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秋本治の創作過程とは

秋本治は漫画の主人公である両さんと正反対の人物であることは、コミックの裏表紙の作者のコメントの真摯さからも伺えていたが想像以上であった。

漫画制作の現場は最近では改善されつつあるがブラック企業顔負けの労働環境であることが珍しくない。
しかし秋本治はアシスタントを大切にし、そのため彼らの生活を安定させるために有限会社化している。


秋本が率先して定時に帰宅し事務所で残業することはほとんど無いようだ。
しかし、家に持ち込んだ原稿を完成させている姿をみるとそもそも就業時間という観念が無いのではないだろうか。趣味の延長線といってよい。
当人も好きなことを仕事に出来る喜びを語っているくらいだ。
それは素晴らしいことだが、その考えを従業員に押し付けないところが良い。

アシスタントに駆け出しはおらず、背景・人物そして仕上げまで出来る職人集団である。ネーム、ストーリー作りは秋本の仕事となる。
ただ気になることもある。
漫画家を目指すものは通常、アシストを経た上で独立する道をとる。
しかし恵まれた環境は逆に独立心を削ぐのではないかと思うことがある。
実際制作現場はタイムカードもないし徹夜が当たり前であるような現場にかぎって後に著名となる漫画家を多数輩出している現実もある。

作画においてのリアリティーは妥協しない。
警察官の後ろ姿を描く際、制服の間からベルトからどれ位見えているのかまで描きこむため保管している写真で確認する。
自分が子供の時見たこち亀に出てくるG1ジョーのフィギュアの質感はいまだに覚えている。絵だけでそれを想起させるのである。それだけ精巧に描きこまれていたという事だ。
1話完結のためにどうしても作品内容の面白さにばらつきがあるものだが、作画は技術的なものだから高い水準を維持し続けることが出来、内容をリカバーすることが出来るものだ。

食事は事務所で愛妻弁当をとる。やはり長期連載のためには健康管理にも気を付けなければならないのだろう。売れっ子漫画家は徹夜や生活習慣の乱れからか早くして亡くなるケースが多い。
長期の連載を抱えるものにとっては食事も仕事の内ということになる。

娘からの作品の感想で「よくある話」といわれるのを気にかけている。
パターン化を逃れるための工夫として新聞記事の切り抜きでネタを集める。
多くの人が見落とす小さな記事に着目するのがコツだという。


マイナーな部分が取り扱われていると読者は、これを取り上げている側は余程物知りではないか思うものだ。


漫画の取材のためにはなやしきを訪れるのだが、写真やビデオにおさめる他に実際に絶叫マシーンに乗って体感する。


確かに、子供の時両さんがベーゴマをやっているシーンなどを見て、ベーゴマを買い求めたものだ。実際に自分でもすると両さんが傍で語り掛けてくれているような錯覚に陥る。

ネーム作りはファミレスで9時間こもる。あらかじめ分量を多めに描いてそこから絞り込む。


取材、ネーム作り、作画とブロック単位にわけてテーマごとに、集中しているのは工業製品を作り出すかのようである。
そうやってルーティン化することが心身に負担をかけずに、作品の質を維持し長期連載を可能にしているのではないかと考える。




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