見出し画像

ヤリ部屋と補身湯と昔の男

 ゲイカップルポートレートの写真展とトークイベントは思いのほか盛況だった。駅前に向かう細い道は歩道から人が溢れ、たまりかねたワゴン車が軽く警笛を鳴らす。思わず端へ身を寄せた時、ぽんと肩を叩かれた。
「お久しぶり、生きてました?」
 短めの髪を無造作になでつけた細身のちょっと小柄な青年が、見るからに安っぽいメガネの奥からニコニコと微笑んでいる。やや奥まった大きな目と、本人が言うところのラクダのように長いまつげは、相変わらずチャーミングだった。
 よせばいいのにきっちり髭をそった顎のラインは妙になよなよしかったが、腰から腿にかけてのシルエットは、いかにも値段だけで選んだような微妙にサイズが合っていないパンツの上からも、トレッキングで鍛えたシャープな身体を十分に誇示している。相変わらずいいカラダをしているようだ。
 だが、ブクブク膨れ上がったリュックサックに、これまたジャラジャラぶら下がってる山や鉄道のグッズとマスコットにより、カラダの良さばかりか濃厚な趣味性までもひけらかされている。あらゆる意味であの頃と変わっていないのは、良いことなのか悪いことなのか、なんとも難しいところだった。
 そうこうしている間に、邪魔くさそうな人々の視線が突き刺さってくる。すっかり歩道を塞いでいた青年を引き寄せながら「とりあえず、どっか入ろうか?」と、低くささやきかけた。
「えっ! いまからスカ?」
 こちらが全く予想していなかった青年のリアクションに、むしろ俺のほうがドギマギしてしまう。畳み掛けるように「いやいやいやいや、そういうんじゃないから」と重ねてみたが、反対にこれからハッテンしますよとしか受け取れないよなぁ、これじゃ。
 ちょっと大げさに苦笑しながら、青年は「でも、流石に動いたほうが良さそうですね」と俺の肩に手を添え、歩き始めた。
「どうせなら行きたい店あるんですけど」
「いいよ、どこでも! 近いの?」
 おっさん臭い大様さをアピールしつつ、青年と肩を並べて歩く心地よさを噛みしめる。こういう若い男の垢抜けなさも、決して悪くない。
「駅の向こうですけど、それより予算がね」
「この界隈ならどこでも大丈夫だし、こっちこそご馳走させてほしいぐらいだよ」
 すっかり若い男にデレるおっさんと化してしまったが、この際なんでもいいや。
 ただ、駅を抜けてくねくねと曲がりくねった細い路地に入り、見知った看板の前に立った瞬間、だいたいの事情は察しがついた。
「うぉ! まだやってたんだ」
「来たことあるんですか?」
「うん、補身湯だろ?」
「ダメだったらメニュー変えますけど……」
「いや、ここはなんでも美味いし、俺も久しぶりに食いたい」
「食ったことあるんです?」
「うん、はっきり言ってすごいよ」
「うわ~楽しみです!」
 問題はメニューより現金の手持ちで、カードが使えたかどうかは少し気になったが、どちらにせよ俺は外食でカードを使わない。ともあれ、陰陽五行のマークと看板がなかったら民家としか思えない引き戸を開け、無邪気にはしゃぐ青年を先に入れた。
 居間か客間を改造して土間にしたような食堂に入ると、青年を促しつつ傍らのビニール張りドーナツ椅子に腰掛ける。ピンクとも赤ともつかない椅子と、いかにもな分厚いビニールのテーブルクロスが醸す昭和臭さ、そして強烈な唐辛子とにんにく、ごま油の香りが俺の郷愁を心地よく掻き立てるが、反対に青年はやや落ち着かなさげだった。
「こんなとこだったんですね」
「うん、こういう雰囲気、苦手?」
「いや、なんか映画みたいで」
「ははは、そうかも」
 他愛もないやり取りの合間にメニューを確認するが、以前は最後にあったはずの補身湯が見当たらない。
 まさか、やめちゃったんじゃ……?
