オールスターゲーム2023、「ファン投票独占」よりも問題なNPBの姿勢
NPBの2023年のオールスターゲームのファン投票の結果が公表された。
セントラル・リーグは11部門のうち、10部門で阪神タイガースの選手がトップとなり、ファン投票での選出となった。
オールスターのファン投票で、同一球団の選手が全部門(投手、捕手、一塁手、二塁手、三塁手、遊撃手、外野手)で1位を獲得するのは、1978年の日本ハムファイターズ、1983年の読売ジャイアンツ以来、3度目となった。
ネットでは、様々な意見があった。
オールスターゲームファン投票のルールには「改善」が必要
私自身の意見は結論から言うと、
「ファン投票なのだから、別に構わない」
では、一体、どのようなファン投票の「結果」であれば、誰もが納得するのだろうか?
原則、「人気投票」であっても構わないと思う。
今季のここまでの個人成績「だけ」で決めるのであれば、ファン投票という制度は不要である。
プロ野球ファンだって、誰もプロのような目線で野球を観ているわけではない。
ライトなファンも立派なファンである。
また、「組織票」の問題はどうやっても解決することはできない。
ファンが投票する際に登録すべき条件を厳しくして、1人1票にだけ限定すれば、同一人物による大量得票は防げるかもしれないが、あまり現実的でもない。
1日に投票できる回数を制限したところで、チーム毎の得票の偏りを根本的に是正することは不可能だし、逆に過度に制限すべきではない。
「ファン投票」はファンに選手の選出を委ねていることに価値があるのだから、それを不必要に制限するのは主旨をゆがめることになるのでないだろうか。
しかしながら、NPBが「ファン投票」のルールが公正さを欠いているのであれば、
ファン投票の「ルール」自体を「改善」「改良」すべきだと考える。
私がファン投票の仕組み、ルールで問題だと考えるのは、主に以下の5点である。
問題点①チームがシーズンの早い段階で候補選手を選ぶため、投票行動が誘導されてしまう
ファン投票は、オンラインでも投票できるようになったが、原則、マークシート方式(記述も可)であり、チームがあらかじめ選んだ選手が候補になってしまうため、その選択肢に引きずられてしまう。
もちろん、記述もできるが、選択肢から選ぶという安きに流れてしまう。
しかも、投票が始まってから候補選手が入れ替えられることはない。
こうなると、前半戦に活躍してチームから候補に選出されても、故障や不調でレギュラーを外れてしまうケースがある。
すなわち、故障や調整で二軍にいる選手が候補に残り続け、旬の選手が候補に上らない状態になるおそれもある。
これではファンに対して公平な投票行動は期待できない。
例えば、広島カープのクローザーは目下、矢崎拓也が務めている。
24試合に登板して、防御率2.01、4勝0敗、12セーブ、2ホールドと好成績を収めているものの、今季は開幕から出遅れ、初登板が4月21日となった。
5月中旬からクローザーを務めているにもかかわらず、「中継ぎ投手」「抑え投手」どちらの部門でもトップ5入りしていない。
問題点②「先発投手」「中継ぎ投手」「抑え投手」の得票が割れてしまう
投手への投票は「先発投手」「中継ぎ投手」「抑え投手」に部門が分かれている。
昨今の投手分業制に対応しているのはよいが、問題は、同じチームに複数の好投手がいても票が得にくくなるのである。
先発投手に関しては3名まで、中継ぎ投手に関しては2名まで投票OKにする等の対応策が求められると思う。
問題点③「中継ぎ投手」「抑え投手」の間でも得票が割れてしまう
リリーフ投手の中には、シーズン当初は中継ぎの役割をしていたが、途中で抑え投手に代わることもある。逆もまたしかりである。
今季でいうと、日本ハムの田中正義は「中継ぎ投手」「抑え投手」で得票が割れてしまっている。
幸い、今回は順位に影響はなかったが、影響を及ぼす可能性は否定できない。
問題点④内野手のユーティリティプレイヤーが票を獲得しにくい
外野手部門は、守備位置ごとに分かれていないため、3人を選択して投票する形になるが、内野手は守備位置ごとに選出する仕組みになっており、これだと、内野手のユーティリティプレイヤーに票が集まりにくい。
問題点⑤DHと野手の兼務が得票に影響を及ぼす
また、パ・リーグの場合、野手とDHを兼務している選手も票が割れる。
また逆に他の選手の得票に影響を与えるケースもある。
柳田悠岐(福岡ソフトバンクホークス)の場合、DH部門で候補に挙がっていたが、今季は66試合でDHでの出場は29試合に留まり、ライトでの先発出場が37試合もある。
DH部門のライバルの中村剛也(西武ライオンズ)が3・4月の月間MVPを獲得するほど好調ながら途中離脱したため、得票が伸びなかったと推測されるが、もしコンスタントに出場していたら、結果はどうなっていただろうか。
オールスターゲームの「出場辞退」に対する的外れな罰則「野球協約第86条」
これまで挙げたのは、ファン投票のルールに関してのことだが、オールスターの選出にあたり、それよりももっと根本的におかしいルールがあることを指摘したい。
それは選手された選手の「辞退」を巡る問題である。
野球協約の第86条には、オールスターゲームの出場辞退に関するルールが決められている。
何故、こんなルールが存在するのか?
