セ・リーグ投手/累積投球数トップ10(2013-2022年)

野球における、投手の「登板過多」「投球過多」問題

近年、スポーツの世界、特に野球の世界では少年野球、高校野球などのアマチュア、NPBなど、あらゆるステージで、投手の「登板過多」が問題となっている。

NPBでは「先発・中継ぎ・クローザー」という分業制に加え、「中6日の先発ローテーション」が定着して久しい。
さらに、ヤクルト・奥川恭伸、ロッテ・佐々木朗希の育成に見られるように、特に高卒からプロ入りした投手には身体が出来上がるまでは一軍で無理な投球をさせないという方針を打ち出しているチームも増えている。
一方で、先発投手は登板間隔を空けるなど措置が取られる一方で、中継ぎ投手への負担が増している。
チームによっては極力、連投を避けるような運用を行い、効果を挙げているが、それでも全体としては、中継ぎ投手の酷使の問題は深刻となっている。

さらに高校野球でも、高野連として投手の酷使にどう対処するか、「投球制限」を導入するか否かの議論が続いているが、強豪校ほど、甲子園を勝ち抜くためには一人のエースに頼るのではなく、複数の先発投手を育成して試合で運用する方針に転換している。

投手の「投げ過ぎ」、「勤続疲労」が、投球パフォーマンスや投手生命にどれだけ影響を与えるのかは、医学的にも明確な因果関係が分かっていない。
「投手個人によって違う」というのが実情だろうが、故障のリスクがある以上、より安全を求める方向に基準を置くことになるだろう。

しかしながら、NPBでもこれだけ投手の「登板過多」「勤続疲労」に焦点が当てられている割に、個々の投手がシーズンでどれだけの投球数を投げているか話題になることは少ない。

そこで、NPBの過去10年間のシーズンで、投球数が多かった投手のトップ5を調べたみた。

今回は、セ・リーグに在籍する投手からみてみよう。

セ・リーグ投手のシーズン投球数トップ5の推移(2013年-2022年)


元阪神のランディ・メッセンジャーが2012年から3年連続、2015年と10年間で4度、トップであった。
しかも、2014年は同僚の藤浪晋太郎にトップを譲ったが、5年連続で3000球を超えていた。
セ・リーグ投手でシーズン3000球越えは、2018年の菅野智之(3129球)を最後に現れていないため、いかにすごい記録か分かるだろう。

また、広島の森下暢仁がルーキーイヤーの2020年にトップ5入りしている。
過去10年で、セ・リーグの新人投手がリーグトップ5に入ったのは森下だけである。
森下は年々、投球数が増えており、2021年は2位、そして今季2022年はついにリーグトップに立った。
しかし、その代償か、このオフに右肘の骨の棘などを切除するクリーニング手術を行った。来季の開幕には間に合う見込みだが、WBC日本代表は辞退せざるを得なくなった。

セ・リーグ投手の過去10年間の累積投球数トップ12

次に、NPBに現在、在籍する現役投手が過去10年間のシーズンで、累計でどれくらい投球数を投げたのかを集計してみた。

その結果、累計で10000球以上を投げている現役投手はセ・リーグ在籍だけで11名いる。

過去10年の累計なので、この期間に現役生活を長く送っている先発投手が上位に来るが、投手の「勤続疲労」を見る上で参考になるだろう。

なお、元阪神のランディ・メッセンジャーは2019年オフに引退しているが、集計対象となる2013年以降の7年間だけで、20128球を投げており、5位に相当する。


ここでは8位よりも上位の現役投手についてキャリアを振り返ってみよう。

8位 田口麗斗(巨人・ヤクルト)
累積投球数12641球(実働8年)シーズン平均1580球
27歳 高卒9年目 通算240試合(うち113試合)42勝47敗4セーブ38ホールド防御率3.45
年俸7000万円(2022年)