 ちょうどお冷とオシボリを持ってきた女将に「あ、あの」と言いかけると、満面の笑みとともに特別メニュと大書されたクリアファイルが出てきた。
「ヨカッタネ! 今日はデキるよ~」
 見ると品書きも写真も以前のまま、鍋の他に蒸し肉と焼肉があり、幸い値段も変わっていない。まぁ、こういうご時世だから、裏メニュー扱いはやむを得ないだろう。とりあえず補身湯の小と俺のコーラ、青年の韓国焼酎ソーダ割りを頼んだら、女将は「チョットマッテテね~」と言いつつ厨房へ引っ込んだ。
「小で良いんスカ?」
「小でもボリュームたっぷりだし、シメにはおじやがあるよ」
「じゃ、他のメニューは?」
「突き出しのナムルもたっぷりだし、ふたりだとちょい持て余すかも」
 意外なほど大げさに驚く青年へ「最近、食が細くてな」と答えつつ、それとはなしに近況などを探ってみる。
「あぁ、今シーズンは……」
 ふと、青年が口ごもった瞬間、タイミングよく韓国焼酎とコーラ、そしてナムルやキムチ、ポテトサラダの小鉢が運ばれてきた。ナイスどさくさというわけでもないが、仕切り直しに軽く乾杯。ソーダ割りを景気良くグラス半分ほど飲み干した青年とは対照的に、俺はコーラをチビリと含むだけ。
 実のところ、青年がはまってるトレッキングも鉄も俺はぬるく、話についていけるかどうかは微妙というところ。反対に、青年にとっては俺のカメラや写真、映画話が濃すぎてしんどい。不意の再会に盛り上がって、なんとなく飲みに行ったのはいいものの、さてどうしたものか。
「メニューの『きゅり』ってなんです?」
 青年が壁の品書きを見やりながら言う。
「それにきゅうりの薄切りを入れたようなもん」
 俺が指差したグラスを持つ、青年の表情が曇った。
「飲んだことあります?」
 俺は首を振って否定すると、青年は「じゃ、きゅうりコーラは?」と畳み掛けた瞬間、手を振りながら「いや、いいです」とキャンセル。そういやぁ、飲み物ネタも地雷原だった。まぁ、無自覚に昭和トークを展開する俺が悪いんだが。
 青年は残りの焼酎を干して、おかわりを注文する。これはいよいよ気まずいなと、キムチでも食って話を切り替えるかと思ったところに、でかい液晶の携帯が出て来た。
「最近のアプリは位置ゲー風味なんですよ」
 青年が見せた淡い緑の画面には、人形アイコンの周囲を取り囲んだ円が示されている。どうやら、同じアプリのユーザが円内に存在すると、アイコンが表示されてプロフもポップアップするらしい。
「すれちがい通信もあり?」
「ありますよ」
「セキュリティは?」
「ん~正直、微妙だけど、でもサーチモードにしないとアイコンでないし……」
 ぬるい俺を気遣い、デーティングアプリで応えてくれた青年に、なんてツッコミ入れてるんだろうと思ったが、もはや後の祭り。そういやぁ、俺のこういうところがダメだったんだろうなぁ。
 いちおう、いまでもソーシャルは相互だけど、リプもなんもない。たまにシェアされてびっくりってぐらい。とは言え、イベント情報は青年のタイムラインで知った。まさか声をかけられるとは思わなかったがね。
 そんな俺の遠いまなざしを知ってか知らずが、青年は楽しそうに携帯をいじってる。
 おいおい、まさかチャットじゃあるまいな?
