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グリーン関数じゃないグリーン関数

場の量子論に登場する様々なグリーン関数って,偏微分方程式の非斉次項がδ関数型の場合の解となっている「本来の」グリーン関数(ファインマン伝搬関数,遅延/先進グリーン関数など)もあれば,そうでないもの「グリーン関数じゃないのにグリーン関数と呼ぶものたち」(lesser/greaterグリーン関数など)もあるんですよね.

場の量子論のグリーン関数やlesser/greaterについては,たとえばここでもご紹介したザゴスキン「多体系の量子論」などをご参照ください.

場の量子論で計算したいものは,一般にN個の時間依存する演算子(A(ta), B(tb), C(tc), ...)を状態ベクトルで挟んでとった期待値の形(<A(ta)B(tb)C(tc)...>のような形)をしていて,この期待値の計算の処理には,演算子の時間の順序を考慮しながら最終的に<AB><CD>... + <AC><BD>... + ... のような2個の演算子の期待値にバラします.これら2個の演算子には,正しく時間の順序を考慮した痕跡として,時間順序に関するステップ関数がついたり,ついていなかったりしていて,ステップ関数がついているものは,時間微分するとδ関数を返してくれるので,「本来の」グリーン関数になっていて,そうでないものは,グリーン関数じゃないのについでにグリーン関数と呼んじゃうことにしているものたち.

<A(ta)B(tb)C(tc)...>は,N点の相関関数と呼ばれたりするので,<AB>などは2点相関関数であり,2点相関関数のなかには偏微分方程式のグリーン関数になっているものがある

というのを,講義の最初に教えてもらったほうが混乱が少ないのでは,という複数意見を最近頂いたのでした.あれ,これのどこがグリーン関数なんだろうって,迷っていたということでした.

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私は実験に関する知識が乏しいにも関わらず,実験家の方と共同研究をさせていただく機会に恵まれてきました.学生時代に散々サボってきたツケが今回ってきています.

(学部4年時のとある実験で,最後の口頭試問に全く答えられず,担当教官に「ほんとに,君は物理に向いていないねえ」と言われ,嫌な脂汗をかいたことを思い出します)

最近は開き直って(勇気を持って),どんな初歩的な質問でも恥ずかしがらずに(といっても恥ずかしいのですが),同じ質問でも何度も繰り返し尋ねることができるようになったのと,私の同じ質問に何十回でも何百回でも繰り返し丁寧に答えてくれる共同研究者の忍耐強さのおかげで,(一生無縁なまま生きていきたいと,自ら蓋をして見ないようにしていた)実験の知識にも少しずつ 少しずつ慣れているような気がします.

同じ物理,それも同じ分野の研究者同士であっても,理論家と実験家の前提知識にはギャップがあるんですよね.

私が実験の基本事項に対して行ってきた姿勢と同様に,どうやら実験家の方にとっても理論について基本事項を理論家に質問するのには勇気がいるらしいことも,複数の共同研究を通じて知りました.

(「そんな基本事項もわからないの?」みたいなことを言われてきた人も少なくないようです...)

私に忍耐強く接して頂いている実験家の方々のように,私も(私が分かる範囲であれば)どんなに初歩的な内容でも聞けば何度でも手を変え品を変え回答したいと思っていて,適宜速習講座を開催することもあります.

特に,最近はリモートワークで実験装置を満足に使えない,という厳しい状況が続いているのですが,逆に,リモートで速習講座をやるのに良い機会だと捉えることにして,非平衡グリーン関数やスピン接続といった私が普段使っている理論的ツールについての講義をはじめました.

実験家の方々がもやもやしていたこと,理解するまで時間がかかったこと,今でも敬遠していることなど,様々なフィードバックが蓄積されるなか,たしかに自分もいつの間にか自然と(なし崩し的に)受け入れてしまっていたな,という話もチラホラ.

冒頭の「グリーン関数じゃないグリーン関数」も,そうした貴重なフィードバックの一つでした.



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