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サブカル大蔵経308稲田俊輔『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』(扶桑社新書)

チェーン店考察本の真打ち。作り手側のプロ目線による的確な分析と、お店やメニューを擬人化しそうなくらいの妄愛が混ざり合う奇跡の達意の文章が、私たちの目の前の風景を一変させてくれます。

サイゼリヤが「無理に美味しくしすぎない、あくまで家庭的なおいしさを」目指しているの対して、ガストは同じような価格で「はっきりとわかりやすい外食っぽいおいしさ」を志向。プロ中のプロである我々が負けるわけにはいかないと言う静かな闘志のようなものを感じるんです。/チェーン店の厳しさと言うのは、常に「チェーン店なんて所詮」という今だに根強い偏見と戦い続けなければいけないと言う点にあると思います。私は微力ながらそういう偏見を少しでも取り除くことができればと言う思いもあり、こういう駄文を書き連ねているのですが、今回ばかりはそれを「いや、そういうのいいです」とガストさん本人にきっぱり断られた気がします。「我々はただひたすらにファミレスとしての本分を全力で尽くす、ただそれだけですから」と。私はある種の敗北感を味わいつつ、このファミレス界の巨人の、清廉さのようなものに心を打たれていました。p.99.100

 このやり取り只事じゃない一節ですよ。サイゼリヤを偏愛する著者の、ガストへの尊崇の念。プロレス的に言えば、世間からの偏見と戦うという猪木イズムの著者が、ファミレスはそのままファミリー向けでいいという馬場イズムのガストに対峙し、ライバルの凄さを認めたという風に読めました。

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[サイゼリヤ]素材の良さに関して、もっとも目についてわかりやすい例としてはフロアに置いてあって自由に使える卓上調味料があります。具体的には、まずオリーブオイルです。/迷ったらペコリーノ。これはサイゼリヤに今後もグランモラヴィアの無料提供を続けてもらうための、いわばお布施の意味も含んでいます。/スープぐらいしかないけどいいかい?と言われて出てきそうなやつ。レンズ豆とスペルト小麦のミネストローネp.12.68.78

 無料のオイルとチーズの凄さ。その為にお店にお布施!溢れ出る同朋の念。さらにメニューから作り手の声まで聞かせてくれる導き。すぐお店に行って、その指南通りに体験したくなります。分析を超えた偏愛の言説が、チェーン店の思想、法人という人格、その深淵の世界に誘ってくれます。

「普通においしい」と発言するのは、「特に語るほどの価値はありません」と無情に宣告しているのと同じに感じるのです。なんだか冷酷だなぁと。それと実際に世の中に普通においしいものがやたらに増えたと言うことではないかと思っていますp.94

 この文読んでから気にするようになりました。使ったことあるかもしれない…。

当時から私としては、バーミヤンとは「大衆中華を一般的な大衆中華店の3分の2の価格で提供する店」ではなく、「本格中華を高級中華の3分の1の価格で提供する店」という認識でした。p.122

 バーミヤンは、安さだけの大衆中華ではない!本格中華…。そういえばマニアックなメニューあるかも。私まだ一回しか行ったことないです。京都のビジネスホテルの一階がバーミヤンでした。おかゆ食べたかな?

しばらくしてまたその店に行った時、既にその職人さんはいませんでした。職人としての誇りと大衆店の現場の間に埋められない齟齬があったのか。そして他の職人さんたちと軋轢が生じてしまったのか。いろんな想像をして切ない気持ちになりました。p.133

 王将妄想物語。これ読んでから、以前より、チェーン店の作り手さんに畏敬の念を抱くようになりました。

日本人の常識に忖度する気ゼロのカッコよさ。マクドナルドのマックグリドルp.158

 たしかにバーガーキングだけでなく、実はマックも日本向け忖度あまりないかも。えっ?というメニューありますもんね。

日常の愉悦、ケンタッキー定食。とりあえずご飯を炊いて、あとできれば味噌汁ぐらいは用意しておきます。そしてオリジナルチキンとコールスロー買って帰るのです。そうケンタッキー定食です。p.176

 ウチはいつもおにぎりを用意します。

吉野家の牛丼は30年前なら「今日は味の濃いパワフルなものを食べたい」と言うときの選択肢だったような気がします。しかし今では逆に「今日は気持ちあっさりめにしときたいな」と言うときの選択肢になっているように思うのです。/だから紅生姜をてんこ盛りにしている人を頻繁に見かけるようになりました。できればもっと濃い味で食べたいと感じているからではないかというのは穿ちすぎでしょうか。p.182

 ヘルシー吉野家。至言。その通りです。村瀬秀信さんの本でもありましたが、もう牛肉はおまけで紅生姜&七味丼ですよ!

一人の女性からこんなリプライがありました。日高屋は生ビールが安いスタバです!男性は、あそこはなんてことないつまみがいいんです。スーパーの惣菜コーナーにビールを持ち込んで飲んでいるような楽しい気分になります。気負わず使う。日高屋はある意味本当にカフェなのかもしれません。カフェというと日本では喫茶店のおしゃれな言い換えのようなイメージがありますが、本来はもっと市民の生活に密着した憩いの場です。p.203

 日高屋幻想マックス!!ロンドンのパブもパリのカフェもたしかに、そんな感じありました。まさかヨーロッパのパブやカフェやバルに一番近いのが日高屋だとは…。

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