かつてオールスターに選出された選手が意図的にオールスターへの試合出場を拒んでいたケースがあったからである。
その選手は故障という名目でオールスターゲームへの出場を「辞退」したのだが、オールスターゲーム明けの公式戦にいきなり出場し、大活躍した。
そのことが疑問視され、翌年からルールが厳格化されたのである。
しかしながら、このルールのペナルティはあまり的確ではなく、不必要に重罰になってしまう懸念もある。
ちょっとした体調不良でもオールスターゲームを「辞退」することになれば、後半戦10試合が出場停止となってしまう。
かといって、ファン投票で選出された選手が所属するチームがペナルティを恐れて、選手を辞退させなければ、オールスターゲームに出場せざるを得ない上に、特にファン投票での選出された選手はスタメン起用する必要がある。
ファン投票での選出でない場合、他球団の監督が指揮を執る場合、できれば選手起用しない旨、「欠場」を依頼することになる。
勿論、ライバルチームの指揮官に、選手の故障の存在を知られたくないケースもある。
また、オールスターゲームの両リーグの指揮官は自チームから選出された選手を意図的に温存する権限が与えられているともいえなくもない。
これは毎回、中継ぎ投手の運用でファンから指摘されることでもある。
さはさりながら、このことで指揮官があらぬ憶測や批判を招くことはフェアではない。
要するに、ペナントレースではライバル同士のチームがオールスターゲームのために、このように配慮しなければならないのはよろしくない。
しかしながら、NPBは「オールスター出場辞退は10日間の出場停止」のようなおおざっぱなルールを決めるだけで、このデリケートな問題を現場に丸投げしているようにしかみえないのである。
NPBはオールスターゲームの「価値」「魅力」を回復する努力を
一方でファンの中にも、推しのチームの選手には前半戦の疲労も考慮して、オールスターゲームには出場せず、後半戦に向けてじっくりと休んで欲しい、という声も聞かれる。
熱心に投票するファンもいれば、選出されないことを願うファンもいる。
すなわち、ファンの中にも、オールスターゲームに対する「熱量」に差が生まれてしまっているとうことだ。
残念ながら、オールスターゲームの「価値」が選手にとっても、ファンにとってももはや少ない、ということだろう。
NPBのオールスターゲームはセ・パ2リーグ分立後の2年目、1951年にMLBに倣って開催されてきたが、1963年以降、本格的に3試合制となり、1989年以降は2試合に減少した。
しかしながら2試合の開催といえども移動日なしでの移動を伴うため、選手には負担となる。
かといって、MLBのようにオールスターゲームを1試合限定にするのも、NPBにとってもオールスターゲームの入場料収入やそれに付随する収益は貴重な収益源であるため、受け入れがたいだろう。
一方で、プロ野球人気の普及を考えれば、普段、NPBの公式戦がめったに開催されない地方球場でのオールスターゲームの開催も無視はできない。
選手の移動の負担、多少の観客収入を犠牲にしても、地方開催という選択肢を減らすこともよろしくないと思う。
最大の問題は、NPBがある種の「思考停止」に陥っているとおぼしき点だ。
この問題に限らないが、NPBはプロ野球人気にあぐらをかいて、先例主義や、現状維持でもいいという姿勢が見え隠れする。
12球団任せである一方、エスコンフィールドの「バックネット裏問題」のように初歩的な利害調整も上手くできていない印象だ。
プロ野球界はコロナ禍を乗り越えて、観客がスタジアムに戻ってきているから一見、朗報に見えるが、選手の不祥事への対応、一部で過激化する観客への対応など、問題は山積にしているように思える。
MLBが何でも優れているとは言わないが、MLBはファンを増やすために様々な試行錯誤を繰り返している。
賛否両論を招いたり、短期的な利益を犠牲にしたりしてでも長期的な視野に立とうとしている。
NPBも、プロ野球の魅力を向上させるため、関係者の利害の調整に積極的に関与して欲しいものだ。
まずはオールスターゲームの改革、魅力の向上にできることはやっていただきたい。
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