英語を勉強してよかったこと
今回は英語学習のお話。私は日本の学部を出るまで、英語なんて本当にからっきしだったのですが、そこから6ヶ月日本でみっちり勉強し、アメリカの大学院に入りました。具体的には当時、TOEFL iBT100点が出願の条件でして、大学卒業時点でのスコアは40点ちょい、そこから約半年で102点まで勉強しました。TOEFLの点数を言ってもピンときてくれる人が少ないので、去年TOEICを受けたのですが、Listening&Readingで970点を取りました。
4年の留学生活を経た今は、日常・ビジネス会話はまったく問題なく、アメリカ人のグループに放り込まれてもディスカッションも日常会話も着いていけます。論文も周りより苦労はするけど、一応アカデミックな英語でそれなりに書けています。でも、どうしてもネイティブにはなれないし、調子が悪いとうまく話せなくなることもあります。ある程度、こちらの英語レベルに向こうが合わせてくれているなと思う瞬間もあります。そのくらいの現状です。
どうやって勉強したのかについては、興味があれば個人的に聞いてください。喜んでお話します。しかし今回書きたいのは、勉強の仕方ではなく、英語を勉強して変わったこと、面白いなと思ったことについて。中高時代そもそも英語が一番嫌いな科目だった私が、実際勉強してみて何を感じ、英語の何を好きになったのかという話です。映画が字幕なしで観られるようになったとか、洋楽の歌詞に共感できるようになったとか、海外の友達が出来たとか、もちろんたくさんありますが、それは今回は省略します。
英語は音
ひとつめ。英語は音だということ。日本語の音の美しさとは異なる意味で、英語の音には奥行きがあります。日本語の音である「あいうえお」は50音ですけど、アルファベット=abcは26文字。少ない文字数の分、発音の種類を増やしたことで、英語はコミュニケーション言語として機能しているとも考えられます。thinkとsinkとか、uncleとankleとか、farとfurとか、日本語の発音では同じに聞こえるような単語も、英語話者の耳には違う音として認識されるので、誤解なく会話ができるわけです。日本語は逆に、あいうえおに加えて漢字までありますから(中国由来の文化+日本独自の書き言葉というレパートリー)、書き言葉では意思の齟齬がほぼ起きないのに、日常会話では勘違いがしばしば起こります。橋と端と箸とか、息と域と粋とか、色々ありますよね。それは、日本語の発音の種類が少ないので、考えてみれば当たり前のことです。そういう話をアメリカの友達にすると、一体どうやって君たち会話してるんだと驚かれますが、日本人が"文脈"で同音異義語を判断するのと同じように、英語話者は私たちが聞き分けられない発音の"種類の多さ"でもって、会話を成り立たせているのです。(ただし、英語にも同音異義語はあります。例えば、meetとmeatとか)
けれどこれが、日本語ネイティブにとって英語がとっつきづらい理由の一つであるのは間違いないです。発音記号ʌもæも、どっちも「ア」としか聞こえないので、fanがfunに聞こえる。有名どころの例ではthとrがあって、これは日本語には存在しない音なので、これがリスニングに出てくると頭がバグるわけです。例えばrustとlastとかは、英語話者にとっては全く違う音ですけど、カタカナで書くとどっちもラストなわけです。
だから、英語を勉強するなら、まず発音を学ぶことはマストだと思います。ネイティブみたいに"キレイに"発音しようと言っているわけではありません。上達したいなら、発音が悪くてもとりあえず会話していこうという意見には100%賛成します(出川Englishみたいな)。しかし、lとrの違いを頭で認識できていない、自分で区別して喋ることができないのに、それを聞き取れるようになることは不可能でしょう。人間の脳は、頭で区別できないものを認知することができません。緑色と青色の間には無数の色がありますが、例えばエメラルドグリーンという言葉でもってそれを認識しない限りは、「緑」もしくは「青」という範囲でしかその色を捉えることはできないはずです。そして、発音を知り、英語を音として捉えられるようになることで、会話やリスニングだけでなく音読のスピードがあがり、リーディングもまた速くなります。どんなに頭の良い人でも、自分が頭の中で朗読するスピードより速く、文字列の意味を理解することはできません。ピアノであれば、楽譜を見て即座にドレミを唱えられない人が、いきなり初見でそのメロディーを弾くことができないのと一緒です。
そういう理由で、ひとつめ、「英語は音である」という事をまず、英語学習の中で実感していきました。自分は音楽家ですので、この英語の音に対しての発見は英語学習において非常に大きなステップでした。
英語はロジカル
ふたつめ。英語はロジカルな言語だということ。SVが必ずある文法についてもそうですけど、(でもこれについては、Sを省略できる日本語の方が特殊だと思います)文章の組み立て方が建築的で、相手に何かを伝えるための理にかなっていると思います。まずセンテンスレベルで見てみると、
"Where are the keys that were on the table?"
