【東京五輪2020】米国代表メンバー(2) 注目の投手編

東京五輪2020の野球・米国代表が、8月5日の韓国戦に勝利し、今日8月7日の決勝戦で、日本代表と再び激突して、金メダルを争うことになった。

野球大国の米国といえども、五輪では2000年シドニー五輪以来となる金メダルを目指すことになる。野球日本代表は1996年アトランタ五輪以来の決勝進出だが、五輪野球の決勝の舞台で、米国と日本が対戦するのは1988年ソウル五輪以来となる。

五輪の野球には、米国のメジャーリーガーは出場しないため、日本以外の代表メンバーは、元MLB経験者のベテランや、メジャー昇格前のトッププロスペクト、NPBのような他国のプロ野球リーグで活躍する選手で構成されるのが特徴である。
米国代表もその傾向が強く、悪く言えば「寄せ集め」の感は否めないが、個の能力は高く、実績のある選手も揃っている。

日本代表に立ちはだかる米国代表の投手たちを見てみよう。

(五輪 野球米国代表 注目の野手編はこちら)
https://note.com/mmiyauchi/n/n2a8d5279cbc5

米国代表の先発陣

今大会、米国代表の先発投手陣のローテーションは以下の通りである。

7月30日(金)イスラエル戦 8-1 〇ジョー・ライアン
7月31日(土)韓国戦 4-2 〇ニック・マルティネス(ソフトバンクホークス)
8月2日(月) 日本戦 6-7x ●シェーン・バズ
8月4日(水) ドミニカ戦 3-1 〇スコット・カズミア
8月5日(木) 韓国戦 7-2 〇ジョー・ライアン

決勝戦、米国の先発は、ローテーション通り、中6日でニック・マルティネス(福岡ソフトバンクホークス)が予定されている。

マルティネスは初先発となった韓国戦で5回・87球を投げて、被安打4、9奪三振、無四球、1失点と好投している。

31歳を迎えたばかりのマルティネスは2018年に北海道日本ハムファイターズに入団、先発ローテーションの要として10勝を挙げ、防御率3.51をマーク、Aクラス入りに貢献した。2019年は故障で一軍登板はなく、2020年は2勝どまりでオフに退団、今季から福岡ソフトバンクホークスに移籍しているが、5月1日の今季初先発以降、11試合すべてで、甲斐拓也とバッテリーを組み、クオリティスタートは10試合、うちハイクオリティスタート(7回以上、自責点2以下)は4試合で、7勝2敗、防御率2.03と非常に安定している。

今季、マルティネスと日本代表メンバーとの対戦成績は以下の通りである。

山田哲人(ヤクルト) 3打数3安打 1本塁打
吉田正尚(オリックス)8打数1安打 2三振
村上宗隆(ヤクルト) 3打数2安打
浅村栄斗(楽天) 2打数1安打
梅野隆太郎(阪神) 3打数1安打
源田壮亮(西武) 3打数1安打

山田は6月12日のソフトバンク戦(PayPayドーム)で、先発のマルティネスに対して、3打数3安打、1本塁打とカモにしている。一方、吉田は比較的、マルティネスを苦手としているといえる。吉田はなかなか三振しない打者だが、9打席で2三振を喫している。
マルティネスも、日本代表もお互いに手のうちはわかっている者同士であり、特に普段、バッテリーを組む甲斐拓也、同僚の栗原陵矢(ソフトバンク)との対戦の可能性もあり、面白いマッチアップとなりそうだ。

米国代表のリリーフ陣

今大会、米国代表のリリーフ陣の登板状況は以下の通りである。

7月30日(金)イスラエル戦 8-1
ジョー・ライアン(70球)→ディクソン(15球)→カーター(11球)→ライデン・ライアン(20球)

7月31日(土)韓国戦 4-2
マルティネス(87球)→マクガフ(13球)→ジャクソン(23球)→ゴース(15球)→ロバートソン(17球)

8月2日(月)日本戦 6-7x(延長10回)
バズ(57球)→ディクソン(26球)→カーター(16球)→R. ライアン(15球)→ゴース(22球)
→ロバートソン(15球)→マクガフ(20球)→●ジャクソン(2球)

8月4日(水)ドミニカ戦 3-1
カズミア(77球)→ディクソン(18球)→マクガフ(23球)→ゴース(15球)→ロバートソン(20球)

8月5日(木)韓国戦 7-2
ジョー・ライアン(74球)→ライデン・ライアン(15球)→マクガフ(18球)→ゴース(18球)→カーター(13球)