田口麗斗は広島新庄高校でエース左腕として活躍、2013年ドラフトで巨人の3位指名を受け入団。
プロ2年目の2015年に、プロ初登板・初先発でプロ初勝利を挙げるなど、12試合に登板、3勝を挙げた。
2016年には菅野智之を押さえ、チームトップとなる10勝(10敗)、リーグ4位となる防御率2.72でブレイク。
翌2017年も防御率3.01、13勝を挙げ、2年連続二桁勝利をマーク、オフに年俸が9000万円となり、高卒から入団5年で年俸が15倍となった。
しかし、2016年に2639球、2017年に2729球を投げた影響か、2018年は16試合に先発するも2勝8敗、防御率4.80と成績が悪化。
2019年には中継ぎへ転向し、オールスターを挟んで10試合連続登板のセ・リーグタイ記録を樹立するなど、55試合のうち、53試合で救援登板し、リーグ優勝に貢献した。
2020年には再び先発へ転向し、開幕2試合目を任されたが、勝ち星が伸びず、2度の登録抹消を経て、中継ぎでシーズンを終えた。
2021年シーズン開幕直前に、ヤクルトの内野手・廣岡大志とのトレードでヤクルトに加入。
当初は先発要員だったが、中盤から調子を崩すようになり、シーズン終盤で中継ぎに配置転換。左打者や走者を背負った場面で多く起用され、11試合連続無失点に抑えるなど、ヤクルトの逆転リーグ優勝、20年ぶりの日本一に貢献した。
2022年は開幕からリリーフ専任となり、好投を続け、日本ハムとの交流戦では延長10回・無死満塁を無失点に抑える「田口の20球」でサヨナラ勝ちを呼び込むなど、開幕から27試合連続で自責点0、防御率0.00の投球を続け、45試合に登板、防御率1.25で18ホールドを挙げた。

ヤクルトが2年連続でリーグ優勝したため、田口自身は巨人時代から数えて4年連続でリーグ優勝、日本シリーズで登板した。

田口の場合、高卒で入団して数年間で先発として登板過多が祟ったように見えるが、ヤクルト移籍後、左の貴重な中継ぎとして活路を見出した。
トレードにより環境が変わり成功を収めた好例といえるだろう。


7位 今永昇太(DeNA)
累積投球数 14189球(7年間)シーズン平均2027球
29歳 大卒7年目 通算143試合(うち先発136試合)57勝46敗0セーブ 防御率3.24
年俸1億円(2022年)

今永昇太は駒沢大学から、2015年ドラフトでDeNAの1位指名を受け入団。
ルーキーイヤーの2016年から先発ローテーション入りし、デビューから4連敗の後、5連勝を挙げ、規定投球回数には届かなかったが、8勝9敗、防御率2.93という成績を収めた。
プロ2年目の2017年には11勝を挙げて、規定投球回数にも達し、防御率2.98と、2年連続となるクライマックスシリーズ進出に貢献し、日本シリーズでも2試合に先発した。
順風満帆に見えたが、デビューから2年で5000球近く投げた影響なのか、2018年に左肩痛を発症、中継ぎに廻るなど、防御率6.80と低迷した。
2019年は自身初の開幕投手となり、チームトップ(リーグ2位)の13勝、リーグトップの完封勝利3を記録、チームの2年ぶりクライマックスシリーズ進出に貢献した。
2020年も2年連続となる開幕投手に指名されたが、前年、2789球を投じた反動か、不振に陥り、わずか9試合の登板に留まり、終盤に左肩クリーニング手術を受けた。
2021年は5月から復帰、2年ぶりの完投勝利を挙げるなど、19試合に先発、5勝どまりに終わったが、1939球を投じた。

今永昇太は今季、左腕の肉離れで開幕から出遅れたものの、5月から先発ローテーションに入り、6月7日の日本ハム戦(札幌ドーム)では自身初、チームでも52年ぶりとなるノーヒットノーランを達成した。
8月は5勝0敗、防御率1.25と絶好調で、チームの2位浮上を牽引するなど、11勝4敗、防御率はリーグ3位の2.26、WHIPはリーグトップの0.98という成績で終えた。

DeNAが来季、優勝を狙うためには今永昇太のフルシーズンの活躍が不可欠だ。
だが、今永は来春のWBCでは日本代表候補、かつ左腕の先発要員候補であり、シーズンへの影響が心配される。





6位 九里亜蓮(広島)
累積投球数 16192球(9年間) シーズン平均1,799球
31歳 大卒9年目 通算211試合(うち先発147試合)56勝49敗0セーブ 防御率3.71
年俸1億4000万円+出来高(2022-2024年)

九里亜蓮は亜細亜大学を経て、2013年のドラフトで広島から、同学年の大瀬良大地に次ぐ2位で指名を受け入団。
プロ4年目の2017年、救援と先発で35試合に登板し、自己最多となる9勝を挙げ、リーグ2連覇に貢献している。
そこから6シーズン連続で、ほぼ2000球以上を投じている。

