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サフランの香りに惹かれて

 香りが好きだ。そして、食べることが好きだ。これまでに嗅いだことのない素晴らしい香りを、口にしたことがない妙味を、探すともなく探して彷徨うような人生を過ごしている。

 嗅覚と味覚は繋がっているので、美味しい物と出会ったことがきっかけで、「こんな香りに出逢いたい」というインスピレーションが湧くことがある。最近は、サフランを惜しみなく入れて作ったと思われるサフランライスを食べて、サフランの香料が使われている香水に目が向くようになった。

 横田基地前の国道沿いにあるイタリアンレストランは、注文したことがあるメニューはどれも美味しかったが、専らパスタメニューに目が向きがちだった。が、看板メニューと強調されていたので、一度は食べてみようかということになり、『イタリアンライス』なるものを注文してみた。

 これは、サフランライスにトマトソースで煮込まれたチキンや魚介類がかけられた、黄色に赤の色彩が目にも鮮やかな一品だが、サフランライスとトマトソースを一緒に口に入れると、海の水の香りが鮮烈に鼻を抜ける。最初は、イカやタコ等の魚介類からきた香りなのかと思った。が、イカやタコを単体で食べて、ここまでの水気ある香りを感じたことは無い。そして、その香りの中には、苦みのある香りも混ざっているように感じた。
 そういえば、料理用の瓶詰めのサフランを開封した時、意外と水気というか、アクアティックな香りが感じ取られて、驚いたことを思い出した。もしかしたら、この水気ある香りが、サフランをサフランたらしめているのかもしれないと思った。何故なら、これまで複数の場所でサフランライスと銘打たれたものを食べてきたが、「これ、サフラン入ってる?ただ黄色い色がついたご飯というだけの代物なんじゃないか?」と疑いたくなるようなものも正直あり、それらからはいずれも、水気のある香りは感じられなかったからだ。
 話をイタリアンライスに戻すと、そのサフランの香りと味が魚介と絡み合った時、海の水の印象となる。その印象を更に鼻と舌に刻みつけたくなり、スプーンが進む。最終的に、「こんなにサフランがしっかり効いてるサフランライス、初めて食べたよ」と、感嘆の雄叫びを上げつつ腹をさすっていた。

 それ以来、香りの構成の中に「サフラン」と明記された香水に目が留まるようになった。
 日本の調香師による香水ブランドーPARFUM SATORI パルファンサトリから2023年春に発売された新作香水ーNOBIYAKA ノビヤカには、公式ブログによると、Akaitoサフランという国産のサフランから採油された天然香料が使われているそうだ。

 NOBIYAKAの香りの第一印象は、若々しいフルーティ・フローラルで、中年の自分が日常的に纏うのは気恥ずかしいような気もするが、たまにはこのような素直にのびやかな香りを纏い、ノスタルジックな気分に浸りたくなることもある。そして、この香りは、単なるノスタルジックでは終わらず、自分にとっての新しさがあった。公式ブログで香りの構成を何度も眺めていて、「枇杷の花と実が使われている香水というのは、なかなか無いんじゃないか?」とか、「梅酒とかダバナとかが使われていて、ちょっと酔わせるような酒感があるところが、グッときたのかも?」とか、自分にとっての新しいポイントを推測してみたが、Akaitoサフランアブソリュートが入っていることも、ポイントの一つなのではないかと思う。
 この香りのタイプは、『オゾン・フルーティ・フローラル』と記載されているが、この『オゾン』を表現しているのは、やはりサフランだろう。サフランの苦みのあるアクアティックな香りが、フルーティな香りの瑞々しさを強調しつつ引き締めているのではないか。

 イタリアンライスにしても、NOBIYAKAにしても、それらの中でサフランは主役ではない。イタリアンライスの主役は魚介のトマトソース煮込みであろうし、NOBIYAKAの主役はフルーティな香りであろう。が、サフランは、そのアクアティックな印象により、魚介の海っぽい味を引き立て、フルーツの瑞々しい香りを引き立てている。サフランのその名脇役ぶりに、私は惹かれているのだ。

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