BluetoothにIoT... K-POPアイドルの"応援棒"がすごいので調べてみた。
K-POPアイドルの応援ツールに「応援棒」と呼ばれるものがある。
応援棒はその名の通り、ファンがアイドルを応援するときに用いるペンライトだ。ライブに持参し、曲に合わせて振るなどして推しを応援する。
多くのアイドルはオフィシャルグッズとして応援棒を販売している。以下はBTSのオリジナル応援棒、通称「アミボム」だ。
このほか、TWICEは「キャンディーボン」、EXOは「エリボン」、NCTは「草鈍器」と呼ばれるオリジナルの応援棒を販売。デザインも、各グループの個性を反映したものとなっている。
応援棒の最大の特徴は、主催者の演出意図に沿って光・振動・音などを出力できるところだ。曲のイメージに合わせて色を変えたり、ブロックごとに色分けして文字や模様を作ったり、BPMに合わせて発光・振動させたりと、多様な演出を実現している。
これによって生まれるアイドルとファンの相互干渉性、ライブの高揚感・没入感は、アイドルの応援文化の大きなターニングポイントとなった。
では、その応援棒の実態はどのようなものなのか。この記事では、活用されているテクノロジーをメインに、その概要や歴史などにもふれていく。
ファンの対立から生まれた応援棒
韓国のアイドル史において応援棒が登場したのは2000年代半ばといわれている。
それまで一般的だったのは風船を用いた応援方法。曲に合わせて、アイドルグループのテーマカラーの風船を振るのが主流だった。
しかし、次第にテーマカラーの重複が問題となる。例えば、K-POPのセカンドウェーブを牽引した「東方神起」と、女性アイドルグループ「Fin.K.L.」はともに赤色を使用しており、ファン同士の対立が深刻化した。
そこで登場したのがペンライトである。
例え色が似ていても、形状が異なれば差別化を図ることができる。技術の発展・普及も後押しし、アイドルグループの応援グッズ=ペンライトという認識が広まり始めた。
2010年代にはLEDを用いたペンライトが登場。「応援棒」と呼ばれ始めたのもこの頃だ。
当初は限定された色しか搭載できなかったものの、LED技術のコモディティ化を経て、2015年ごろにはさまざまな色を発光できるようになった。
「LEDの可能性」 © Panasonic Corporation
応援棒によるライブ演出が始まったのは2017年。初めて採用したのは韓国三大事務所の1つ、SMエンターテインメント所属の「EXO」だった。以降、ほかのアイドルグループも次々と同じシステムを採用している。
応援棒は今や舞台装置の1つであり、ファンを鑑賞者から演出者に変える画期的なアイテムだ。こうして、アイドルとファンの相互作用を促し、応援文化が加速してきたのである。
実はハイテク? 応援棒の仕組み
では、この応援棒にはどのようなテクノロジーが使われているのか。
まず、この仕組みは「夜光棒を利用した公演演出制御システム(야광봉을 이용한 공연연출 제어시스템)」と呼ばれるものだ。SMエンターテインメントが2017年、「EXO」のライブで初採用するにあたって特許を取得した。
特許文献の検索サービス「Google Patents」によると、この制御システムは、
① コントローラー(中央制御装置)
② 応援棒(コントローラーから発光情報などを受信する)
③ スマートフォン(応援棒と接続される)
④ スマートバンド(スマホと接続される)
以上をワイヤレスで繋ぎ、通信遅延やAPサーバの構築なしに、ライブ演出を実現するという仕組みだ。
©️ Monstarlab
このとき、ファン側の応援棒およびデバイスには近距離無線通信が用いられる。近距離無線通信は、通信距離が数十mのワイヤレス通信技術のことだ。主なものにはZigBee、無線LAN、そしてBluetoothがある。
「夜光棒を利用した公演演出制御システム」に用いられているのはBluetoothだ。なかでも、省電性に長けたBluetooth Low Energyが使われている。
Bluetooth Low Energyは、2009年12月リリースの「Bluetooth 4.0」に搭載されたLE(Low Energy:低消費電力)機能を指す。従来のBluetooth Classicと比較すると電力消費は1/10程度だ。
そのため、IoT(モノのインターネット:コンピューター以外のさまざまな"モノ"がインターネットに接続され、相互に情報をやり取りすること)の基盤として、急速に普及するようになった。
応援棒を用いたライブ演出に関しても、多数のモノ同士を接続しているという観点から、IoTと呼ぶことができるだろう。
世界200万人... 遠隔でも連動可
「夜光棒を利用した公演演出制御システム」が特許を取得してから4年。このシステムをベースとして、応援文化はさらなる進化を遂げている。
ここでは、BTSの応援棒「アミボム」を例に挙げ、その使い方と最新の動向を紹介しよう。
まず、ライブ中にアミボムを使うには、本体だけでなくスマホアプリ「BTS OFFICIAL LIGHT STICK」のダウンロードが必要となる。
このアプリの「公演モード」から座席情報などを登録すると、アプリとアミボムが連動。これによって、演出に合わせて発光したり振動したりすることが可能になる。
つまり、現在の公演演出制御システムでは、コントローラーが発信する情報を応援棒がダイレクトに受信するのではなく、スマホアプリを介して受信していると考えられる。2017年時点の仕組みからは若干変化しているようだ。
これが一般的なアミボムの使い方だが、BTSは2020年開催のオンラインコンサートにて、世界中のアミボムを遠隔連動させることにも成功した。
ライブ活動を中断せざるを得なくなったコロナ禍、彼らはライブストリーミングイベント「BTS ONLINE CONCERT WEEKEND ‘BANG BANG CON’」を開催。このとき、自社運営のコミュニケーションプラットフォーム「Weverse」にて、世界中のアミボムとライブ映像を連動させる新システムを構築した。このときも、通信方式にはBluetoothが採用されている。
韓国国内のコロナ第1波は3月上旬。そこから約1ヵ月半後にはこのシステムがリリースされ、世界中のファンが自宅でBTSのオンラインコンサートを楽しむことができた。この取り組みは、テクノロジー活用による新たなライブ体験として、メディアで「新時代の幕開け」と評された。
BTSは続けて、ライブ映像だけでなく既存のMVとも連動させることができる機能を6月に発表。アイドルの応援方法は、オンラインを強いられる世情においてもどんどん進化を続けている。
BTSやBLACKPINK、TWICEなどの活躍により、K-POPが世界の音楽市場を席巻している昨今。その成長を支えるファンダムの応援文化、その裏にあるテクノロジーの可能性について、今後とも興味深く見守っていきたい。
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▼Bluetoothを活用した開発事例
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■参考・引用資料
・Google Patent「야광봉을 이용한 공연연출 제어시스템」
・朝鮮日報「BTS '안방 콘서트', 200만 아미 연결… 비대면 공연 새 시대 열어」
・ART INSIGHT「[Opinion] '응원봉'이(가) 사용자의 휴대폰과(와) 연결하고자 합니다. [공연예술]」
・namu.wiki「한국 아이돌/응원도구」
・Monstarlab DX Blog「Bluetoothとは? 仕組みと特徴、IoTへの活用例をわかりやすく解説」
・総務省「ICTをささえる近距離無線通信技術」
TOP PHOTO:©️ Monstarlab
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