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サブカル大蔵経703『竹宮惠子のマンガ教室』(筑摩書房)

手塚治虫の編み出した技術と漫画の文化を伝えていく、その使命感あふれる竹宮惠子が後に教鞭をとることが予感される本書。

連載媒体である「JUNE」らしい「キャプ翼」やBL同人誌などについての言及やイラストもあり、サービス精神満載の本書です。

後年竹宮惠子が説く漫画技術の集合知、オープンソースについて、この時も語られていて、関連して、萩尾望都との関係性にも踏み込んでいきます。

竹宮 私、萩尾さんのマンガを見た時にも、彼女の影響が自分の中に入ってきているのを知ってて、でもどうしてもそれをやりたかった。「影響受けてる」って言われても、「いいの、私はこれ習得するんだもん」っていう厚かましさで自分のものにする。
ー萩尾望都さんから影響受けたって、どのへんですか?
竹宮 たとえば背景の描き方ー。彼女は森を描くのがすごく得意で、森の中の風景がすごい綺麗だったんですよ。p.28

ヨーロッパ旅行で植生に興味を持った萩尾望都のそれ以前からの森の描写について。

しかし、大島弓子や矢口高雄など他の作家の作品引用がふんだんにある本書なのですが、その森の描写の箇所についての萩尾作品の引用はありませんでした。

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森の表現では、竹宮作品のみの引用。p.29

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本書は、2001年、筑摩書房から発行。高野文子『るきさん』、吉田秋生『ハナコ月記』のちくま文庫の広告が同封されていました。

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ぶっきらぼうだけど、とにかく微細で丁寧で、技術を教えることへの情熱が感じられます。生粋の教師なのかもしれません。

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帯には〈あっと驚く〉刺激的な文言。そして最終章は、現在話題の〈大泉サロン〉について。聴き手は藤本由香里さんです。

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ー竹宮さんは若い頃、一時期、萩尾望都さんと一緒に住んでらしたんですよね。キャベツ畑に囲まれた、有名な「大泉サロン」。最初はどういうきっかけだったんですか?描いてるものが近いからとか、そういう…?
竹宮 もともと単純に彼女の世界が好きだったんです。それで、こういう人とつきあいたいな、って思ってた。/「こういう人のそばで勉強したいな」という気持ちもあった……。p.244.5

 萩尾望都の論理的な作品に男性的なものを感じていたという竹宮惠子。自分に無いものを吸収していきたい。

竹宮 まあそういうふうに、一緒に住んでた感じなのは、佐藤史生さんと池田いくみさん。
ー池田いくみさんというのは?
竹宮 「ハリー」の新聞広告でしたっけ?ありましたよねえ……。
ー『ハワードさんの新聞広告』?
竹宮 それそれ。
ーそれはでも、萩尾先生の作品では……?
竹宮 じゃないんです。原作は池田いくみになってます。彼女は萩尾さんよりもっとポーッとした優しい顔の絵を描く人だったんですけれども、あの話はもともと彼女が描いたマンガなんです。結局、彼女はそれを発表することなく、病気になってしまったもので、了解をとって萩尾さんが出したんだと思います。p.248.9

 『一度きりの大泉』に掲載された作品がここで触れられていました。萩尾望都が池田の為に出してあげたというニュアンスは感じられないような。

私がけっこう自分自身の悩みに疲れてきちゃって、「一人になりたい」というの出ちゃったんです。p.249

 大泉サロン解散の理由

ー大島弓子さんはどうなんですか?大島さんと竹宮さんと萩尾さんって、三人セットで語られることが多いですよね。
竹宮 "24年組"というと、そう言われるんですが、大島さんとは別にその頃交流があったわけではなかったんです。/でも"花の24年組"と言うのはもともと私たちが言い始めた事なんですよ。/それはもともと増山さんが言い始めたんだと思います。p.250

 萩尾望都は大島弓子とベタ塗りの手伝いをし合うこともあったと別媒体で述べていたが、竹宮惠子はそこまでの接点はなかったということ。そして、24年組とは、増山さんの言葉とのこと。

ーそう言われると萩尾さんは竹宮さんの横顔を見て研究するわけですね。
竹宮 それはあったかもしれませんね。彼女は女の子を描くのが上手。私は男の子を描くのが上手、っていう風に言われて、なんとなく最初は分担わけをしてたんですけど、そのうちにお互い影響受けあってしまって。あの頃、萩尾さんは、少年を描く研究をすごくしてたんですよ。私自身も萩尾さんにはずいぶん影響受けた。私はそれを最初から予測の上で一緒に暮らし始めたし、そういうことにあんまり垣根がないタイプだったから、あんまりそれをいやだとも思わなかったんですけどね。
ーそうやってお互いの影響のもとで、マンガ史に残る作品が次々と生み出されていったわけですね。p.254

 一緒に並んで描いている藤子不二雄まんが道的な情景が浮かぶような、しかし、〈萩尾さんは少年を描く研究をすごくしてた〉というワード。竹宮は、自身を、〈垣根がないタイプ〉だと強調するのだが、今読めば、それによって、追い込まれていったことが暗示されるような。

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