超訳:ラジオ・フリー・アジア(RFA)の取材を受ける蔡霞氏【後編】(その3) 「中国の体制が変革されなければ、米中対立は深まるばかり」

※以下、【後編】(その2)からの続き

記者:今日の香港は数年前には予想もできなかった状況となっています。台湾でもパスポートのデザインの変更などいろいろ動きがあります。将来的に、何か突発的な事態が発生することはあるでしょうか? それが、ドミノ倒しのように広がって、最終的に中国共産党政権の崩壊につながることは?

蔡霞:それはわかりません。やはり最大の問題は国内にあると思います。国内の経済や社会や国民生活の問題とか、抑圧とかが、何かをきっかけにそうした流れをもたらすかもしれません。香港の問題はドミノ倒しとなるとみんなが思いましたが、今では強力に抑え込まれ、情報も遮断されてしまい、ドミノ倒しは止まってしまいました。現在そうしたドミノ倒し的な一連の動きは見られないと思います。もしも台湾に武力侵攻しようとしたりすれば、ドミノ倒しは起こるかもしれません。台湾や南シナ海をめぐって何かがあれば、軍の内部からクーデターが起こることも考えられます。

記者:習氏には台湾奪還の野望があると思いますか?

蔡霞:あると思います。大国のリーダーとしての自分の歴史的位置づけと言うんでしょうか。例えば、鄧小平の位置づけは、市場経済を導入したリーダーということでしょう。中国に民主政治を実現して政治的転換を成し遂げることだって、歴史に名を刻むことになります。台湾とは分裂して数十年になります。もし自身の任期中に統一できたら、これも歴史に名を刻むことになります。習氏は後者で歴史に名を残したいと考えているのではないでしょうか。それと、「大一統」という伝統的な皇帝の思想と言うんでしょうか。台湾の武力統一に二の足は踏まないぞ、オレだって統一を成し遂げて現代の皇帝になってやる、と考えているかもしれませんね。

記者:アメリカの中国研究者マイケル・ピルズベリー氏がその著書『100年マラソン(China 2049 秘密裏に遂行される「世界覇権100年戦略」)』の中で、建国100年に当たる2049年までにアメリカから世界一の超大国の座を奪い、世界に君臨するという中国の秘密の100年戦略計画について語っていますが、これについては?

蔡霞:中国共産党には確かに長期目標のスローガンがあります。2000年までにある程度貧困を脱するとか、2010年までにGDPを倍増させるとか、ややゆとりのある社会をある程度実現するとか、2049年までに制度をだいたい整えるとか、国力で中等先進国に追いつくとか。これらは改革を前提にした目標でした。全体主義的統治をやめて、改革によって政治的転換を実現する、そういったプロセスなら、2049年を迎えたとき、世界各国と平和的に共存できているでしょう。もし、全体主義的統治の制度や理念を保ち続けるなら、2049年までに世界に君臨していることでしょう。世界を呑み込んでいることでしょう。ですが、中国共産党が最初からそういうことを考えていたとは思いません。毛沢東らの共産主義の信念、全人類の解放という目標はあったと思います。

記者:米中関係の今後についてどう見ていますか?

蔡霞:習氏がトップにいる限り、中国の政治体制改革は望めません。対立や衝突がエスカレートするだけでしょう。それが戦争につながるがどうかはわかりません。中国共産党にその勇気があるかどうかにかかっています。もし戦争をやったら、結果は目に見えています。中国が負けます。それは政権交代をもたらします。すでに冷戦状態にはなっていますが、もし国内で変化があり、習氏が退けば、中国を前に進めることのできる人たちが国の舵を取って、自分たちの手で変革できると思います。政党の「殻」を破り、現制度を撤廃することができるでしょう。これに、国外からもサポートがあればいいですね。そうなれば、米中関係は改善され、良い方向へ向かいます。

記者:紅二代として生まれ、文化大革命を経験し、しかも当時紅衛兵でもあった。体制内に長くいた身として、ご自身の学識や経験は、いまの中国の若い人たちにどのように役立つと思いますか?

蔡霞:むずかしい質問ですね。人それぞれですからね。歴史の流れ、人々の心の向かう方向ということで言えば、誰でもより公平で自由な生活を望んでいるはずです。どの世代の人にもそれぞれ自分の経歴があります。私もこれまでの生活や経験があったからこそ今の認識に至ったのです。それまでの私の認識は異なりました。修士課程で学んでいたころは、同級生に「ミセス・マルクス主義」と呼ばれていました。心底信奉してましたから。だまされてるのに信じてましたね。でもあとになって、事実と説明に食い違いがあることがわかりました。信奉の対象を公平と正義にしてそれを求め続ければ、私のように変われますよ。若い人たちもきっとね。今のこうした状況なら、多くのことを感じるはずですから、私より早く変われると思います。

【終】


(下は、このnote記事をもとにした私のYoutube動画です)


※ ラジオ・フリー・アジアのYouTube動画(中国語)



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