親番の期待値について

2020年6月23日、激闘の216試合を終えて閉幕したMリーグ2019シーズン。セカンドシーズンの覇者はデジタル特化の海賊軍団・U-NEXTパイレーツ。各ラウンドを通過ボーダーギリギリで生き残り、決勝ラウンドで最後の最後に逆転をつかみ取りました。

この最終戦からおよそ1年前、ドラフト会議の詳細もまだ出ていない頃に筆者は1冊の本を手に取ったのですが、奇しくも1年後に国内最高峰リーグを制する選手の本でした。

近代麻雀シリーズ スーパーデジタル麻雀(竹書房) 著者:小林剛

パイレーツのドラフト1位指名、小林剛選手の本。
なるほど、思考を覗くとこのような考えで打っているのかと読み進めていると、非常に興味深いデータが目に留まりました。(以下、引用)

親番1局あたりの平均収支はせいぜい400点だろう。つまり「親を1局やると、平均400点増える」ということだ。ずいぶん少ないと思う人もいるかもしれないが、検証するとこの程度だということを、覚えておいて欲しい。

~~中略~~

無限に連荘する可能性まで考えても、おそらく1回での親番での平均収支は650~700点くらいだろうか。

--近代麻雀シリーズ スーパーデジタル麻雀P58 より引用

親番。子の1.5倍の得点が期待できますが、ツモ払いの場合は2倍支払う立場ですが、感覚としてはプラス期待値であることはなんとなく筆者も体感しておりました。Mリーグは競技麻雀でも稀有な『赤ドラ採用』という、特殊環境の中、では果たして実統計を取ると親番の価値はいかほどなのか?という疑問が浮かび上がり、じゃあ探ってみようと思ったのはMリーグ開幕の3か月前の出来事でした。

このとき、速報データ用の表計算ソフトに計算式を入れ込んでいる最中だったのですが、急遽この項目も追加して1シーズン216試合の【親番の価値】を確かめることにしたのです。

注)筆者は1年間216試合のデータを全て計算データに打ち込み、現在はファクトチェックの最中ですが、以下のデータは速報データということで今後数値の変更がある可能性も踏まえて、ご参照ください。

Mリーグにおける親番の価値

親番の価値、すなわち、1回親番を経験すると得点の増減はどれほどあるのか?というデータです。
加点にプラスの要素(打点は子の1.5倍)、マイナスの要素(ツモられの場合は子の2倍の支払い)と相反する要素がありますが、もしこの親番平均収支が正の値の場合は【1局親番を経験すると??点増加する】という期待が持て、親番を継続するほうが有利となります。
逆に、この値が負の値の場合は【1局親番を経験すると??点減少する】ということとなり、親番を行うこと自体が不利となります。

筆者の検証方法は「純粋な親番時における収支」を集計しております。
つまり、親番のロン和了・ツモ和了における加点、放銃・ツモられによる失点のほか、親番自身がリーチをして流局した場合はリー棒分1000点を失点扱いとしており、聴牌料の獲得・支払い、積み棒による加点・減点、全てを集計対象としました。
そして、それで求められた収支を全親番経験局数(=総局数)で除した数値が1局あたりの親番の平均収支となります。

今シーズン216試合の選手別打ち筋データは以下となります。

親番検討

今季は216試合延べ2660局(ノーテンリーチの1局はノーカウント扱いなので集計に含まず)となりましたが、つまり親番も2660回行ったことになります。
ほとんどの選手で収支はプラス。黒地白抜きの「リーグ全体」項目を見ると617.14点となっており、親番1回における価値は617点というデータを得られました。小林剛選手の見立てはほぼ当たっておりました。

筆者が特に注目したのは、この数値の選手ごとのバラつき(分散)です。
最低値は二階堂選手のマイナス573点、最高値は近藤選手の1502点。29人分のデータにおける分散は227,184、標準偏差は476.64となっています。
全体統計としては600点前後に落ち着きましたが、選手個別によってはこの数値がかなり差がついていることは、プレイングや試合内容など、どのような要素が関連するのか、これはまた後々データをまとめていく中で検証を進めていきたいと思います。

親番の固執具合はリー棒1本に満たない、連荘率が34%とあることから、わりと親番にものすごく固執するという傾向はなさそうな感じです。
オールドファッションなセオリー(片山まさゆき氏/オバカミーコで登場する用語)では、親番は何が何でも死守するのはフラットな場面ではそこまで意識しないのが現代麻雀のセオリーであるとデータを見て思うところです。
押し引きの判断は状況別の平均打点(親/子のリーチ・副露・黙聴の全6通り)の平均打点が参考となるところですが、子の攻撃に対して自身の手が概ね3翻ないと期待値が下がりそうなデータですので、押し引きの意識について、このデータを参考にしてみてください。