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記憶に残る知らない人

湿気と曇り空、夕方から雨の予報。
今年の冬は暖冬らしい。寒いのは苦手なので嬉しいニュース。

人間生きているうちにどのくらいの人とすれ違うのだろう?
そのすれ違った人の中で、名前も知らない、言葉を交えてもいない、ただ視界に入っただけなのに、なんとなく記憶に残ってしまう人というのが時々いる。

一番最近だと、沖縄のホテルの朝食ビュッフェで見かけた男性だ。
他の宿泊客より頭二つくらい抜きん出た高身長で、スラッとしたサラサラの黒髪だった。
スラムダンク狂いの私は「でた実写版流川楓」などと思ったわけだけど、顔ははっきり見えたわけではないので流川君のような親衛隊がいるようなイケメンだったかどうかはわからないしまぁそんなことはどうでもいいのだ。赤の他人なのだから。
朝食を食べながら割と近くに座っていた実写流川を盗み見していると、どうやら彼女(奥さん?)と二人で滞在しているようだ。4人席のテーブルに二人で座っていたけれど向かい合わず、お互い斜め向かいで座り合っている。カップルならきちんと向かい同士、もしくは隣同士とかで座るのでは?もう長いお付き合いなのかな?会話が弾んでいるようにも見えないし…お相手の女性は割と地味な感じ、赤木晴子の友達の藤井さんみたいな感じだな…
この間決して彼らをガン見などしていないし、私は割と頻繁にこういうことをやっているので、同席している家族の話に相槌を打ちながら、決して誰にもばれる事なく赤の他人を観察することができるのだ(ドヤ)。
私が食後のコーヒーをとりに行こうかなぁと思っていた頃に、流川と藤井さんは食事を終えて席を立った。すぐさま流川の腕に自分の腕を絡めた藤井さん。お、これは付き合って長いわけではなさそうだな。エレベーターホールの方に歩いて行く流川と藤井さんの後ろ姿から目を離そうとした時、流川がレストランの出口の手前で藤井さんの腕を解き彼女の腰にスッと手を伸ばした。その瞬間、彼は「あの時の名前も知らない流川楓」として私の記憶にザクっと刻まれた。
何故だかわからないけど、この瞬間を映画の名場面みたいに思い出す。私が覗き見して勝手に作り上げていた物語に突然想定外のどんでん返しが起きた、というか。
お前は何を言っているんだ?と思われるかもしれないけれど、私もよくわからない(開き直り)。ただ見ず知らずの他人の一瞬の動作にやられてしまった、としか。

まぁこの流川に関しては彼の立ち姿が少なからず私の好みだったということも大きいのだけど、次に思い出されたのは女性である。
一昨年の年末に江ノ電に乗っていた時のこと。鎌倉を出発した江ノ電は早い時間だったのもあるが珍しく空いていて私は家族と一緒に座って電車に揺られていた。
由比ヶ浜で一人の女性が乗ってきた。30代くらいだろうか、12月なのにコートは着ていなくて、ご近所着(ワンマイルコーデ、でしたっけ)に足元はビーサンだった。手にはレトロな藤のカゴバッグを持っているけど中身は空っぽ。そしてもう一つの手にチューハイの缶を持って、私の向かいに座った。
まごうことなきこの辺りの住民で、これから買い出しに行くんだろう。片手にチューハイっていうのが、最高にチャーミングじゃないか。窓から差し込む日差しに時々眩しそうにして、面倒臭そうな顔をして時々チューハイを飲む。私の背中側に海が見えているはずだが、彼女の目線は海を見ていないようだった。
数駅先の稲村ヶ崎で彼女は降りた。
名前も知らないチューハイの彼女。知りもしないのに、彼女を一言で言うなら自由、しかないなと思った。いや、知らないから、そう思ったのか。

もう二度と会うこともないし、名前も何も知らない、ただ視界に入っただけ、だけど記憶に残る人。
いや。いやいやいや。
何も知らない人なのに、その人に何かを感じたから、自分の中で勝手に物語を作り上げて、どうにか自分の記憶にその人を残そうとした、が正解かもしれない。

そして、もしかしたら、私もあなたも、どこかの知らない誰かの記憶に残っているのかもしれない、と考えると…?
物語はいくらでも作られる。

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