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【書籍紹介/海外文学】ポストアポカリプトの究極のかたち『ザ・ロード』(ショートバージョン)

こんにちは。
今日は、私の大好きな作品、たぶん死ぬまで忘れないだろう作品を紹介します。

『ザ・ロード』 コーマック・マッカーシー

とにかく凄まじいものを読んだな、という読後感でした。
同じ著者の『ノーカントリー・フォー・オールド・マン』も凄まじかったですが、それと全く遜色ありません。
徹底的に細部まで描写された荒廃世界、ご都合主義や「ぬるさ」の一切ない完全無欠の絶望、そのなかで、今にも吹き消されそうなほど頼りない小さな生命を守り抜こうとする父親と、その無償の愛情を良心に置き換えて世界を生き抜こうとする息子の善性。
いろいろな感情が去来し、その日は一日中世界観を引きずっていました。

この小説はいわゆるポスト・アポカリプトというジャンルで、映画だとマッドマックスや猿の惑星のような、核爆弾などによって文明が崩壊したあとの世界を描いたものです。
少し前にアマプラでドラマ化されて話題になった『フォールアウト』もそういう世界観ですよね。
ただし『ザ・ロード』の世界は、ほんの数年前に文明が滅んだばかりで、マッドマックスやフォールアウトみたいに、何百年もかけて新しい国家や共同体、秩序が生まれる前の話。
ただただ飢餓を満たすためだけに、その日一日を生き延びるだけの世界です。

主人公は40代くらいの男性。文明が滅んだ後に生まれた、まだ幼い息子(10歳くらい?)の父親で、この物語の視点人物です。
異常気象によりどんどん寒冷化が進でいるため、彼と息子は温暖な気候を求めて南へと出発します。
世界は、とにかくすべてが灰色で、太陽は薄ぼんやりとしか見えず、砂塵が舞っていて、草木は灰のように焼け落ちている。
動物はおらず、僅かに生き残った人間は飢餓に陥り、もはや他人を殺してでも食糧を得ようと争っています。
明らかに人間性を失っているのですが、この世界ではそうやって生きていく他ないと納得させられるような絶望世界です。
そんな中を、父親と息子の二人で歩いていくのです。

幼い子供が登場するからといって、世界がその厳しさを緩和させたり、ご都合主義的に食べ物や飲み物が見つかったりしないところが、この作品のすごいところです。
それどころか、道中、大切にとっておいた食料を奪われたり、襲撃されたり、容赦ありません。
それでも父親は、自身も飢餓や負傷で苦しみながらも、命に代えて息子を守ろうとし、彼のために危険を冒して食糧を確保し、何度も励ましの言葉をかけ、寝る時は楽しい物語を聞かせるのです。
いつだって息子には年相応の純真な子供でいてほしいという父親の願いが滲み出るようで、胸が締め付けられます。

そんな父親の深い愛情に包まれてきた息子は、たとえ自分が飢えていても、道中出会う飢餓に苦しむ人に、自分の食糧を分け与えようとするほど心優しい少年です。
息子のためなら殺人もいとわない父親に対して、息子は始終「殺さないで」と訴えます。
この過酷な世界では、息子の言動はときに困惑させられるほど純真で、読者はしばしば世界の邪悪さを忘れそうになります。
同時に、放っておけば死に向かっていく善意の息子を、命をかけて守りぬく父親の意志の強さに、敬服しないではいられなくなります。

マッカーシーはこの小説を、自分の息子に宛てて書いたそうですね。
残酷な物語なのですが、父親の大きな愛情を――絶対に子を守るという強い意志をこれほど感じられる作品は他に無いと思います。
父親としてのマッカーシーの覚悟を垣間見るようで、あるいは最上の形の愛を目撃するようで、不思議に心あたたかい気持ちにさせられました。
こんな読後感は初めてです。

ちなみに映画化もされてるみたいです!

結構良さそうですね。

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