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余所の星から来たの




ある朝、目をさますとベランダにUFOが来ていた。

UFOから降りてきた宇宙人が言うには、私も宇宙人なのだそうだ。
その昔いろいろと事情があってこの地球に降り立った私は、うまく地球人のふりをして育ち地球の社会に紛れ生きてきたらしい。
「らしい」というのは、私自身はさっぱりそのことを覚えていないからだ。
自分のことは地球人だと思ってきたのだけれど、それでもとにかくその宇宙人によると、実のところ私は、余所の星から来た身だと言うのだ。

「ひと違いではないでしょうか」
と、私はしつこく確認してみたけれど、いいやあなたは我々の星の人間なのだと言う。
そんなこともあるのだなあと、私はパジャマと寝癖頭のままであまり驚きもせず床に座りこんでいた。

この地球ではとかく生き難かろうことだから、そろそろ本来の故郷である我々の星に帰ろう、と、宇宙人は私に言った。
その星の人々は皆とても互いに似ていて、姿形だけでなく食べ物の好みから聴く音楽、着るものの趣味にいたるまでもほとんど同じであるらしい。あんまり似ているものだから誰が誰だか区別がつかないほどで、とはいえ区別をする必要もあまり無いのだろう。思考の似た者同士であるから、もちろん争いや誤解もない。うまく言葉を選べなくても目を見ただけで気持ちは伝わるし、話が全く噛み合わない怖い人々など一人もいないのだという。そう語るその宇宙人も、言われてみれば私と目鼻立ちや声が似ていた。

UFOから例のステージ照明みたいな光が降り注いで、宇宙人が手招きした。

私はものの6秒ほど考えて、まあなんとかやっているのでこのまま此処にいます、けっこう大丈夫なんです、とお返事をした。
宇宙人は「君とは何故か話が通じない」と言い残して、またUFOに乗って遠くへ帰って行った。


夜になって恋人が帰ってきた。
私は彼が帰宅すると今日一日の出来事を話す。
何かあっても、何も無くても話す。
いつも通り私は「今日、ベランダにUFOが来てね」と、今日起こったことについて話し出した。
「私、どうも余所の星から来たらしいの。ここの人間じゃないのよ。」
事の顛末を私が一生懸命に話している間、彼は真面目な顔をして聞いていた。彼はいつだって私の話を真面目に聞くのだ。

「これで君と僕とがずいぶんと違う、その謎が解けたね」
と彼は言った。
「実は僕も先だって宇宙人に、お前はこの地球の者ではないと言われたんだ」
私はなんと答えたらいいのかわからなくて、
「...へえ、そんなこともあるんだね」
と間の抜けた返事をした。
「生まれた星に帰るかと聞かれたけど、僕も断ったんだ。僕もまあ、なんとか此処でうまくやっているし、それに此処には君がいるからね」


私たちは食べるものの趣味が違ったり、聞く音楽の趣味が違ったり、たまに相手が何を言っているのかよくわからなくて一生懸命考えなくてはならない時がある。
それでもそんな暮らしを気に入っているのだ。
そして違う星から来たどうしのわりには、けっこう分かり合えたりもしているのだ。

余所の星から来た私と余所の星から来た彼は、煮物と味噌汁を温め、お茶碗にご飯をよそって、向かい合って夕ご飯を食べた。
UFOは二度と来なかった。











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