見出し画像

ライターが遭遇しやすいトラブル

一度はぶつかる(?)不払いトラブル

フリーライターの仕事には、正式に契約書を取り交わすことなく、口約束のみで仕事が進行していくものが多い。そのためもあって、原稿料の不払いや、最初に提示された金額と振り込まれた額が違うといったトラブルが起こりやすい。

私自身、これまで不払いトラブルには3回遭遇したことがある。
そのうちの1回は、不払いの相手と仕事以外にいろいろなしがらみがあって、不本意ながら泣き寝入りした。

残りの2度は、すったもんだの末、回収に成功した。
1つは、ある編プロから受けたブックライティングの仕事。振り込まれたギャラが、最初の打ち合わせで提示された額より30万円も低かった。「話が違う」と何度か抗議したところ、相手はのらりくらりと逃げの姿勢を示すばかりだったので、支払いを求める「内容証明郵便」を送ったら、効果てきめん、翌日には差額を振り込んできた。

内容証明郵便とは、相手に出したものと同じ文面の手紙を郵便局とこちらも保管する形の郵便だ。「何月何日に、相手にこういう文書を郵送したことは間違いない」と証明するもので、裁判を起こす場合には証拠になる。
つまり、「次は法的手段に訴えますよ」という意思表示になるのである。

幸い、裁判沙汰になるような不払いトラブルには、いまのところ出遭っていない。
 
これまでの経験や周囲で見聞する話から思うに、やはり、ある程度大きな出版社は不払いトラブルもほとんどない。ヘタに不払いなどして訴訟でも起こされたら企業としての顔に傷がつくのだから、当然といえば当然だ。

逆に、零細出版社や小さい編プロには、「あそこはギャラの払いが悪いらしい」とよからぬ評判が立つところもある。
察するに、悪意からというより、資金繰りの苦しさから支払いが滞ってしまうケースが多いのだろう。
 
また、不払いというより、担当編集者が伝票を起こしたり請求書を経理に回したりするのを忘れていただけ、というケースもある。
この場合、電話をかけて「あのー、私の勘違いかもしれないんですがぁ、○○の原稿料の振込みがまだのようなんですが……」と卑屈なまでの低姿勢で確認をしてみよう。「あ! スミマセン、忘れてました。振り込み来月になっちゃうけど、いいですか?」などと言われても「大丈夫ですよ!」と明るい声で応じよう。

もちろん、単純ミスではなく意図的な不払いだとわかったら、断固たる態度で臨まねばならない。

取材にまつわるトラブル

私はコワモテ・メディアで仕事してはいないので、取材にまつわる深刻なトラブルはほとんど経験がない。深刻なトラブルとは、記事で批判した相手から名誉毀損で訴えられたり、怒鳴り込まれたりといったものだ。

私がこれまで出遭った取材をめぐるトラブルといえば、「切った張った」の世界とは無縁のちまちまとしたものだ。
たとえば、取材時の「言った・言わない」トラブルや、事実誤認をめぐるトラブル。これらは、取材の際に録音し、原稿段階もしくはゲラ段階で相手のチェックを受けることで、たいていは防げる。

意外にやっかいなのが、取材意図や取材条件をめぐるトラブルだ。取材のアポ取りの際にこちらの立場や取材意図を明確に伝えておかないと、あとでトラブルになることもある。

私の経験で言えば、アポ取りを編集者がし、取材先には私だけが行ったところ、取材意図が相手にまったく伝わっていなかった例が……。「そういう記事だったら、私は取材をことわったのに」と仏頂面をする相手をなだめすかして、なんとか取材を終了した。

もう一つ、「私が経験した最悪のトラブルだったかも」と思う出来事を紹介する。
詳細は明かせないが、ある雑誌の校了4日前に、取材相手(著名人)から突然「やっぱり、あの記事全部ボツにしてください」と言われたことがある。どう説得してもダメで、仕方なく別の人(旧知の著名人)を急遽翌日取材し、一日で新たに記事を書き、校了した。

念のためにつけ加えると、私の原稿のせいではない。「こんな雑誌だとは思わなかった」と言われたのだ。
そんなこと言われても、取材申し込みの段階で「こういう雑誌ですよ」と見本誌を送付しているし、同封した手紙の中で雑誌についても説明したのに……。
そんなわけで、いまも著名人であるその人のことを、私は1ミリも信用していない(笑)。

雑誌や本ができたら、取材協力者には見本誌を献呈する。これは多くの場合、ライター側が献呈先リストを作り、担当編集者が実際の送付作業をする形で行なわれる。
この送り忘れミスも、けっこうコワイ。送り忘れたのが編集者であっても、取材相手は取材をしたライターに悪印象を抱きやすいからである。「あのライター、せっかく時間を割いて取材を受けてやったのに、雑誌も送ってこない」と……。

だから、ミスを避けるには、編集者から見本誌をもらって、ライター自身が取材相手に送付したほうがよいかもしれない。同様に、取材謝礼の振り込み忘れもコワイ。

セクハラ・トラブル

取材相手の男性にレイプされてしまったという女性ライターが、慟哭の手記を著した例がある。緑河実紗さんの『心を殺された私――レイプ・トラウマを克服して』(河出書房新社)がそれだ。

取材で初めて会った男と食事をしての帰途、「トイレを貸して」と言われて自室に上げたところ、いきなり羽交い絞めにされ、レイプされたのだという。

レイプまでいかないにしても、女性フリーライターにはとかくセクハラやストーキングの好餌になりやすい面がある。
取材相手や編集者の男性と2人きりで会わざるを得ない場合も多いし、初対面なら住所や電話番号(多くの場合は自宅の)を記した名刺も渡さざるを得ないからである。

もちろん、男性ライターがセクハラを被る例も、中にはあるだろう。
何にせよ、取材相手と2人きりで会う場合には十分な注意が必要だ。最近は名刺に自宅住所などを記載しないケースも多いようである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?