【プロ野球】ムードメーカーへの度を超した「イジリ」はファンも共犯ではないか?

東京五輪も終わり、NPBもペナントレース後半戦を明後日に控えた今日、衝撃的なニュースが飛び込んできた。

https://www.nikkansports.com/baseball/news/202108110000367.html
中田翔が暴力行為 日本ハム「厳正な対応」模範行為違反で出場停止処分 - プロ野球 : 日刊スポーツ
日本ハムは11日、中田翔内野手(32)に対して統一選手契約書第17条(模範行為)違反による出場停止処分を科したと発表した。
 - 日刊スポーツ新聞社のニュースサイト、ニッカンスポーツ・コム(nikkansports.com)

この記事によれば、

「この日までに中田本人および該当行為を受けた選手と、事情を知る選手、スタッフらに対して詳細な調査を実施。行為を受けた選手からは大事にしたくない旨の申告があり、中田自身も深く反省していたというが、それらの事情を踏まえてもなお「統一契約書第17条に違反し、野球協約第60条(1)の規定に該当するものと認定」したため、当面の間、1、2軍すべての試合の出場停止処分を通達した。」

被害者は明かされていない。
被害者が特定されていない前提であえて言うが、中田翔選手といえば、ある特定の選手をイジることが、ファンの間でもネタになっていた。

ファンも、その選手のことを「いじられキャラ」としてを面白がっていた節がある。

Twitterでも、被害者はその選手だと推測あるいは断定して書いている人もいるし、むしろ、その選手だったら問題にはならないはず、と書いている人もいる。

Twitterには、いつの映像か分からないが、中田選手がベンチでその選手に張り手をくらわし、その選手がよろけて倒れ込むという映像も流れてきた。

私が怖いと思ったのは、中田選手が「暴力行為」を働いたと球団が認定しているのに、その選手に対してであれば、暴力行為にはならない、と思っている野球ファンが少なからず存在することをソーシャルメディアを通じて、確認したことだ。

一般社会では近年、セクハラやパワハラ、モラハラがこれまで以上に問題視されているし、そうした行為に対する処分も厳しくなってきている。
そして、それらは、「アンコンシャス・バイアス」、つまり、「無意識の偏見」に基づくものが多いとされる。

「アンコンシャス・バイアス」とは、自分自身が気づいていないものの見方や捉え方のゆがみ・偏りのことを指す。具体的には、誰かと話すときや接するときに、これまでに経験したことや、見聞きしたことに照らし合わせて、「この人は○○だからこうだろう」「ふつう○○だからこうだろう」というように、あらゆるものを「自分なりに解釈して」しまうことだ。

その勝手な思いこみが、他人の気持ちを踏みにじる言動につながっているのである。

今回のケースでいれば、その選手はチーム内で、自他共に認めるムードメーカーであり、チームメートや場を和ませようとして、いじられキャラ、ある種、道化的な役割を買って出ていたのかもしれない。

それに乗っかって、その選手をイジることがみんなの雰囲気をよくすることであり、その選手にとっても、お笑い芸人のように、いじられるキャラは美味しいという考えだったのかもしれない。
だが、それも行き過ぎれば、問題だ。
その選手だって、他人からのいじりのすべてを許容しているわけではないのに、そういうキャラだと認定されているが故に、いまさら後に引けなくなってしまっているかもしれない。
つまり、その選手の周囲もファンも、「こいつはどんなにいじってもかまわない」という無意識のバイアスが出来上がっているのである。
そうだとすると、そういう考えを持っているファンも、共犯者であると言わざるをえない。

プロ野球に進むような選手たちは、学生の頃から、いわゆる体育会的なノリで過ごしてきた人も多いと思う。
チームスポーツがゆえに協調性が求められてきたとも思うし、チームのみんながまとまるためには、みんなを鼓舞したりする行為も必要だと思う。
例えば、試合前にベンチ前で円陣を組んで行う「声だし」などがそうだ。
(そして、その動画は球団公式のインスタグラムなどのソーシャルメディアで配信される。)
だが、若手選手の口上が面白くないと先輩がからかい半分になじったりするのをファンは比較的、好意的な目で見る。
そして、声出しに限らず、チームのみなを盛り上げる行為というのは、先輩が後輩に無理強いしたり、ついつい、それが多少、悪ノリであっても「みんながやっているんだから、おまえもやれ、それが正しい」、という同調圧力になったりしがちだ。

だが、野球というスポーツは好きだし、やりたいが、そういう集団の雰囲気になじめない人だっている。それで早い段階で、野球に限らず、チームスポーツをあきらめた人もいるだろう。
そういう人の存在も認めるのが、最近、よく言われるようになった「多様性」である。

一方、プロ野球でも、そうしたイジリをファンに見せることを、一種のファンサービスのようにとらえてきたし、黙認してきた節はないだろうか

野球界にとって、若年層の野球人口が減少しているというのは喫緊の課題である。
黙っていても、野球に選手が集まってくるという時代はとうに終わっているのである。

野球人口の減少や他のスポーツへ流出している原因は、野球の場合、親への負担が重いとか、指導者の理不尽な指導スタイルがまだ蔓延っているとか、色々と分析されている。

さらにいえば、野球界は、選手本人の意思に関係なく、チームを和ませるという美名のもとに、どんなイジリをしてもかまわない、という無意識なバイアスに支配されていないか?
悪しき体育会的なノリを強要するのは多様性に反していないか?
そして、そういう雰囲気が、野球をあきらめることにつながっていないか?
これらを深く掘り下げるべきだと考える。

「アスリートだからメンタルが強い、また強くあるべきだ」というのもアンコンシャス・バイアスのなせる考え方だ。
テニスの大坂なおみ選手も、今年5月に2018年頃からうつ状態であったことを告白した。
東京五輪でも、アメリカの女子体操界のスターである、シモーン・バイルス選手が、体操女子団体決勝をメンタルヘルスの問題を理由に途中棄権した。

そして、チームスポーツでムードメーカーを買って出ている選手だからといって、どんなことにも対処できるメンタルを持っているとは限らない、ということに、我々は思いを及ばさないといけない。

北海道日本ハムファイターズという球団が、今回、きちんとしたプロセスを踏み、チーム主力選手に対して、暴力行為を認定し、処分を下したことは評価するが、それが起きた背景についても更によく調査、分析していただきたい。

球団関係者には、選手一人一人にとってよりよいチームになるためにどうしたらよいか、ファンから気持ちよく応援してもらえるようになるにはどうしたらよいか、そして、どうしたら野球を志す少年少女たちの範になれるのか、より深く考えていただければと願う。

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