Mリーグ2019レビュー⑥ 渋谷ABEMAS編

シリーズでお伝えする今期のMリーグの総括編。
8チーム29選手の今期の試合内容を、独自の指標で査定を行います。
第6回目のレビューは今期年間総合3位、渋谷ABEMASを特集します。

チーム総評:多彩な戦略を駆使して2年連続のファイナル進出は評価。最終節まで優勝条件を残すが一歩及ばず、またも第3位。薄皮一枚際どい差がシャーレに立ちはだかる。

チームリーダー多井選手を筆頭に、戦略の引き出しを最も駆使したチームと言える。決して器用貧乏にはならないオールラウンダーでマルチファイターな4選手はいずれも攻守のバランスが取れており、通期に渡って大崩れしなかった。

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ご覧の通り各ラウンドにおいて連対率が5割を超えている。セミファイナルこそマイナスポイントだったものの、レギュラー・ファイナルではきちんとプラスポイントを積み上げて大崩れしなかったのはチームとしての強みが垣間見える。

【確定】レギュラーチーム打ち筋

こちらはレギュラー90試合でのチーム別打ち筋データとなる。黄色は各項目の最高値、青は各項目の最低値であるが、ABEMASはどこにも色が塗られていない。高すぎず、低すぎず、しかしながら凡庸にはならないバランスが非常に良い戦いをしてきた。
敢えてタイプ分けをするのであれば、『手数勝負タイプ』となるだろうか。パイレーツがこの傾向の筆頭であるが、打点は低くともとにかく和了を量産するタイプの傾向である。

【確定】2019チーム打ち筋

パイレーツとの明暗を分けたのは守備指標である。上記は2019シーズン通算のチーム別打ち筋データであるが、優勝したパイレーツと比較すると、ほん
の僅かパイレーツの方が守備指標の分がいい。

【ABEMAS】和了率19.37%・放銃率10.37%
 vs.
【パイレーツ】和了率20.31%・放銃率9.44%

と和了の多さと放銃の少なさが同じタイプ同士のチーム比較で薄皮一枚競り負けた。
勿論、マクロ的な視点が成績の全てを語るものではなく、ABEMASとパイレーツが全く同じチーム傾向を持つわけではないが、結果としてチームの打ち筋データが似通ったシーズンとなり、僅かな指標の分後塵を拝してしまった。
胸に輝くABEMASゴールドは来季さらなる光を放つため、既に戦いは始まっている。

選手別総評

多井隆晴選手:戦術の総合商社ここにあり。引き出し多彩なマルチファイターが躍動し2年連続の大幅プラス。付き纏うポストシーズンマイナスの呪縛。

【査定】攻撃B 守備A 加点効率A 運D 総合査定B

18-4多井総合

18-1多井レギュラー

18-2多井セミファイナル

18-3多井ファイナル

長期リーグ戦ではコンスタントにポイントを残すカリスマは今期もMリーグを沸かせる。レギュラーでの和了率23.53%はリーグ3位放銃率8.82%はリーグ5位といずれも上位。打点は中位~下位クラスの中、相手より一歩抜き出る和了への速度感がMリーグにフィットしている。
驚くべきは親番の連荘率。あの沢崎選手を抑えてレギュラー41.94%、通期40.98%と5局に2回は連荘に成功しており、得点力が増すチャンスタイムの継続も味方した。親番の期待値は筆者の別の記事のとおり、親番1回につき600点強加点する計算であることから、連荘率の高さを侮ってはいけない。
嫌でも付き纏うのはポストシーズンの呪い。昨シーズンもそうだったが、レギュラーシーズン以外のラウンドでは全てトータルポイントがマイナスとなっているのが、唯一のアキレス腱となっている。昨季の個人王者が短期決戦に弱いとは思えない。コンスタントに勝てる安定感に短期勝負の爆発力を兼ね備えるポテンシャルは十分のはずだ。

