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彼女とあの娘と女友達(あいつ)と俺とシリーズ

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男女の奇妙で複雑な性愛と、料理や食事を絡めた連作短編です。
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2017年3月の記事一覧

女性フォトグラファーと品川丼

 部屋に差し込む光がはっきりと濃い黄色みを帯び始めた頃、女性にしてはやや肩幅の広い、がっちりした影が床に伸びていた。ショートパンツから鍛えた太ももをむき出し、ひと昔前のプロが持っていたようなごついカメラを構える女性フォトグラファーが、マットの上で重なった俺と女を見ながら軽くうなずく。  重なる女は自らあてがい、ひと息に腰を下ろした。低くうめき、背中をそらす女の、豊かで重い胸に俺は下から手を伸ばす。いつもなら、それだけで歓びの歌も高らかに腰を力強くひねり、押し付けてくるのだが

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韓国産キムチラーメンとスパイスドラムのライム抜きキューバ・リブレ

 気がついたのは確か、金曜の午後だった。    少し前の週末、俺はいつものように猫っぽい娘へメッセ飛ばそうとソーシャルアプリを立ち上げたら、知らん間にブロック食ってたというわけ。  いつかはこんな形で切れる関係だろうとの思いが、ずっとどこかで佇んでいたにも関わらず、猫っぽい娘の喪失感は自分でも受け入れられないほど強い。そればかりか、それに動揺している自分を直視すると、自分の不安定さに呆れてまた動揺するという、ほとんどパニックに近い連鎖まで発生している。結局、その週末はなにも手

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ヤリ部屋と補身湯と昔の男

 ゲイカップルポートレートの写真展とトークイベントは思いのほか盛況だった。駅前に向かう細い道は歩道から人が溢れ、たまりかねたワゴン車が軽く警笛を鳴らす。思わず端へ身を寄せた時、ぽんと肩を叩かれた。 「お久しぶり、生きてました?」  短めの髪を無造作になでつけた細身のちょっと小柄な青年が、見るからに安っぽいメガネの奥からニコニコと微笑んでいる。やや奥まった大きな目と、本人が言うところのラクダのように長いまつげは、相変わらずチャーミングだった。  よせばいいのにきっちり髭をそった

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高純度カカオチョコを使ったビターなダークチキンモレのバレンタインディナー

 なんとなくフォローしていたコスカメコが新作をアップしていたから観に行くと、速報扱いでソシャゲのバレンタインイベントを再現したコス写も入っていた。フットワークの軽さに舌を巻きつつも、つい「まだ引っ張るのか、バレンタイン……」などと毒づいてしまう。これがクソダサ写真ならファボ乞食で片付けられた。ところが、受け取る男キャラを長身の女性レイヤーが男装していたり、定番のポッキーゲームもベタに横から撮らず見返り姿を主観構図でうまくまとめるなど、センスの良さや完成度の高さが見事なだけに、

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