【研究のススメかた】論文のタイトルは、ハッとするものを、誠実に
1. 記事の狙いと想定読者層
研究を進めるうえでのTIPSをまとめていくシリーズです。筆者が指導教官を務めるゼミや授業での活用を念頭においています。
読者層としては「大学の学部または大学院で、卒業論文/修士論文研究に取り組む」人たちを想定しています(すでに研究者として独り立ちしている同輩の皆さまや、そのタマゴとしてすでに修士論文研究等は経験済みの博士課程大学院生の方々にも、ご参考になるかもしれません)。
今回は、研究を進めていくときに忘れがち、でも意識してみると意外なほど力になってくれたりもするポイント――論文のタイトルについてお話します。
2. タイトルって、そんなに大事?
大事です。と、僕は思っています。
(自分にネーミングのセンスがなかなか育たなくてコンプレックスがあるから、余計にそう思う、というところはあるんでしょうけどね…。)
でも、マジメな話、タイトルは論文、つまりあなたの研究の最終的な成果物の「顔」になります。
あなたの論文に触れる人は、誰であれ必ず最初に読む――少なくとも、これだけは読む、というケースも含めて――のがタイトルです。誰かが先行研究を探そうと思ってGoogle ScholarやCiNiiで検索をかけたときも、そして、そこで表示されたリストからクリックして抄録(Abstract)などさらに詳細に目を通そうと思うかどうかも、まずはタイトルにかかっています。
もうちょっと生々しい話でいくと、あなたが卒業論文や修士論文を提出し、それが教務課の受付を経て指導教官や副査の教員の手に届いたとき、彼女ないし彼がまず目にするのもタイトルです。そして、その第一見、第一感で、彼女ないし彼のモチベーションが大枠決まります。
もちろん、本来そうあるべきではない、のだとは思います。指導教官あるいは副査たるもの、タイトルなどという便宜的で表面的なものではなく、その論文で論じられている中身の本質でもって評価にはあたるべきでしょう。その通りです。しかし、実際には教官といえどもヒトです、そして、ヒトはある対象への第一感で印象を形成し、印象によってその対象にどれくらい真剣に向き合うかをなかば無意識に判断します(Olivola & Todorov, 2010)。
Olivola, C. Y., & Todorov, A. (2010). Fooled by first impressions? Reexamining the diagnostic value of appearance-based inferences. Journal of Experimental Social Psychology, 46(2), 315-324.【論文PDFへのリンク】
特に、自分の指導教官ではない副査の教員にも「おっ、これはしっかり腰を据えて読んでみようか」と思ってもらえるか、それともタイトルを一瞥した瞬間「あー、まあだいたい結論は予想がつくな。でもまあ読まないわけにもいかないし…」というスタンスを引き出してしまうかは、たぶん審査会での質疑応答や最終的な評価含め、いろんな面で影響があります。
3. じゃあ、どんなタイトルが良いのか?――まずは、誠実に
ということで、ここからは「良い論文のタイトル」には、どんな要件があるのかを考えていきます。
まず、論文のタイトルに関して何よりも重要なのは、あたりまえですが論文に目を通す可能性がある人々が、一見しただけでその骨子を的確に想像できることです。ここが満たせていないと「看板に偽りあり」、誇大広告のようなもので、せっかくタイトルに惹かれてAbstractに目を通してくれた、あるいは卒論修論のページをめくってくれた人を裏切ることになってしまいます。「名は体を表す」が大事。
そのためのオーソドックスなパターンとしては、「【要因X】が【焦点となる事象Y】に与える影響に関する研究」や「【手法X】による【目的Y】の実現方法に関する研究」などが挙げられます。たとえば、前者で言えば「プロフェショナルとしての自分のバリュー及び成長ポテンシャルについての不安感が、スキルアップに向けたモチベーションに与える影響に関する研究」、後者なら「ウェアラブル端末で測定したオフィス内での移動データによるプロジェクトチーム内での人間関係のモデリング法に関する研究」などが考えられます。
僕の論文は、この点についてはクリアしている、と思っています(たまに下記の「ハッとする」に寄せすぎて失敗したものもありますが…)。Google Scholarの論文著者プロフィール及びCiNiiの著者名検索結果ページをご覧いただくと、これまでに発表した論文のリストが見られますので、ご参照ください。
ただ、この「誠実に」内容をタイトルに落とし込むこと”だけ”だと、非常に無味乾燥かつ長ったらしい、読む人に対してウソはないし、必要な情報は提示できるんだけれど、「おっ?」という前のめりな好奇心を引き出す効果は期待できません(前述の通り、ここが僕のコンプレックスポイントです)。
4. さらに良いタイトルをめざして――読者はもちろん、著者であるあなた自信も「ハッとする」ものを
そこで、論文タイトルを考えるうえでのもう一つの軸となるのが「ハッとする」です。
たしか、漫画家の本宮ひろ志氏だったと思いますが、
「執筆前には、それを読み上げるといまから書くマンガの世界観が思い浮かんで自分が高揚感を覚えるものであり、執筆中はそれを見返すとマンガの中ではずしてはいけない主要なポイントを思い出させてくれるものであり、そして、連載中は、進むべき方向性、押さえるべきヤマ場を思い起こさせてくれるもの」
が良いタイトルなんだ、と語っておられたように記憶しています。これが僕にとってはすごく印象深くて、論文のタイトルもかくあるべしとつねづね思っているわけです。
論文を書き出す前に、タイトルをみるとハッとして、「そうだ、これこそ自分がこれから追求すべき問いなんだ」「この問いに答えを出せたら、ちょっとすごいかも⁈」と、気持ちを高めてくれる。
研究を進めている最中には、タイトルを目にすることでまたハッとして、「そうそう、ここをはずしちゃいけないんだった」とか「ここがブレると、この研究のそもそもの問題意識から逸脱する」ということに思いがいたる。
そして、論文をいよいよ書き上がりそうなタイミングでタイトルを見返すと、「そうだ、いろいろデータを集めて、あれこれ発見はあったけど、究極のところ、これがこの研究の意義なんだ」と立ち返るべきポイントに意識を引き戻してくれる。
そんなタイトルが、理想です。
5. まとめ
今回は、「論文のタイトル」という、ふだんはあまり意識しないし、たぶんゼミや大学院の授業で教えられることもないポイントを取り上げてみました。
しかし、この記事の中で述べた通り、タイトルというのは非常に重要です。研究をする、論文を書くということは、一つのコミュニケーションであり、そのコミュニケーションが受け手に届くかどうかを決める第一の関門は、タイトル次第で開いたり閉じたりします。
また、良いタイトルは、読者だけではなく著者であるあなた自身を助けてくれるものでもあります。論文を書き出す前、研究を進めてる最中、そして、いよいよデータ収集も分析も終わってあとは考察を書き上げるだけとなった最終段階、このいずれにおいても良質なインスピレーションを与えてくれる。
そんなタイトルを探すうえで、今回のnoteが役に立つようであれば幸いです。あなたの研究が実り多い、有意義なものでありますように――。
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