スコット・マクガフ(東京ヤクルトスワローズ)とアンソニー・ゴース(インディアンス傘下3A/コロンバス)が4連投している。
ただし、休養日を挟んでいるため、二人とも、2日連続での登板は8月4日と5日。

マクガフは来日3年目を迎えた今季、セットアッパー、クローザーとして39試合に登板し、2勝1敗、16セーブ、14ホールド、防御率2.39と安定している。

8月2日の日本戦では、1点リードの9回に登板、先頭の吉田正尚(オリックス)はセカンドゴロに打ち取ったが、続く、鈴木誠也(広島)に四球を与え、浅村栄斗(楽天)にライト前ヒットで一死一、三塁のピンチを招くと、柳田悠岐(ソフトバンク)のセカンドゴロの間に三塁走者・鈴木誠也の生還を許し、リードを守れなかった。

また、4連投となった韓国戦でも、6点リードの7回に登板、韓国の7番打者にフェンス直撃のタイムリー二塁打を浴びるなど、2/3を投げて3本のヒットで1点を失っている。

ただし、ソーシア監督は、NPB所属の投手たちを「日本の打者をよくわかっている」という理由で重宝しており、勝負どころでは躊躇なく投入してくるだろう。

アンソニー・ゴースは俊足強肩の外野手として2018年のMLBドラフトでフィラデルフィア・フィリーズから2位指名を受けている。その後、移籍したブルージェイズでは川崎宗則とチームメートで、2012年にメジャーデビューしている。2015年にはキャリアハイとなる140試合に出場、打率.254、5本塁打、23盗塁という成績を残しているが、2017年に投手への転向を決断した。マイナーリーグのデビュー戦でいきなり、左腕から159キロを計測したが、まだメジャー昇格はない。ゴースは年齢は30歳と、MLB昇格のラストチャンスを伺っており、今大会が最大のアピールの場となる。

日本戦でも1点リードの6回の二死走者なしから、マウンドに上がり、左の吉田正尚に対し、初球いきなり157キロを計測した。結局、吉田には158キロを逆方向にレフト前ヒットを打たれたものの、続く鈴木誠也を157キロの高めの直球で空振り三振を奪っており、
イニングをまたいだ7回には、浅村栄斗をレフトフライ、柳田悠岐はインサイドの直球を詰まらせてファーストゴロ、菊池涼介(広島)もセンターフライに打ち取った。
ゴースは5回1/3を投げて、許したヒットは吉田正尚の1本だけ、四球もわずかに1、失点はゼロ。変化球の精度は高くないが、四球を出すタイプでもなく、決して当てられない速球ではないが、ヒットゾーンに打ち返すのは難しく、終盤、ビハインドの場面では迎えたくない投手である。

元オリックスのブランドン・ディクソンも今大会、よい働きを見せている。
36歳のディクソンは8年間在籍したオリックスを今季、退団することとなった。
新型コロナウィルスの影響で、ディクソンの家族が来日できず、ディクソン自身もファンに惜しまれつつチームを去ることになったが、意外な形で日本に帰ってくることになった。

ディクソンは2011年にセントルイス・カージナルスでメジャーデビューしたものの、2シーズンで8試合に登板して未勝利、2013年からオリックスに入団した。
最初の6シーズンは先発要員で、通算47勝を挙げたが、2019年からはリリーフに専念し、クローザーとして2シーズンで34セーブを挙げた。NPB在籍8年間では通算215試合で防御率3.32の成績を残した。ツーシーム、チェンジアップ、ナックルカーブと多彩な変化球でゴロを打たせる投球術は健在である。

日本戦では、1点リードの4回に坂本勇人(巨人)にあわやホームランかという、レフトフェンス直撃のタイムリー二塁打を打たれ、同点に追いつかれたが、続く、元同僚の吉田正尚との対戦では、フルカウントまで粘られながらもセカンドゴロに打ち取り、ピンチを脱している。
ディクソンはイスラエル戦、ドミニカ戦では1回づつを無失点に抑えており、ソーシア監督のディクソンへの信頼は揺るがないであろう。

そして、今大会、米国代表チームのクローザーは、36歳の右腕のデイビッド・ロバートソンである。
ロバートソンはMLB実働12年間で、通算661試合に登板し、137セーブ・147ホールドという記録をマークしている。
2006年のMLBドラフトでニューヨーク・ヤンキースから指名を受け、2011年には、レジェンド級の守護神、マリアノ・リベラに繋ぐセットアッパーとして、リーグ最多の34ホールドを記録すると、2014年にはリベラの後継者としてクローザーの座につき、39セーブを挙げた。ヤンキースでは、松井秀喜、イチロー、黒田博樹、田中将大とチームメートだった。

