかかっていた。現実逃避のように身の回りの物やことを全て英語や海外に染めた。聴く歌、観る映画、読む雑誌、朝読書も洋書に変え、英語のネイティブの先生と交換日記を初め、英文法の授業は先生を無視して洋書を読み続け…。「帰りたい」が口癖だった。レッテルで判断される社会から出て、私を私とみてくれるところへ帰りたい、と。本気で日本人ではない誰かになりたいと願っていた。

その半現実逃避的な願いは大学時代も変わらず、むしろ濃くなっていたように思う。大学生になって世界が広がると同時に、SNSがどっと生活の中に浸透し、さらに広がった。もっともっと世界の情報が知りたい、という一心でいろいろな情報を集めていた。誰も知らない海外ブロガーに熱中してみたり、筆記体で書かれた画像を集めてみたり、日本では輸入で2000円もする洋雑誌を買ってみたり。

その反面、たくさんの留学生とも出会った。自分も海外へ旅行も短期留学もした。自分が嫌いだと思っている国や社会を目指してわざわざ来ているこの人たちは、何が良くて来ているんだろう?見えているものが違うのではないか?そう思えたのが転機だった。彼らの話を聞くと、実は日本という国・文化がとても独特で、興味深いことがわかった。日本が日本として受け継いできた雑種な文化や伝統は、ここにしか存在しないものなんだと。今でこそ様々なことが西洋化されてしまっているけれど、その中でも脈々と受け継がれている文化が確かにそこにはある、それがユニークなんだ、と。

その時、やっと気づいた。いくら恋焦がれても、私はアメリカ人にもイギリス人にもなれない。私は私で、永遠に日本人なんだ、と。だったらとことん大和人になろうじゃないかと。大事なものは守り、いいと思ったところは真似て取り込んでいく。これも日本人が得意としてきたものである。では自分もそんな人間になればいいのではないか?

そんなモットーが確立して少しでイタリアに来た。謙虚とは真反対な人々の中で”日本人”でいるのは未だ難しいけれど、ところ変われば見え方も変わるものだ。きっと私にしかできないことがあるはずだ。良いことに、ここ数年ヨーロッパではジャパンブームが続いている。寿司屋や居酒屋が増えた(今では中国人がやっていることの方が多いが。)のはもちろんだが、本屋や雑貨屋に日本のコーナーができていることも珍しくない。北斎や春画、漫画はもちろん、先日は「SŌJI」や「KAKEIBO」、「IKIGAI」というタイトルの本をみた。食文化に加えて、欧州のそれとかけ離れている日々の生活を”面白い”、”取り入れてみよう”と感じる人が一定数いるのは確かである。そこに我も一石を投じたいと思う。日本人として。

おわり。

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