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薄氷の上の平穏な日々




今年の幕開けは胸の痛む幕開けになった。

能登地方の震災に心を痛め、改めて平穏な日々を過ごせることに感謝しなきゃと思った数日後、私の平穏は音を立てて崩れた。



そろそろ寝ようかと、お風呂上がりにリビングでボーっとしていた私に、娘が泣きながら、話があると声をかけてきた。

「どうしたの?」

泣いている娘にそう声をかけて、娘の言葉を待つ。

私は頭の中で、学校でのトラブルだろうか、友達関係?  ...まさかいじめ?  ...被害者?  ...待って加害者?などと思考を巡らせながら、最近の彼女の様子を振り返っていた。


...特に気になる様子、なかったよね?

今日だって、家族でお出掛けして楽しく過ごしてた。

学校でも友達に恵まれて、毎日楽しく通学してる。


うーん... どうしたんだろう。


「話してみて?」


只事じゃないのかもしれない。

不安が募る。

まだ黙ったままの娘に、不安を悟られないように精一杯落ち着いた口調で優しく声をかけた。


親子のコミュニケーションは普段からとれている方だと思っているし、親子関係もこれと言った問題があるわけじゃない。


いったいどうしたんだろう...



「ママ...   あのね...」


泣きじゃくりながら娘が話し始めた内容は、全くの予想外、想定外のものだった。



「インスタで繋がった人とのDMで脅されて...」



娘の話を聞きながら、顔面蒼白、まさに血の気が引いていくってこうなんだろう、という状況を実感。


取り返しのつかない状況まで至ってしまっていることがわかり、すぐに夫に相談をして110番。

人生で初めての110番。


娘はいわゆる脅されて性的な画像や動画を送らされる、という性被害に遭っていたのだ。


電話で被害の概要を伝え、翌日警察署へ。


被害の内容に配慮していただいたのか、担当の警察官は若い女性で、私も娘も少しホッとする。


女性警察官と実際のDMでのやりとりを見ながら、事細かに被害の詳細を確認していく。


相手はおそらく手慣れているであろう様子。

脅しの文句も、誘導の仕方も、10代前半の娘が逃げることができないと思わされるような言葉運びで、娘を翻弄していた。

そしてまだ性の知識が殆どない娘に、こんな感じで撮って、と参考用に動画まで送りつけている。

送った画像や動画はすぐに送信取消をして良いよ、との相手の言葉に誘導され、娘は送ったものを送信取消してしまっており、自身のスマホのフォルダからも全てデータを削除してしまっている。
(そのため私は娘の送ってしまったデータは見ていない。見なくて済んだ、良かった、という気持ちが強かった。見ざるを得ず見たらきっと、一生忘れることが出来ない程の大きな傷を負っただろうから。)


女性警察官との事実確認の後、送った画像や動画が残っていないと言う点で、被害届を提出し立件するには証拠不十分というのが警察の判断であった。
(相談案件として処理されることとなった。)


相手はそうなることも知っていてのあの誘導だったんだろう。

かなり悪質だと思うが、どうすることも出来ない、という現実。

目の前に犯罪者がいるのに、何も出来ない。
(今なお、相手のアカウントは平然とインスタ上に存在している)


親の管理が悪かった。

ネットトラブルについて無知な子どもに教育できていなかった。

冷静になれず送ったのが悪かった。


被害者なのだけど、被害者の親なのだけど、自分が悪いのだと責められる。


たしかにそう。その通り。
騙される側も悪いのだろう。


私も、娘自身も、この先ずっと、送ってしまった画像や動画がどこかで晒されているかもしれないという恐怖を抱えていく。


どんなに楽しく幸せな時間を過ごしていても、心の片隅に消えることのない傷を負ってしまった。


それでも日々は続いていく。


身体的な被害がなくて良かった。

娘が自ら打ち明けてくれて良かった。


良かった、と、そう思えることを探して、それを糧にして過ごす。


大丈夫、大丈夫、きっと大丈夫。そう言い聞かせるようにして過ごす。




1ヶ月余りが過ぎ、一見、平穏な日々が戻りつつある私たち。


でも足元を見れば、いつ崩れてしまってもおかしくないような薄氷の上に立っているようだ。


これ以上の悪夢が起きないように。

薄氷が割れてしまわないように。

そう祈りながら日々を過ごしている。


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