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サブカル大蔵経60 金田淳子『『グラップラー刃牙』はBLではないかと1日30時間300日考えた乙女の記録ッッ』(河出書房新社)

 中学の時愛読していた「アニメディア」の読者コーナーに突如「キャプ翼」のBL投稿があふれたのをリアルタイムで体験した者としては、「キャプ翼」時代からの焼き直しなのかなという印象ではあるが、こういう妄想やりとりも、かえって今は新しく、またBLでは現役設定なんだと認識。

 無料漫画から入り、「chu」から始まる刃牙にそのうち興味が薄れ、脇キャラ克己を推していく展開も正しいし、モブや女性キャラへの視点も温かく、この著者は信頼できるッと思わせる。セリフの選択も的確。尻すぼみについても正直。

 この界隈では40年前から体中に無数の傷と言えばジルベールなのだ。p.18

 ジルがやはりシンボルなんですね。

 序盤の刃牙さんは、住まいの家の内壁に攻略対象の男たちの写真を貼っており、落としたものに×をつけていくというムーブをする。客観的に見てシリアルキラーの住む家だが、内実は乙女ゲーだ。p.27

 この感覚ッッ!^_^

 刃牙は親に激しく虐待されたと言うジルベール要素、親に勝手に目標決められしごかれたと言う星飛雄馬要素、両親がノリノリでやっているおかしな研究で母が死んだと言う碇シンジ要素が全て備わり、スタート時点で完全に致命傷を受けている。p.40

 刃牙は脇役に比べて無個性な透明な存在かと思っていたが、こう見るとかなりの「致命傷」なのか。だからこそ対戦相手の背景のインフレが起こっても最後は勝てるのかな?

 地下闘技場は良い意味で、コミックマーケット(2日目)みたいなものかもしれない。p.59

 たしかに、あの熱気ッッ…。この漫画、なぜ地下闘に観客が必要なのかとずっと思ってました。

 55歳メガネ(眼帯)vs75歳メガネ(義眼)、たまらないエロス対決が来た。p.74

 リアルタイムであの2人が並んだコマを目の当たりにしてした時、漫画史に残ると思った。しかも75歳が勝つとは思わなかった。渋川と柴千春が勝ったことが、このマンガの異様な説得力に読者が身を委ねた瞬間だったと思う。

 初めて好きになった漫画雑誌を親だと思ってついていってしまうと言う。p.84

 私はチャンピオンでした…。

 失禁してもトレーニングを続けたりするジャック・ハンマーは作中の論理で最も女性的な要素を持たされた男性キャラクターの1人だと思う。p.90

 思えばドーピングをむさぼり喰うあのシーンもダイエットサプリ食べてる乙女シーンかも。何ンか応援したくなるような…。

 アライ・猪狩状態は、性的な何かを誘っているようにしか見えない。p.188 

 この「アライ・猪狩状態」というフレーズも漫画史に残るだろう。読者に異様なコマとして二重の意味で突き刺さるッッ。

 こういう芳しく上品な刃牙の書籍が秋田でなく河出から出版されたこと。さまざまな関係者に敬意を表したい。押忍ッッ!

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本を買って読みます。