 まぁ、いいか。青年が楽しければ。
 おいてけぼりになった自分を他人事のように感じながら、カクテキをつまむ。かすかに残る大根の辛味が唐辛子の刺激と相まって、沈みかかった気持ちに活を入れた。まだ若いのか、ボリボリと思いのほか大きな音を立てる。
 ふと我に返った青年が、慌ててアプリを閉じた。
「すいません、つい」
「いや、気にしないで。良さげな男でも?」
「う~ん、イベント後なんで、すれちがいはそこそこなんですけどね」
「そんなに使ってるの?」
「事実上の標準ってやつですね。ただ、やっぱ攻めはすくないし、ノンケさんには全く知られていないのがね」
「まずいの?」
「あんま、大きな声じゃ言えないすけど、ノンケ好きですからね」
「あ~そういえば……」
「ですよ。ヤリ部屋で声かけたのも、ノンケ臭かったからだし」
「そんなに?」
「うん、入った瞬間にわかるぐらい」
「そうなんだ」
「ですよ。おじさん、最近してないでしょ」
「うん、やっぱわかる?」
「吸ってもらわないと臭いますよ」
「そういうもんなんだ」
「ですです」
 正直、自分のペニスは臭いがきつい方だって自覚がなくはなかったし、実は腐れ縁の女にも言われたていたことだけど、流石にちょっとくるものがある。おまけに、青年はノンケの洗い方が雑なちんこ臭が好きだから、あの日ヤリ部屋で声をかけたというのがまた、なんとも反応に困ることではあった。
 ただ、攻めが少なくノンケもいないデーティングアプリでも、青年はそれなりにハッテンしているらしい。ただ、先日アプリで知り合ったおじさんは、残念ながら雑なオラオラ系で、えらい目に遭うたらしい。
「懲りた?」
「まぁ、今度はもうちょっと丁寧に選びますよ」
「辛いの大丈夫?」
「そんな、事後じゃないですよ」
「決まった人はいないの?」
「うん、事実上フリーですね……あ、でも、そういうんじゃないですよ」
「さっき声かけたの?」
「すんません。ここんとこ微妙に寂しかったけど、やっぱ違うなって」
「ぶぶぶ、大丈夫。気にしなくていいよ」
「こうして食べたり、飲んだりするのは好きなんですよ」
 正直、フォローになってないし、精一杯の気持ちがむしろ刺さるのだが、なんとか「ありがとう」と笑顔で取り繕えた、と思う。
 ところが、ついてない時ってそういうもんで、流れ変えたいなと、補身湯来てくれないかと焦る気持ちを紛らわすように「こうして久々に食べるきっかけにもなったし」なんてつぶやいたら、裏腹に追加ダメージまで呼び込んでしまった。
「ですね~この店に来たのも駅の反対側ッテの、ちょっとありましたけど、ほんとよかったですよ」
 そこまで言わんでもえぇやんと、つい眼を泳がせてしまう。
 確かに、ヤリ部屋とホテル街は向こう側だからね。
 ちょっと、流石にきついな。
 手札も尽きたか?
 しかし、完全には見放されていなかったのか、あるいは我慢のアディショナルタイムが待ち受けてるのか、ともあれ言葉が完全に途切れたところに料理が来た。
 ナイスどさくさ再びという訳で、なんとか流れを呼び込みたいと、はやる気持ちを抑えつつ刺激的な香りを胸いっぱい吸い込む。臙脂がかった深紅色の汁にゴマの葉やニラ、ネギといった山ほどの野菜の間に、カップ麺の謎肉を巨大化させたようなそれが顔を覗かせている。そして、鍋の具を覆い尽くすようにぶちまけられたすりゴマには、秘伝の香辛料がどっさり含まれていて、肉の気配をきれいにかき消していた。
「おぉ~すっごく美味しそう」
「ジッサイ美味いよ」
 ふたりで「いただきます」と手を合わせ、それぞれ好きなだけ取り皿へ盛り付ける。それでも青年はおっかなびっくりで、肉を少なめによそったが、自分はバランスを考えて硬そうなのと柔らかそうなのをいくつか、それに野菜たっぷり盛った。
「なんだかほわほわしてますね。それに、おもったより辛くない」
「硬いのもあるよ。それから、やがて辛くなる」
「ですよね~あっ! 来ました!」
