ライター必読本⑤本橋信宏『心を開かせる技術』
著者の本橋信宏氏は、風俗ルポからコワモテ人士(ヤクザ・闇金のドン・右翼・過激派など)への直撃取材まで、硬軟問わず精力的にインタビューを続けてきたベテラン・ライター。話の聞きにくい相手の心を開く達人である。
本書は、著者が豊富なインタビュー経験から編み出した、語り手の「心を開かせる技術」を開陳したものだ。
随所にちりばめられた、インタビューの舞台裏エピソードが抜群に面白い。また、インタビュー術の極意を明かしたハウツー本としてもすこぶる有益である。
私が「なるほど」と思った具体的なノウハウとしては、たとえば――。
・インタビューのときには相手の正面に座るのではなく、テーブルを挟んで「L字型に」座る。そうすることで、相手を真っすぐ見据えることがなくなり、互いの緊張感をやわらげることができる。
・相手の肉体に何かの傷跡があったら、そのことについてあえて聞くべき。「聞かないのは聞き手として失格」(これはフーゾク取材など特殊なケースの話で、一般的な取材にはあまりあてはまらないと思うけど)。
・若い一般女性が相手の場合、カラオケボックスは取材場所として最適。喫茶店のように隣席から聞き耳を立てられることもないし、相手は中学生くらいからカラオケボックスに行き慣れているので、リラックスして話をしてくれる。
・取材時にはノートに、「音で記録できない要素すべて」をメモしていく。相手の着ている服、つけているアクセサリーや香水、部屋の様子、書棚にある本のタイトルなど。
その他、印象に残った一節を引く。
著者は自らを人見知りで口べただと言う。「他者の心を開かせるコツ、というものを私が持っているとしたら、それは私のコンプレックスから派生したものだ、と言えるでしょう」と……。そして、次のように言うのだ。
ライターを30年以上やってきたのに相も変わらず口べたな私は、この一節に深く同意するのである。
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