「人間以外に宛てた手紙・アボカドの木へ」
昨年、仕事場の移転で本や資料などを整理していて、さまざまなものを「発見」した。季刊『手紙』第十号もそのうちのひとつ。私はこの小冊子に「アボカドの木へ」という短文を寄稿していた。メディアに載せた写真や文はほとんど整理・保存しているが、なぜかこの小冊子の存在は忘れていた。装丁や佇まいが素敵で、大切に置いていたのが、かえって本の間に紛れてしまったようだ。
巻末を見ると『手紙』という小冊子は、オーデスクの楢崎汪子さんという方が編集していて、十号は1986年12月に発行されていた。第一章は<人間以外に宛てた手紙>として8人の書き手が寄稿している。第二章は〈著者への手紙〉として2人の書き手が、本の著者へ手紙の形で読後感を綴っている。九号までの既刊筆者紹介のページには、様々な分野の書き手が並んでいて、その人選が興味深い。いまさらながら既刊誌を手に入れなかったことが悔やまれる。
思い起こすと、その時与えられた「人間以外に宛てた手紙」という命題に、困り果てた記憶が甦ってきた。あまり物に執着しないたちで、物に語りかけるという発想に乏しかったのだ。そんな時、仕事場で葉を繁らせているアボカドの木に目がいった。鉢植えのアボカドは、ニューヨークで生活していた時に食べた実から育てたものだ。アボカドの実は当時日本ではあまり見かけなかった。アボカドに宛てた手紙を書くことで、ニューヨークに滞在し、ひたすらそこに住む女性たちを撮り続けていた日々を振り返りたいと思った。
『肖像 ニューヨークの女たち』という、私にとって2冊目の写真集を出版したのは1983年。30代を迎え、先のことを模索していた時期にニューヨークに出かけ、人物ポートレイトを撮り始めたきっかけの出来事だった。改めて『手紙』の文章を読み返すと、その頃のことが鮮明に蘇ってくる。ここに原文を再録してみたい。
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