「おもったより早かったね」
「なんか、肉汁が辛い気します」
 そうかそうかとうなづきながら、俺も肉を噛みしめる。筋っぽいところを取ってしまったらしく、いつまでも口の中でゴニョゴニョしていたが、その間に辛い汁があふれ、やがては刺激を残し消え去ってしまう。肉そのものにはさほど味がなく、食感を楽しむ添え物と言った感すらあるが、それは正しい。実は、肉の味と強壮成分を含んだ臙脂色の汁と、秘伝の香辛料入りすりゴマが補身湯の本体のような料理なのだ。
 辛味をたっぷり含んだゴマの葉を飲み込むと、やや酸味が強いキムチへ箸を伸ばす。カクテキが辛めでオイキムチはやや甘め、そしてキムチは酸味とそれぞれキャラも立っているのだが、白菜に含まれた酸っぱさは補身湯の辛味と相性が良いのかもしれない。
 青年はかなり気に入った様子で、今度は肉を重点的に取っている。
「ほんと美味しいけど、肉にはあんま味ないっすね」
「うん、柔らかいところにゼラチンっぽいところ、硬いところもあるけど、どれも味はわかんない」
「でも、肉を食べるとなんか元気が出ますよ」
「ははは、そういう食い物だからね」
 毛穴状のボツボツが残るゼラチン質の部位をこわごわ口へ運ぶ青年を見ながら、それこそ明日はお互い臭そうだなと、そんなことも思う。
 あの日、ヤリ部屋へ行く前、俺はなにを食べてたっけ?
 思い出そうとすること自体が無意味なのだが、少なくとも臭いのきついものは避けていた、そのぐらいの配慮は出来ていたはずだった。とはいえ、昭和臭いマンションの古びた鉄扉を開け、こじんまりした机に向かう全裸の中年男性と向き合った時、なにかを見透かされていたような感覚が湧き上がったことは、いまでも鮮明に記憶している。
 あれは、ゲイのセンスとかそういうのではなく、俺のちんこ臭がきつかっただけか?
 そう考え始めると、カーテンで仕切っただけの脱衣コーナーで全裸になった時も、妙にジロジロ見られていたような気がしてきた。同じくカーテンで仕切っただけのプレイコーナーでマットレスへ寝転んだ時、青年がすっと横に座って「おじさん、ノンケでしょ? すぐわかったよ」と言いながら股間へそっと手を伸ばしてきたのも、雰囲気とかそういうのではなく、臭いに惹き寄せられただけなのでは?
 渋い気持ちがこみ上げそうになるのを抑えて、ふと鍋を見たら、料理はあらかた消え失せている。少なくとも、肉は欠片も残っていない。ほぅ~気に入ったんだ。でも、ここで止めないとおじやの汁がなくなるな。
「そろそろ、おじやにしてもらおうか」
 流石にペースダウンしている青年の箸を止め、奥のおばちゃんを呼んだ。鍋を引き取ってもらい、ついでに飲み物でもと青年へ向き直ったら、いささか様子がおかしい。すっかり上気した頬に汗を張り付かせ、ふぅふぅはぁはぁ息も荒い。ただ、それ以外は至って元気というか、むしろ楽しそうなのがまたおかしいというか、不気味にさえ感じられる。
 あぁ~鍋に当たったというか、秘伝の香辛料が効きすぎたな。以前にもこんな感じのナチュラルハイを決めた奴がいたけど、どうやら補身湯の強壮効果には血圧上昇や多汗の他、気分を高揚させるというのも含まれているらしい。ただ、ここまでハイになるのは決まって男性で、女性にはこれほどの効果がないらしいというのは、なんとなく不思議な事だった(実際、俺も女性がこうなった例は知らない)。
 ともあれ、みる限り青年は高揚感と多幸感でハイになっても、悪寒は無いらしいから、もうしばらく様子を見る。
「うわぁ~みるみる身体が火照ってきましたよ!」
 すっかりご機嫌だ。
 勢いで韓国焼酎をおかわりまでしていたが、流石に止めればよかったか?
 それにしてもメーターを上げるとは、まさにこういうことを言うのだなぁと、妙な感慨にもふけってしまう。それにしても、あのタイミングで俺に声をかけたことと言い、なにか情緒不安定なものを感じるのは気のせいだろうか?