日本語だと、「机の上にあった鍵どこ?」といった感じですが、英語ではまず最初に"Where are the keys?"と聞き、その後に追加情報として"that were on the table"と言っています。細かいことですが、まずあなたが何を質問しているのか、それを文頭に置いて、「机の上にあった」という情報は後から追加されます。こんな感じで、言いたいことを明確に整理して表現する文法が英語にはあります。
"Our only choice was to go deeper in, and that's what we did." ("Diary of a Wimpy Kid: The Meltdown"より)
この文章は、意訳するなら「私たちは(森の中を)深く入っていくしかなかった」みたいな意味ですが、まず主語に"Our only choice"を持ってくることで、「それしか選択肢はなかったんだけどね」というニュアンスを強調して伝えています。さらに、"that's what we did"と文章をクローズすることで、一文全体のリズムを作りながら、「実際に、結局そうしたんだよ」という、行為の所在を明確にしています。日本語よりも、より感情をストレートにわかりやすく表現しつつ、それを「したのかしていないのか」、そうした実際の行為も具体的に示しています。
そして、センテンスレベルを超え、文章の構成レベルでも英語は論理的な考え方を助けます。これは私がTOEFLの勉強していた時に、問題集に出てくるReadingやListeningの文章から学んだことでもありますが、英語の段落ごとの論構築は主に、
Statement(意見の提示)
↓
Reason and Explanation(理由と説明)
↓
Example(例)
↓
Conclusion・Summary(結論)
といった具合になっています。日本語特有の抽象的な文章と異なるのは、まず最初にはっきりと、その段落の内容を提示すること。そして、その論をサポートする具体例の存在です。
このネットで拾ってきた英文エッセイの第一段落を例にとってみてみます。まず最初に「外国語の学習者にとって、文法が複雑だということは、言われるまでもない」=文法は複雑だ、という段落全体の前提となる意見の提示がはっきりとあり、その後に「言葉の選択の小さな変化によって、文章の些細な意味合いが変わる」と書いてあります。直後に、"We can turn a statement into a question, state whether an action has taken place or is soon to take place"というexampleが、説明の補助として使われていますね(時制の変化なんかを用いることによって、文章のニュアンスが変わるよねということがここでは書いてあります)。
続いて「複雑な文法は英語だけの特徴ではない」という本段落第二のポイントが提示され、その例として、("for example")、"primitive tribe"ことチェロキーの言語の話が出てきます。そしてこの段落の結びは、「文法というものは普遍的で、あらゆる言語の一端を担っている。では一体、誰が文法を作ったのだろうか?」という、段落全体のまとめと、次の段落への論の繋ぎを作っています。
こうした提示→説明→例示というシンプルな論述構成ですが、相手に何かを伝える時には大きな力を発揮します。言葉がわかってさえしまえば、英語のプレゼンや、海外Youtuberの説明動画なんかがとてもわかりやすいのは、この英語の論述構成のおかげです。
そしてこれはオフィシャルな英語だけでなく、日常会話のシーンでも無意識に使われるテクニックでもあります。例えば、"How are you doing?"と聞かれて、"I am doing great"と答え、その後に"Actually I am so excited because I'm gonna see my family this weekend. I haven't seen them for like ten months since they moved"とか言ったりします。この時、英語の会話的にはいくつかポイントがあって、まず、
1. "How are you?"から会話のきっかけを作る
2. 自分の感情を伝える("I am so excited")
3. なぜなのかを言葉にして表現する("because ~")
4. 具体的なエピソードをつけて話に現実味・肉付けをする("I haven't seen …")
5. when、whereを具体的に言う(曖昧な"for a while"とかではなく、"for ten months since they moved"とかね)
こんな感じで、カジュアルな会話のやり取りの中にもやはり結論→理由→例という話の流れが英語にはあって、さらに、なるべくストーリーを具体化することで、話を相手が可視化できるようにしていきます。漠然とした話ではなく、エピソードを話す。英語の会話にbecause (causeだとかcuzとか何でもいいですけど) が多いのは、そうすることで、相手がリアクションするための情報を付け足すことができ、会話を続けていけるからです。
自分の言語への影響
こうした文章構造を、TOEFLのListeningとReadingの勉強でひたすらインプットし、SpeakingとWritingでがむしゃらにアウトプットする生活を送っていった結果、日本語で文章を書くときも、こうした文構造をある程度意識するようになりました。自筆の引用で恐縮ですが、例えば
この文章での英語の論述構造の影響は明らかで、主題提示「アメリカは自己責任の国」、説明「最終的に頑張るのは自分」、例示「ワクチンの話や空港でのエピソード」、まとめ「日本人にはホスピタリティがある (=アメリカではそれを期待できないので自分で頑張らないといけない) 」という段落の意思表示と構造がはっきりしています。もう少し複雑なコンテクストを伝える際には、段落同士を使って、こうした構造を大きく作ることもあります。
まだまだ他にもたくさん、書ききれないですが、英語を勉強して発見したロジックはたくさんあります。日本語はあくまで日本語なので、英語のロジックそのままとはいきませんが、こうした考え方が、モノを書いたり、人に何かを教える時にとても役に立っています。そうした意味で、英語を使っているときだけでなく、日本語話者としても、英語を勉強してよかったなぁと思うことがたくさんあるのです。
最後に、私が勉強している英語も、私が普段触れている英語も、あくまでアメリカ英語だということは断っておこうと思います。英語にもいろいろありますが、その辺の違いはあまり詳しくないので書かないでおこうと思います。
英語を使う予定もないのに英語を勉強する意味がわからない、昔中学生にそんな疑問をぶつけられたことがありますが、まあ、そう言わずにちょっとやってみようよ、意外とやってみないとわからないよ、という、私からのささやかなメッセージです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?