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ニキ・ド・サンファルの映画制作をめぐって、今思うこと。


「ナナ」シリーズなど、カラフルでエスプリあふれる女性像で知られる、フランス系アメリカ人の造形作家ニキ・ド・サンファル(1930-2002)。
 
私がニキと初めて会ったのは1981年、パリ郊外の彼女の自宅を訪ねた時だった。かつて宿屋だったという石造りの家の扉が開くと、にこやかに微笑むアーティスト本人が立っていた。ダイナミックな作品とは対照的に、繊細な感じの神秘的な雰囲気さえ漂わせた人だ。1枚の肖像を撮影する予定で会いに行ったが、その自由な発想と遊び心にすっかり魅せられ、以来10数年に渡りニキや作品をヨーロッパ各地で撮影し続けた。

 私は1970年代に、日本、ヨーロッパ、アメリカの女性運動を記録し『のびやかな女たち』という写真集を出版している。80年代には世界各地の女性アーティストの肖像を撮り始めていて、スウェーデンで制作された巨大な女性像「ホーン」のことを知り、ニキ・ド・サンファルに会いたいと思った.
 
「ナナ」などの作品群は「陽気で解放された女性像」とされる。だが、最初からナナたちが登場してきたわけではなかった。社会や自分を取り巻く環境への怒りに満ちたレリーフを制作し、そこに埋め込んだ絵具やペンキをライフルで打つという射撃絵画の時代。その後、女たちに課せられた役割を身体に貼り付けた「赤い魔女」「花嫁」「ピンクの出産」などのオブジェで、女であることを肯定しながら深い闇に落ち込むという、作者の苦悩を表現した作品を数多く制作している
 
1960年代後半から、女たちの体は膨らみ始め、形も色も軽やかになっていった。さらにニキは次々と巨大な女性像を創り、子どものためのプレイハウス、動く彫刻噴水、彫刻による公園などの建造物を手掛け始めた。
 
その集大成が、イタリア、トスカーナに建つ「タロット・ガーデン」。タロット・カードの主なる大アルカナ22枚を題材に、人生の断片や機微を象徴する彫刻群が建ち並んでいる。ニキは20代の頃スペインでアントニ・ガウディのグエル公園を見て、いつか自分の彫刻で庭園を造りたいと思い続けていたという。

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ニキ・ド・サンファルの映画は「ニキの映画を創る会」メンバーで製作しています。編集作業、完成に向けて、サポートしていただけたら嬉しいです。