 おばちゃんから韓国焼酎を受け取った青年は、グイと半分ほどあおって俺に向き直り、妙に真面目くさった顔を見せる。
「ちょっと話変わりますけど」
 来た! めんどくさい話。
「あのトークどうでした?」
 あぁ、そっちのめんどくさい話か……。
 少し考えて、あまりぞんざいな受け答えにならないよう、言葉の置き方にちょっと気を使う。
「正直、表面的で時流にノリました感は否めなかったな」
 と応え、念のため「まぁ、あの評論家氏は理解あることにもなってるけど、やっぱヘテロからのクイア認識で、ゲイについてはそうでもないっぽいね」と付け足した。しばしの沈黙を経て、かすかな不満顔を浮かべた青年が「そういうのもあったけど、同性婚というスペシャルな関係っての、アレはかなりきつかったっす」とボソボソ言った瞬間、店内に響き渡る大声で「それな!」と叫んでしまった。
 あとはもう愚痴と悪態のオンパレード。
 確かに会場はアジア美術が専門のギャラリーで、オーナーもゲイアートとはほぼ縁のなかった人物だったが、それでも『アジア初の同性婚合法化社会から、カップルたちの姿を追った』ドキュメンタリータッチの写真展に、いちおうBDSMも含めたクイアアートに造詣が深い大御所写真評論家氏を招いてトークイベントを開いたのだから、その点はまぁ評価しても良いと思わなくもない。
 ただ、その写真評論家氏がね。
 大はしゃぎでカップルや家族を祝福するのはいいけれど、法定婚にこだわりすぎてヘテロにも少なくない非婚カップルをないがしろにしちゃうし、挙句に法定婚という最強の単一関係と恋愛を無邪気にくっつけて複数関係を間接的に否定しちまいやがった。聴きながら、流石にクイア的にも多様性尊重的にも、ちょっとまずいんじゃないかなぁとは思っていた。
 ところが、残念ながら司会を務めたオーナーはアジア美術のプロパーでもセクマイやクイアの事情には疎く、幾つかの局面で場の空気がふっと澱んだのにも、全く気が付いてない様子。最後の方は、微妙な顔をして評論家の話を流し続けている作家氏が、かなり気の毒になってしまった。
 ふとみたら、既におじやはテーブルに鎮座しており、やや冷めかかった汁飯を青年がもりもり頬張っている。考えながら喋ってる間に、青年があらかた食べてしまっていた。
「美味いすよ、ほんとにいいんですか?」
 食う方は、すっかりぞんざいな受け答えになっていたようだ。
「猫舌だから、このぐらいがちょうどいいんだよ」
 雑に返しつつ、少し粘り始めたおじやを取り皿へ勢い良くもる。ご飯と合わさってまろやかさを増しているものの、油断すると辛味が飛び出す、そんな複雑さを堪能した後、ほとんど氷の溶けた水っぽいコーラを飲み干した。そろそろ会計かとおばちゃんを呼びにかかったら、数人の浮かれた若い女性達が入ってくる。常連が中にいるらしく、お冷とオシボリを配るおばちゃんと話し込み始めた。
 さて、この機におじさんパワーの惹き寄せかと思ったら、おばちゃんが片付けに来た。さらに青年の携帯に通知も……。
 文字通り頬を赤らめ、呆れるほど素早く指を動かし、食い入るように画面を見つめる青年から、俺はなにもかもを察した。きまり悪そうにそっと目を上げた青年に「いいよ、ごちそうするから行きな」とカッコつけるのがせいぜい。挙句、会計も小銭総動員してようやくという有様で、タクシーも呼べずに臭い息を撒き散らしつつ電車で帰宅。
 風呂場で無意味にいきり勃つペニスをいつもよりずっと丁寧に洗いつつ、そういやぁ俺も誰か呼べばよかったと、そんなことに気がついた頃には深夜アニメが始まっていた。

ここから先は

0字

¥ 100

¡Muchas gracias por todo! みんな! ほんとにありがとう!