しかしながら、走者を背負いながら粘り強く抑える投球スタイルのためか、投球数の割に、投球回が少なく、自身初の規定投球回数に到達したのは2020年。
2021年には防御率3.81で規定投球回数に達した投手の中でワースト2位ながら、自身初の二桁勝利となる13勝を挙げて、最多勝のタイトルを手にした。
今季2022年のシーズンは、新型コロナウイルス感染による抹消もあり規定投球回数到達を逃したが(140回1/3)に、リーグ5位となる2412球を投じている。

これだけ毎シーズン、投球数が多いにもかかわらず、目立った故障がないのは、元マイナーリーガーだった父親譲りの頑強な身体のおかげかもしれない。

5位 大瀬良大地(広島)
累積投球数 18426球(9年間)シーズン平均2047球
31歳 大卒9年目 通算228試合(うち先発169試合)75勝53敗2セーブ 防御率3.56
年俸1億8000万円+出来高(2022-2024年)

大瀬良大地は九州共立大学から2013年のドラフトで広島の1位指名を受け入団。
ルーキーイヤーの2014年から先発ローテーション入りし、10勝を挙げ、新人王を獲得した。
その後、救援に廻ったが、2017年に本格的に先発に復帰し、開幕から7連勝をマークするなど、2度目の二桁勝利となる10勝を挙げ、リーグ2連覇に貢献した。
2018年には15勝を挙げて、自身初の投手タイトルとなる最多勝と最高勝率を獲得、エースとしてリーグ3連覇を手繰り寄せた。
2019年は自身初の開幕投手を務め、3年連続となる二桁勝利を挙げ、チーム日本人投手最高年俸(1億7500万円)となった。
2020年は2年連続で開幕投手を務めたものの、2018年・2019年と2800球以上を投じた影響なのか、コンディション不良で2度も登録抹消され、11試合の登板に終わった。
2021年は自身5度目の二桁勝利を挙げるなど復活したが、2022年はリーグトップの2完封を挙げたものの、8勝9敗、防御率4.72に終わり、二桁勝利も規定投球回数到達も逃した。

大瀬良は近年、登板過多の影響か、好不調の波が激しいのが気になる。
広島は先発投手として森下暢仁らが台頭してきているが、大瀬良には精神的な支柱としても成績でも牽引したいところだ。

4位 小川泰弘(ヤクルト)
累積投球数 22875球(10年) シーズン平均2288球
32歳 大卒10年目 通算229試合(先発224試合) 92勝73敗0セーブ 防御率3.59
年俸1.6億円(2022年、2021-2024年の4年契約)

小川泰弘は創価大学のエースで、2012年ドラフトでヤクルトから2位指名を受け入団すると、2013年、ルーキーイヤーでいきなり16勝を挙げ、最多勝と新人王を獲得。

プロ10年間でシーズン二桁勝利は3度、規定投球回数到達5度、エースとしてはやや物足りなく思えるが、新人から10年連続でシーズン100投球回以上はクリア、1800球以上を投球している。

小川は投手としては小柄で、ニックネームの通り、ノーラン・ライアンのように左足を高く上げるダイナミックなフォームで、身体への負担が大きいと懸念されるが、好不調の波はあるものの、毎年のように先発ローテーションを守っている。
2020年にノーヒットノーランを達成、オフにFA権を取得したが、4年総額7.5億円と言われる契約で残留。
2021年にはチームトップタイの9勝を挙げ、リーグ優勝、日本一に貢献した。
2022年は二桁勝利を逃したものの、防御率2.82とルーキーイヤー以来となる防御率2点台を記録し、リーグ2連覇に貢献、日本シリーズ初戦に先発、初勝利を挙げた。


3位 大野雄大(中日)
累積投球数 22902球(10年) シーズン平均2290球
34歳 高卒13年目 通算227試合(うち先発223)84勝86敗0セーブ 防御率3.06
年俸3億円+出来高5000万円(2022-2024年)

大野雄大は佛教大学から2010年に中日のドラフト1位指名を受け入団。
プロ3年目の2012年には先発ローテーション入りし、初の規定投球回数と二桁勝利(10勝)に到達。そこから3年連続の二桁勝利を挙げた。
特に2015年には投球回数207回を投げて、防御率2.52(リーグ4位)をマーク。
中日の左のエースへと成長した。
2016年に初の開幕投手を務めたが、左ひじ痛の発症もあり、規定投球回数到達を逃した。
2018年は大不振に陥り、一軍未勝利に終わるなど心配されたが、2019年には9勝どまりながら防御率2.58で、自身初の最優秀防御率のタイトルを獲得し、見事に復活を果たした。

