【東京五輪2020】米国代表メンバー(1) 注目の野手編

東京五輪2020の野球は、日本代表が準決勝で韓国代表を破り、決勝進出を果たした。

五輪で野球が正式種目になってから、日本代表が決勝に進むのは、1996年のアトランタ五輪以来、25年ぶりの快挙である。

一方、決勝で日本代表と対戦するのは、米国である。野球大国の米国といえども、五輪では2000年シドニー五輪以来となる金メダルを目指すことになる。野球日本代表は1996年アトランタ五輪以来の決勝進出だが、五輪野球の決勝の舞台で、米国と日本が対戦するのは1988年ソウル五輪以来となる。

五輪の野球には、米国のメジャーリーガーは出場しないため、日本以外の代表メンバーは、元MLB経験者のベテランや、メジャー昇格前のトッププロスペクト、NPBのような他国のプロ野球リーグで活躍する選手で構成されるのが特徴である。
米国代表もその傾向が強く、悪く言えば「寄せ集め」の感は否めないが、個の能力は高く、実績のある選手も揃っている。

米国代表はどんなメンバーなのか?

まず、米国代表を率いる、マイク・ソーシア監督は、2018年までロサンゼルス・エンゼルスの監督を務めていたため、日本では松井秀喜や大谷翔平の「上司」として認知されているかもしれない。

ソーシアは、1976年のMLBドラフトでドジャースから1位指名を受けた捕手で、選手としてもドジャース一筋13年間で、強肩の正捕手としてワールドシリーズ制覇も経験し、1131安打、68本塁打、打率.258と活躍した。

2000年に42歳でアナハイム・エンゼルス(2016年よりロサンゼルス・エンゼルス)の監督に就任すると、2002年にはワイルドカードからプレーオフ進出を果たし、球団史上初のリーグ優勝、ワールドシリーズでもサンフランシスコ・ジャイアンツを破り、ワールドシリーズ制覇に導いた。2018年にエンゼルス歴代最多の監督勝利数という記録を残し、勇退した。

ソーシアはいわば「オールドスクール」の知将と思われがちだが、捕手出身でありデータ重視の細かい野球を信条とし、スモールベースボールを好む一方、チームの主砲、マイク・トラウトを2番打者に置いたり、打球方向のデータや、投手の配球によって大胆に守備位置を変えたりするなど、采配には早くからセイバーメトリクスの考え方を採り入れている。その一方、MLBではまだ実績のなかった大谷翔平の二刀流挑戦にも柔軟な姿勢を見せていたり、ラテン系の選手ともスペイン語でコミュニケーションを図るなど、多国籍チームを率いるための適性も十分である。

今大会でも、ソーシア監督はデータの比較的少ない国際試合にもかかわらず、打者や配球によって守備シフトを大胆に動かしたり、ベンチから捕手に配球を指示したりしている。
特に日本戦では、延長10回のタイブレークの守りで、一死二、三塁の場面、自らマウンドに赴き、「内野5人シフト」を敷くなど、ソーシアの面目躍如といったところである(結果は、甲斐拓也が初球をフェンス直撃のサヨナラヒットで水泡に帰したが)

次に、米国代表で注目すべき野手から見てみよう。


米国で最も警戒すべき打者は?

トリストン・カサス、タイラー・オースティン、そしてトッド・フレイジャーである。

トリストン・カサスは2018年のMLBドラフトで、ボストン・レッドソックスから1位指名を受けた、今年21歳のトップ・プロスペクトである。右投げ左打ちのいわゆる、5ツールプレイヤー(*)で、高校時代は投手と内野手を兼任していた。
マイナーリーグでは3シーズン・168試合で26本塁打を放つなど、大器の片鱗を見せている。この大会でも、元メジャーリーガーのベテラン野手たちを抑え、主軸に座る。

日本戦では、3-3の同点で迎えた5回、無死一、二塁の場面で、2番手の青柳晃洋(阪神)と対戦し、逆方向のレフトスタンドに叩き込む3ランホームランを放っている。

2ストライクに追い込まれてからは、193cmの身長を折り曲げるようにして、バットを短く持ってミート狙いをするなど柔軟性もある。
五輪での活躍を手土産に、今季中のメジャー昇格を果たしたいところだ。

タイラー・オースティンは言うまでもなく、横浜DeNAベイスターズでも活躍する右の大砲だが、もともとは2010年のMLBドラフトで、高卒ながらニューヨーク・ヤンキースから13巡指名を受けた。
2016年8月13日のタンパベイ・レイズ戦では「7番・一塁手」で先発出場し、初打席でいきなり初本塁打を打った。ヤンキースでは、主砲のアーロン・ジャッジらと共に、若手として期待されていたが、パワーはあるものの、変化球に弱く、ミート率が低いが故に三振も多かった。しかも、全力プレーが故に故障も多く、MLBでは5シーズンで通算209試合、33本塁打と伸び悩んだ。
ベイスターズに来てからも故障がちで65試合の出場に留まるも、20本塁打と長打力を発揮、2020年オフに契約を更新して、ベイスターズファンを安堵させた。
米国代表の中では、当然ながら、日本代表の投手との対戦が最も多く、オースティンが打席やベンチで果たす役割はかなり大きいはずだ。

トッド・フレイジャーも、今年35歳のベテランの右打者だが、2007年のMLBドラフトでシンシナティ・レッズから1位指名を受けた。
打率は低いものの、2014年には29本塁打、2015年に35本塁打で、レッズの主砲に成長した。ホワイトソックスに移籍した2016年に40本塁打とキャリアハイを記録し、単年で1200万ドルという年俸を勝ち取った。
2017年の途中にヤンキースに移籍して、田中将大、オースティンとチームメートになった。2018年にニューヨーク・メッツに移籍、2019年まで8年連続で二桁本塁打を記録した。

35歳を迎えた2021年のシーズンは打撃不振に陥り、5月にDFA(メジャー40人枠を外れる)となったが、ここで、五輪米国代表の選出の話が舞い込み、6月から米国独立リーグでプレーしていた。

日本戦では、4回に元同僚の田中将大から追撃のタイムリー二塁打を放ち、一時同点となるホームを踏み、MLB通算218本塁打の実績は伊達ではないことを証明した。MLB復帰に向けて猛アピールするモチベーションは十分にある。

そして、変わり種は、1番・セカンドのエディ・アルバレスである。

マイアミ出身、30歳のアルバレスは幼少からローラースケートを始め、2008年・2009年の世界ジュニア選手権に出場するほどの頭角を表す。
その後、膝の手術を受けて一度はスケートを離れて野球をプレーしていたが、2012年に再びスケートに戻り、2014年ソチ五輪で米国代表になると、男子ショートトラックスピードスケート5000mリレーで銀メダルを獲得した。

その後、スケートを引退して、野球に本格的に復帰、2014年にシカゴ・ホワイトソックスとマイナー契約を結び、スピードスケートと野球の「二刀流」として話題になった。

2020年はマイアミ・マーリンズ傘下の3Aでプレーしていたが、マーリンズの選手の多くが新型コロナウイルスに集団感染したことで、8月3日にメジャーに緊急昇格。8月5日のボルチモア・オリオールズ戦でメジャーデビューを果たし、12試合に出場した(打率.189、0本塁打、2盗塁)。

今回、五輪米国代表に選出されたことで、冬と夏の五輪の両方に出場して、メダルを獲得するチャンスが訪れている。

*「5ツールプレイヤー」とは、「ミート力」「長打力」「走力」「守備力」「送球力」の5つの能力を兼ね備えた選手を指す。

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