見出し画像

サブカル大蔵経 5 小田扉『横須賀こずえ(1)』(小学館)

 犬目線だから、徹底して人間家族の個性は出さない。こずえを拾った家族は両親ともメガネ、長男も次男も髪型、顔、性格に特徴は全くない。トムとジェリーか、流れ星銀か。一瞬、ドラ視点ドラ語りの小田扉流リアル『ドラえもん』かと思った。 

 家族と異人。こずえと同じ目線で語れるのは、異人としての長女のみ。その稀に見るキャラクター性を廃した登場人物設定は、作者の小田扉さんが、長年連載した『団地ともお』でのキャラクター設定に疲れたからなのかなと思う。だからこそ紡げる物語の可能性を感じるし、相当の力量がないとできない手法だと感じた。小田扉さんの達観した無常感とコマ割り、弱者への優しさの視点がまた読めるだけで嬉しい。ともお親子がチラッと出てきて嬉しい。カラスも出てきて嬉しい。

 キャラクター性のない人物設定に反して、犬はこずえという名前を与えられ、こずえという存在になり、仲間や居場所を作っていく。そして前作は枝島という架空の地名だったが、なぜか今作は、横須賀という具体的な実名が舞台になる。今のところ実在性こそが最大の匿名性につながる感触。次男が道に迷うのに二話も使うのもそのメタファーか。これから匿名性と名前を持つ存在との交流が描かれていくのか。

「この日、こずえはこずえになった。」

画像1

 こずえが、拾われる前の自分の過去を探していくことが、こずえのこれからの目的になっていくのかもしれない。

「こずえは人間の年齢でいうと約40歳。長男・健三のおしめをかえたこともあるんじゃないかとすら思っていた。」

こういう擬人的表現がすごい。 

 小田扉の描く叙事詩は、ヒトも動物も道もモノもみんなフラットなのが、公平感あって心地いい。

画像2


この記事が参加している募集

#マンガ感想文

20,070件

本を買って読みます。