白鳥翔選手:渋谷を照らすムーンプリズムパワーメイクアップ!昨季鬱憤晴らすトップラス麻雀で駆け抜け驚異のトップ率で供託泥棒から「オカ泥棒」襲名。

【査定】攻撃D 守備C 加点効率C 運B 総合査定B

19-4白鳥総合

19-1白鳥レギュラー

19-2白鳥セミファイナル

19-3白鳥ファイナル

データ取り人間の筆者がこのオフシーズンに最も分析したいと思っているのが白鳥翔選手である。正直に申し上げると、白鳥選手には特にずば抜けた数値がないのである。ざっくりのデータ分析となるが、基本的に攻撃指標が優秀な選手ほど総合順位は好位置になる。評価のバランスは攻撃指標と守備指標では1.0:0.85くらいの目で見ている。これは、麻雀にはツモられで失点がある以上、守備をどれだけ固めてもラスは回避できてもトップは取れない性質を持つためである。
話を戻して、白鳥選手の攻撃指標を確認する。通期和了率17.65%は23位、放銃率10.92%は18位、平均打点・平均放銃点も中位クラスに留まっている。
相対評価となるリーグ戦であることから、この分他の選手が利するはず。しかしポイントは+231.9ptsと通期6位の成績を残している。
他の要因を探るのであれば、白鳥選手のトップ時の素点が一つの要因であると分析している。圧倒的に抜きんでた指標がないということは、スコアも控えめになるはずであり、その証拠に通期素点は+16.9ptsと控えめである。しかし、今季の白鳥選手はロースコアを差し切る勝負強さを誰よりも持ち合わせていた。
Mリーグ通算380試合における、トップ者の平均点棒は44,626点。大体素点から2万点浮くとトップとなっている。今季の白鳥選手のトップ獲得回数は12回、このうち44,000点を超えたトップは僅かに3試合しかない。4者の競り合いの中で生まれた競り合いをクビ差で躱し、ロースコアトップを重ねてきたMリーガーで最も勝負強い選手と評価できる。

松本吉弘選手:裏ドラ的中率No.1!ヒットマンの異名は伊達ではない。しかし序盤のリズムの狂いが最後まで攻守を蝕んだ

【査定】攻撃D 守備C 加点効率C 運E 総合査定D

20-4松本総合

20-1松本レギュラー

20-2松本セミファイナル

20-3松本ファイナル

昨季レギュラーシーズンでは僅かながらプラススコア。ファイナルでは不完全燃焼の下位に沈む気合十分で臨んだ髭の若武者。しかし、気負いが仇となったか開幕登板10戦で1トップ6ラスと完全にスランプに陥った。なんと第27節第1試合~第42節第2試合まで実に16節32試合もの間個人最下位に沈んでいた。
しかしここで心は折れなかった。以降13戦は2トップ3ラスながら2着を7回刻んで順位点を残すことに成功。序盤の躓きに苦しみながらもギリギリの所で最悪は回避した。己との戦いとなったポストシーズン。昨季もトップがなく嫌なジンクスを抱えていたが、13回目のアタックで遂にポストシーズン初勝利を飾り、極限の条件戦の中涙ぐんだ破顔一笑の表情をファンに届けた。
個人データはやはり厳しい評価となる。攻撃指標はレギュラー和了率17.73%で24位、1試合平均和了数2.17回でまず攻撃の弾がそもそも少ない。火力となる平均打点は6640点で丁度中位となる15位だが、和了数が少ない分火力が並では力負けしてしまう。
うまくかみ合わない攻撃でやけにならず、守備ではきちんと我慢をした。レギュラー放銃率11.35%、平均放銃回数1.39回、平均放銃点6269点といずれも平均を下回ったが18位・19位に抑え不調の中でもしがみつく粘りを見せた。
しかし、あまりにも運がなかった。平均ドラ使用枚数1.18枚はリーグ26位、Mリーグの当たりくじ赤ドラはわずか0.32枚でリーグ最下位となり、加点要素が全く入らず。しかし、さすがヒットマン。裏ドラ的中率はレギュラー43.33%とリーグトップを奪取して二つ名の面目躍如となった。

日向藍子選手:ファイナリストでは2名しか達成していない『全ラウンドプラススコア』をマーク。コツコツ積み重ねた85.8ptsは1年目にしては十分な戦果として誇れる数値。

【査定】攻撃C 守備D 加点効率A 運B 総合査定B

21-4日向ファイナル

21-1日向レギュラー

21-2日向セミファイナル

21-3日向ファイナル

今季ドラフト指名のビッグマム、ハニーボイスの肝っ玉母ちゃんがMリーグでも成績を残した。
レギュラー最終戦でトップを奪取し、素点を失いながらもプラススコアを残すとセミファイナル・ファイナルでも起用に応える4勝を挙げ、終わってみればレギュラー・セミファイナル・ファイナルの全ラウンドでプラススコアをマーク。これは、ファイナリスト15名の中では魚谷選手と日向選手しか達成していない金字塔である。
明るい笑顔と対局中の眼光鋭い卓上を見つめる眼差しのギャップが特徴的な日向選手だが、攻撃指標はちょうど中間点。レギュラー和了率18.87%は15位、平均打点6602点は16位と中火の火力であった。
守備には課題が残る。レギュラー放銃率12.26%は24位、平均放銃6350点は20位と下位クラスに沈んでおり、通常放銃率12%台はそんなに悪くない数字だがロン和了が少ないMリーグではやや見劣りしてしまう。
しかし、母は強し。肝が強い粘り腰の麻雀は数字になって残っている。レギュラーの流局聴牌率は50.00%のリーグ2位連荘率38.46%はリーグ6位と多井選手で言うところの『粘りング』が出来ている。
そして、Mリーグの象徴・赤ドラに最も愛された選手が日向選手である。レギュラーでは平均0.68枚、通期では平均0.72枚と全選手中トップの使用枚数となった。

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次回は、年間総合2位 セガサミーフェニックスのシーズンレビューをお届けいたします。