さらに、2020年には7月には5試合連続完投勝利、9月には45イニング連続無失点と安定した投球を続け、5年ぶりの二桁勝利に到達、2年連続となる最優秀防御率、奪三振148で初の最多奪三振のタイトルを獲得し、沢村賞も受賞した。
今季2022年は阪神戦で青柳晃洋と投げ合い、9回まで完全試合に抑えながら味方の援護がなく、NPB史上初の延長戦で完全試合、ノーヒットノーランを逃した。
勝ち星に恵まれなかったが、防御率2.46でリーグ3位に食い込んだ。
ここ7シーズンで2000球以上を投じたシーズンが6度と、エースと呼ばれるにふさわしいタフネスぶりだが、通算成績では76勝78敗と負け越している。

2位 西勇輝(オリックス・阪神)
累積投球数 24785球(10年)シーズン平均2479球
32歳 高卒14年目 通算303試合(先発276試合) 110勝96敗1セーブ 防御率3.13
年俸3億円(2023-2026年の平均)

西勇輝は菰野高校から2008年ドラフトでオリックスの3位指名を受け入団。
高卒3年目の2011年に、プロ初勝利を挙げると初のシーズン二桁勝利。
そこから今季まで11年連続でシーズン100投球回以上、1850球以上を投げている。
さらに、シーズン2000球を下回ったのは2012年(1940球)と2017年(1879球)だけで、
2500球以上を投じたシーズンが6度もあるなど、NPBでもトップクラスのタフネスぶりを発揮している。
2012年以降の11年間だと、シーズン平均投球数は2622球となり、この後登場する1位の投手よりも多い。

西勇輝は14年のプロ生活で、シーズン最多の勝ち星は2014年の12勝で、投手の主要タイトル(最多勝、最優秀防御率、最多奪三振)の獲得も1度もない(ゴールデングラブ賞が1度だけ)。
ただし、規定投球回到達は9度、シーズン二桁勝利は7度あり、防御率リーグトップ5入りが7度もあるなど、これまで長期離脱を伴うような目立った故障もなく、シーズンを通して、「計算できる」エースである。

西勇輝は2018年オフにFA権を行使して、4年総額8億円+出来高2億円(推定)で、阪神に移籍したが、リーグの違いもものともせず安定した投球を続けている。
今オフ、再度、FA権を取得し、去就が注目されたが、残留。
年俸は4年で総額12億円と推定されているが、これまでの実績を考慮すれば決して高くはないだろう。
しかし、プロ入り以降、29351球を投げており、これが今後の投手生命にどう影響するのか。

1位 菅野智之(巨人)
累積投球数 25308球(10年) シーズン平均2531球
33歳 大卒10年目 通算238試合(先発236試合)117勝63敗0セーブ 防御率2.46
年俸6億円(2022年)

セ・リーグに在籍する投手で2013年以降、最も投球数が多いのは、巨人のエース、菅野智之である。

菅野智之は10年のプロ生活で、最優秀防御率のタイトルが3年連続を含み4度、最多勝3度、最多奪三振2度、沢村賞は2年連続で受賞、シーズンMVPも2度あるなど、2010年以降にデビューした投手の中では現役最高の右腕と言ってよい。

さらに菅野は10年のプロ生活で先発登板が20試合を下回ったシーズンが2019年しかない。
前年の2018年、2年連続となる沢村賞を獲得し、リーグトップとなる3129球を投じた影響もあるのか、そのシーズンは持病の腰痛を発症したが、それでも19試合に先発して、2280球を投じている。
シーズン2000球を下回ったのも、2021年の1度(1766球)だけである。
2021年も腰痛で4度も登録抹消された。
満身創痍でもマウンドに立ち続けているのは、「巨人のエース」というプライドだろう。

菅野は2020年オフ、ポスティングによるMLB移籍を断念、年俸8億円という単年契約を結んだが、2021年オフは年俸2億円ダウンで残留。
さらにこのオフ、33歳を迎え、本人の口から「MLBへの移籍は封印する」と表明したたことで、「終身巨人」を貫く可能性が強い。
菅野は10年のプロ生活で、通算117勝を挙げているが、残りのキャリアでどこまで200勝まで近づけるか。

いかがだろうか?
こうして、10年スパンでみても、シーズン2000球以上を10年、投げ続けている投手は各チームで、1人程度しか存在しない。
故障を抱えていても、不調であっても、マウンドに上がり続けるのが「エース」と呼ばれる投手の宿命かもしれないが・・・

(パ・リーグ投手編に続く)

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