ロバートソンはヤンキースでの実績を引っさげ、2014年オフにシカゴ・ホワイトソックスと総額4,600万ドルの4年契約を勝ち取った。
2010年から9年連続でシーズン60試合以上の登板をクリアし、特に2014年からは3年連続30セーブ以上を挙げるなど、MLBを代表するリリーバーの一人となった。

その後、ロバートソンは2019年にフィリーズと2年・2,300万ドルの大型契約をしたが、直後に右肘の故障が発覚した。トミー・ジョン手術を受け、ほぼ2年間を棒に振ったため、2021年には契約するMLBチームが現れなかった。

しかし、ロバートソンは今大会、3試合に登板して2セーブと、まったくブランクを感じさせない投球内容になっている。投球のほとんどがカットボールとナックルカーブであるが、右左関係なく、ナックルカーブでカウントを整えることができ、特に右打者には曲がりの大きいカットボールが有効である。
日本戦でも8回に登板し、村上宗隆も坂本勇人もワンバウンドするようなカットボールを振ってしまっており、近藤健介(日本ハム)も内角を引っかけてセカンドゴロに倒れるなど、攻略は難しそうに見える。
ただし、走者を出してもクイックはせず、四球で出した山田哲人に悠々と二塁盗塁を許しており、なんとか出塁すれば、攻撃の糸口は見出せるだろう。

米国代表、苦しいリリーフ陣の運用になった理由は?

それにしても、米国代表は今大会、何故、このような苦しい投手運用になっているのか。

実は今大会、米国代表はリリーフ要員の右腕、シメオン・ウッズ・リチャードソンが唯一、1度も登板していない。理由としては、リチャードソンが五輪開幕直後、7月30日にツインズにトレードされており、ツインズがリチャードソンの登板を許可していないのではないかという説もあるが、真相は不明である。
もし、リチャードソンが何らかの理由で登板できないとなると、先発要員の4人を除いたリリーフ6人で廻さないといけない。

また、37歳の右腕、エドウィン・ジャクソンは、MLB史上最多となる12球団を渡り歩いた「ジャーニー・マン」であり、17年間で二けた勝利5回、通算107勝と実績はあるが、2019年のシーズンを最後にメジャーのマウンドからは遠ざかっている。
2020年はマイナーリーグも中止となり、登板の機会はなく、2021年のシーズンも五輪代表選出を受けて、慌てて独立リーグのチームと契約して、1試合だけ調整登板をしており、実戦からだいぶ遠ざかっている。
今大会でも、ジャクソンは7月31日の韓国戦では2/3を無失点に抑えているが、8月2日の日本戦では、タイブレークの延長10回に8番手として登板、代打の栗原陵矢に初球バントを決められると、続く甲斐拓也にも初球、フェンス直撃のサヨナラタイムリーを浴びており、ソーシア監督としては自信を持って、マウンドに送り出せるとはいえないかもしれない。

そうなると、マルティネスが何等かの理由で早期降板となれば、8月2日の日本戦に先発した右腕のシェーン・バズを第二先発のような形で登板させる可能性は高い。中4日でスタミナにまだ余力はあるとみられるからだ。

22歳のバズは、2017年MLBドラフト1巡目(全体12位)でピッツバーグ・パイレーツに指名され入団。現在はタンパベイ・レイズ傘下3Aダーハム・ブルズに所属し、レイズの2021年プロスペクトランキング5位という逸材である、今季は6月中旬に3Aに昇格すると、ここまで5試合に登板、23回を投げ、1勝0敗、33奪三振、防御率1.96。有望なマイナーリーガーが選出される「オールスターフューチャーズゲーム」で登板した際は、MAX159キロを計測した。9月にメジャーの選手枠が拡大されれば、今季中に確実にメジャー昇格できる見込みである。

バズは初先発となった日本戦では3回途中、57球、被安打5、2失点で降板している。奪三振はわずかに1。球速はあるが、それだけで日本代表の打者から三振を奪うのは難しそうだ。しかも、3四球と制球難が気になるところだ。

いずれにせよ、米国も投手陣は総力戦で臨むことになるだろう。
日本代表の先発は、森下暢仁(広島)が予定されている。
日本代表はどのような形でもいいから早めに先制し、試合を有利に進めたい。

両国が悲願の金メダルを懸けた決勝戦は、今夜19時、横浜スタジアムでプレイボール予定である。

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